フランスへの影響
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「マルティン・ハイデッガー」の記事における「フランスへの影響」の解説
ハイデッガーのフランスでの影響は甚大であり、多数のフランス現代思想家、ポスト構造主義哲学者が深い影響を受けている。 1938年、アンリ・コルバン (Henry Corbin)はハイデッガーの著作「形而上学とは何か」をフランス語に初めて翻訳した。1976年、アンリ・コルバンはラジオ・フランスの番組フランス・キュルチュールでのインタビューで自らのイスラーム哲学研究はハイデッガーの解釈学に多くを負っていると述べている ハイデッガーの現象学はフランスの実存主義哲学者のジャン=ポール・サルトルに大きな影響を与えた。サルトルはフォークナーの小説の時間構造について、ハイデッガーの時間性を基に書いた方が面白いいし、私はそれをやろうとしていると書簡で述べている。また自らの哲学について、ハイデッガーが歴史性について10ページ程で書いていることを敷衍しているにすぎないかもしれないと述べ、1940年2月には戦中日記においてサルトルにとってハイデッガーは天佑であり、歴史性と本来性の二つの用具がなければどれほど時間がかかったかわからないと書いている。サルトルは『存在と無』を1943年に発表した。サルトルが著作でハイデッガーを引用していたため、ナチス信者であると誹謗されたこともあった。またサルトルはハイデッガーの哲学は実存主義であるとしたが、しかし、ハイデッガー自身は、前期・後期を通じて一貫して実存哲学者とか実存主義者とよばれるのを拒否したとされる。またサルトルが「実存は本質に先行する」と述べたのについてハイデッガーは『ヒューマニズムについて』において、サルトルの命題はプラトン以来の形而上学での「本質は実存に先行する」という命題を逆転させたものだが、やはり形而上学的命題にとどまっているし、『存在と時間』で掲げた命題とは寸毫も共通するところがないと評した。サルトルの友人エマニュエル・レヴィナス、モーリス・メルロー=ポンティもハイデッガーの影響を受けている。 ジョルジュ・バタイユはハイデッガーを批判しながら影響を受けた。フランスに亡命したロシアの哲学者アレクサンドル・コジェーヴやモーリス・ブランショもハイデッガーに影響を受けている。 ギリシア出身のマルクス主義者コスタス・アクセロス(Kostas Axels)はジャン・ボーフレとともに1957年、ハイデッガーの「形而上学とは何か」をフランス語訳した。アクセロスは1966年、「マルクスとハイデッガー」を発表し、ハイデッガーの『ヒューマニズムについての書簡』でのマルクスへの言及から著述を開始している。同じくマルクス主義者のルイ・アルチュセールも影響を受けており、アルチュセールはエピクロス−スピノザ−マルクス−ニーチェ−ハイデッガーを唯物論の系譜としたり、ハイデッガーの存在論的反人間主義に影響を受けて、「理論的反人間主義」を批判した。アルチュセールは「ハイデッガーによって、空虚が決定的な哲学的重要性を持つことが再度明らかになった」「この空虚によって事実性は底を失い、解きほぐされる。こうして空虚は超越論的偶然性を証明する。」と論じており、自伝『未来は長く続く』においてもアルチュセールはハイデッガーを尊敬している。デリダによれば、アルチュセールは常にハイデッガーに魅惑されており、アルチュセールにとってハイデッガーは対抗者としても、また本質的または実質的な依存先としても、20世紀における避けることのできない偉大な思索者であった。 ジャン=リュック・マリオンもハイデッガーに影響を受けた。ジル・ドゥルーズは1968年の『差異と反復』でハイデッガーの存在論的差異を「襞」として、しかしハイデッガーはなお同一性を保持していると批判している。またアルフレッド・ジャリのパタフィジックを「ハイデッガーの先駆者」として論じた。ミシェル・フーコーはハイデッガーは「私にとって常に本質的な哲学者だった」と述べている。ハイデッガーによる形而上学の解体はジャック・デリダの脱構築に深い影響を与え、後続世代のフィリップ・ラクー・ラバルト、カトリーヌ・マラブーなどにも影響を及ぼし、フランスにおけるハイデッガー研究は脈々と続いている。ライナー・シュールマンは1982年に『アナーキーの原理:ハイデッガーと場所の問い』を刊行した。ジャン・グレーシュは1994年に『存在と時間』注解を刊行した。ベルナール・スティグレールは『技術と時間』をハイデッガーの影響のもと書いた。
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