セレマ思想の多様性
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セレマの教義の中核は、「汝の意志することを行え」である。しかし、これを越えて非常に広範囲なセレマ解釈が存在する。現代のセレマはひとつの諸教混交的な哲学にして宗教である。セレマに重大な影響を与えているものの一つはアジア仏教とタントラの伝統である。それはまた逆転した異端的キリスト教(主にグノーシス主義)の要素を持ち、左道と考えられている(注:もっとも、クロウリーは著書の中でこの言葉を違った意味に用いている)。 多くのセレマイトは極端に教条的または原理主義者的な考え方を避けている。クロウリー自身はそれぞれの個人に備わっている意志の唯一無二の本質を次のように強く強調している。 私のヴィジョンを他の人に伝えることは、他の人が私に伝えるようにはできない、ということは認めざるをえない。私はそれを残念には思わない。私とだいたい同じような方法で達成できる探究する価値のある何かが疑いようもなく存在するという真実を求める探求者たちに、私の得た成果が確信を与えることができさえすればそれでよい。私は群れを作り出したり、愚者や狂信者の崇拝物になったり、信者が私の意見をおうむ返しすることで満足する信仰の創始者になったりすることを望んでいない。私はそれぞれの人がジャングルの中で自分の道を切り開くことを望んでいる。 したがって現代のセレマイトは、ディスコーディアニズム、ウイッカ、グノーシス主義、サタニズム、セティアニズム、ルシフェリアニズムなど、二つ以上の宗教を実践している場合もある。多くのセレマ信者は(クロウリー自身がその最たる例だが)セレマと他の霊的思想体系との相関関係を認識している。つまり多くの人は錬金術、占星術、カバラ、タントラ、タロット、ヨーガなどの他の伝統の方法と実践を自由に取り入れている。例えばヌイトとハディートは、道家の道と徳、ヒンドゥー・タントラのシャクティとシヴァ、仏教の空と菩提心、カバラのアイン・ソフとケテルに対応するものと考えられている。 A∴A∴やOTOなど、本来のクロウリーの体系に忠実であると主張している団体もあるが、近年、OTOのアメリカ合衆国のグランドロッジの現グランドマスターは、裏付けとなる論拠なしに「聖ラブレーは風刺や小説という道具立てを使って現実の人間社会に役に立つ青写真とするつもりはなかった」と主張し、「ラブレー的セレマ」を「無益な気晴らし」として退けた。この意見はすぐに論駁された。 ソロール・ネマ(後述)、ケネス・グラント、 アマド・クロウリーなど、自分たちはセレマイトであると考えている他の団体や人物は、クロウリーの体系はセレマの顕現の可能性のひとつにすぎないとして独自の体系を作った。それらの中には、ある意味では『法の書』を受け入れているが、それ以外のクロウリーの“霊感を受けた”書物や教えを認めていない団体や個人もある。また、クロウリーの魔術技法、倫理、神秘主義、宗教思想など、彼の全体的な体系の特定の面のみを採用し、その他は無視している団体や個人もある。 1928年にドイツで創設された土星同胞団(en:Fraternitas Saturni)はセレマの法を採用したが、これを拡大適用して "Mitleidlose Liebe!" (思いやりのない愛)という言葉を提唱した。また、ドイツに拠点のある「セレマ協会」(The Thelema Society)は、『法の書』とクロウリーの多くの魔術を採用すると同時に、フリードリヒ・ニーチェ、チャールズ・サンダース・パース、マルティン・ハイデッガー、ニクラス・ルーマンといった他の思想家の考え方を取り入れている。 アメリカでは、マギー・インガルズ(ソロール・ネマ)の著書が、1979年に創設されたホルス=マアト・ロッジという団体とともに「マアト魔術」と呼ばれる潮流を引き起こした。この潮流はクロウリーのセレマの本質的な要素と、ネマの霊界通信文書 Liber Pennae Praenumbra において打ち立てられた、エジプトの女神マアトに基づく体系とを統合したものである。ホルス=マアト・ロッジは、現在のホルスのアイオンと次のマアトのアイオンとを結びつけ、人類の統合された心を覚醒させ、人類が調和を達成することを目指している。 また、他の団体の中にもセレマイトがいる。ネオペイガン団体、全世界の教会(Church of All Worlds)の会長、ラサラ・ファイヤーフォックスはセレマイトであり、性魔術師である。他にも少数派ながら相当数のCAWの会員がセレマイトであることを認めている。
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