ミラー対称性のアイデア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/12 05:10 UTC 版)
「ミラー対称性 (弦理論)」の記事における「ミラー対称性のアイデア」の解説
物理学では、弦理論は、その中では素粒子を点状の粒子とは考えずに、弦(英語版)と呼ばれる 1次元の対象で置き換えた理論的フレームワーク(英語版)(theoretical framework)である。これらの弦は通常の弦のループや小さな区分のように見える。弦理論は、どのように弦が空間の中を伝搬するか、互いに相互作用するかを記述する。弦のスケールよりも大きな距離スケールでは、弦は通常の粒子のように見え、質量や電荷を持ち、弦の振動状態によりきめられる他の性質を持っている。弦が分裂したり結合したりすることには、粒子の輻射や吸収が対応し、粒子の間の相互作用を惹き起す。 弦理論の記述する世界と日常の世界の間には、確かに差異がある。日常生活では、3つの空間次元(上下、左右、前後)と、1つの時間次元(以後以前)が存在する。このように、現代物理の言葉では、時空は4次元である。 弦理論の特別な有様の一つに、数学的な整合性のために時空の余剰次元(extra dimensions)を要求される。超弦理論である超対称性と呼ばれる理論上の考え方と両立する理論のバージョンでは、毎日の体験の中で慣れ親しんでいる4次元に加えて、6次元の時空の余剰次元がある。 弦理論の現在の研究の目標のひとつは、高エネルギー物理実験で観察される粒子を、弦が再現するようなモデルを構成することである。観察と整合性を持たせるためには、そのような時空の次元は4である必要があるので、通常の距離スケールでは弦理論の余剰次元を消し去る方法を見つけなくてはならない。弦理論を基礎とする最も現実的なモデルでは、コンパクト化と呼ばれる過程を通して行われる。コンパクト化の考え方は、弦理論の特定の次元が円をなして自分で「閉じている」ようなものかもしれない。次元が巻きあがっている極限では、非常に小さくなり、有効理論ではより低い次元となっている理論を得る。このことの標準的な類似物は、庭のホースのような多次元の対象を考えることである。ホースを充分に遠い距離で見ると1次元となり、長さしか持っていないように見える。しかし、ホースに近づくにつれ、第二の円周という次元を持っていることが分かる。このようにして、ホースの表面を這う蟻は2次元的に動くことができる。 コンパクト化は、時空の有効次元が4次元となるようなモデルを構成することに使うことができる。しかし、余剰次元をコンパクト化する全ての方法が、自然を記述する良い性質を持つモデルを作り出すとは限らない。素粒子物理学で確認できるようなモデルを構成するためには、コンパクトな余剰次元はカラビ・ヤウ多様体の形をしている必要がある。カラビ・ヤウ多様体は複雑な(典型では)6次元の形をしていて、あるテクニカルな条件を満たす。それらは、数学者のエウジェニオ・カラビ(Eugenio Calabi)とシン=トゥン・ヤウ(Shing-Tung Yau)の名前から命名された。 1980年代後半、弦理論のそのようなコンパクト化をすると、対応するカラビ・ヤウ多様体が一意に再構成されることが可能ではないことが分かった。代わりに、2つのカラビ・ヤウ多様体が同じ物理を持つことが発見された。 これらの多様体はたがいに「ミラー」といわれる。全部の双対性はいまだ予想でしかないが、位相的弦理論の脈絡でのミラー対称性のバージョンがある。位相的弦理論はエドワード・ウィッテン により導入された簡素化された弦理論のバージョンであり、このバージョンは数学者により厳密性(en:mathematical rigor)を持っている 。位相的弦理論の脈絡では、ミラー対称性は、2つの理論、A-モデルとB-モデルがある正確な意味で等価であることを主張する。 弦理論のこれらのカラビ・ヤウコンパクト化が自然の正しい記述をもたらすかどうかは別として、異なるカラビ・ヤウ多様体の間のミラー対称性関係の存在は、重要な数学的結果である。 弦理論に使われるカラビ・ヤウ多様体は純粋数学的には興味深く、ミラー対称性は、ミラーカラビ・ヤウと同等な問題を解くことで数え上げ代数幾何学の多くの問題を数学者が解決できるようにした。 今日、ミラー対称性は数学の研究の活発な領域であり、数学者たちは今も物理学者の直感に基づくミラー対称性の数学的理解を深めようと努力している。
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