他生物と共生した根
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 06:58 UTC 版)
9a. 菌鞘に覆われている外生菌根. 9b. アーバスキュラー菌根は外見的な特殊化は見られない. 写真では根から伸びる菌糸と胞子 (褐色の球) が見られる. Clip 9c. a. ラン型菌根菌のペロトン. b. アーバスキュラー菌根菌の樹枝状体. c. 根の細胞 (大型で液胞で占められた細胞) の間隙を占める外菌根菌のハルティッヒネット断面. 9d. ミヤコグサ属 (マメ科) の根粒. 9e. ダイズ (マメ科) 根粒内の根粒菌 (濃色部). 透過型電子顕微鏡像. 9f. ヨーロッパハンノキ (カバノキ科) のハンノキ型根粒. 9g. ナンヨウソテツ (ソテツ科) のサンゴ状根. 根はふつうは地中にあり、他生物と密接な共生関係を築いている例が多い。根は特に根冠や根毛を通じて有機物 (光合成産物の20%にも達することもある) を土壌中に分泌・放出しており、根の周囲に特異な環境を形成している。このような環境は根圏 (rhizosphere) とよばれ、さまざまな微生物が植物と共生関係を結んで生育している。また下記のように、ほとんどの維管束植物は根において菌類と直接的に共生して菌根を形成しており、さらに窒素固定を行う生物と共生して特異な構造を形成している例もある。 菌根 (mycorrhiza, pl. mycorrhizae) (→詳細は「菌根」を参照)維管束植物のほとんどは根において菌類 (菌根菌、mycorrhizal fungus) と共生し、菌根を形成している。ただし水生植物やウラボシ科、アブラナ科、ヒユ科、ナデシコ科、タデ科などでは菌根をもたない種が比較的多く知られている。菌根の形態や菌根菌のグループにはさまざまなタイプが知られており、それに応じて外生菌根 (外菌根; 右図9a, 9c-c)、アーバスキュラー菌根 (右図9b, 9c-b)、ツツジ型菌根 (エリコイド菌根)、イチヤクソウ型菌根 (アルブトイド菌根)、シャクジョウソウ型菌根 (モノトロポイド菌根)、ラン型菌根 (右図9c-a) などに類別されている。この中ではアーバスキュラー菌根が最も普遍的であり、進化的にも最も祖先的な菌根であると考えられている。根が合成する植物ホルモンであるストリゴラクトンは、アーバスキュラー菌根菌を根に誘引する。菌根菌が根の表層や細胞間隙に菌糸を張り巡らせるものや、植物細胞内 (正確には細胞壁と細胞膜の間) に侵入して栄養交換用の構造を形成するものがいる (右図9c)。菌根菌の菌糸は根毛よりも細く、遥かに長く土壌中に張巡らされており、より効率的に無機養分や水を吸収し、これを植物に供給している。また菌根菌は、植物に病害や乾燥ストレスに対する耐性を付与することも知られている。一方、植物は菌根菌に有機物を与えており、菌根菌との間に相利共生関係が築かれている。ただし植物の中には、自らは光合成せずに有機物も菌根菌から得ている例がある (腐生植物 = 菌従属栄養植物、菌寄生植物)。また菌根菌は、異種間を含むさまざまな植物の根をつなぎ (菌根菌ネットワーク)、その間で糖などの物質転送が起こっていることが知られている。 根粒 (根瘤、root nodule) (→詳細は「根粒」を参照)マメ科の植物では、根に根粒菌と総称される窒素固定能をもつ細菌が共生し、根粒とよばれる粒状の構造を形成する (右図9d, e)。根粒菌は窒素化合物を供給し、植物は有機物を供給する相利共生関係が築かれている。マメ科植物と共生する根粒菌はプロテオバクテリア門に属するが、マメ目に比較的近縁なバラ目 (グミ)、ブナ目 (ヤマモモ、ハンノキ、モクマオウ)、ウリ目 (ドクウツギ、ナギナタソウ) の中には、窒素固定能をもつ放線菌のフランキア属と共生して根粒を形成するものが知られている。このような植物はアクチノリザル植物 (actinorhizal plant)、形成される根粒は放線菌根 (actinorhiza) やハンノキ型根粒ともよばれる (右図9f)。マメ目、バラ目、ブナ目、ウリ目は単系統群を形成しており、この系統群は窒素固定クレードとよばれる。根粒形成の機構は、アーバスキュラー菌根形成の機構をもとにしたものであることが示されている。 サンゴ状根 (coralloid root) (右図9g)ソテツ類 (裸子植物) は、根の一部が負の重力屈性 (背地性; 上方に生長する性質) を示し、サンゴ状根とよばれる特殊な根を形成する。この根にはネンジュモ属 (Nostoc) のシアノバクテリア (藍藻) が共生している。ネンジュモ属は窒素固定能をもち、窒素化合物をソテツ類に供給する。ソテツ類はさまざまな毒素をもつことが知られているが、そのうち BMAA (β-methylamino-L-alanine) はソテツ類自身が生成したものではなく、共生藍藻が生成したものであると考えられている。
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