クルーズ船のデザイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/30 01:32 UTC 版)
「クルーズ客船」の記事における「クルーズ船のデザイン」の解説
1950年代までの外国航路時代の大型客船、例えば現在、横浜港に展示してある「氷川丸」のような船は、スラリとした船型が特徴であった。これは大洋を横断する定期航路に就航する客船は、荒天時の耐候性を考慮しなければならないからである。 海外旅行の主役を旅客機に譲り、目的地へ早く移動するためではなく、目的地まで行く過程を楽しむのが目的となった。クルーズ客船には高速性の要求は低くなり、一層居住性が重視されるようになった。クルーズ観光の対象となる主な海域(カリブ海・地中海・アラスカ沿岸など)は、海象が穏やかである事も影響している。 こういった船は、船というよりはホテルに舳先をくっつけたように、多数の客室を高くそびえる壁面に並べ、船体ぎりぎりまで上部構造物が乗っている特徴的なシルエットになっている。また、昔に比べてベランダの数が増えているのが特徴で、ベランダを設けていない船でも改造工事によって増設している。 ただし、水線下の形状や機関形式は経済性を追求するため徹底的に研究・改善されており、同じトン数・同じ速力ならば現在のクルーズ客船の方がかつての大型定期航路客船より必要な機関出力は小さいと言える。 現代のクルーズ客船と、かつての定期航路客船の航洋性の差を示すものとして、キュナードのクイーン・ヴィクトリアがその処女航海で北大西洋上をクイーン・エリザベス2と同速力で並走した際の動画が、YouTubeなどで参照可能である。明らかにクイーン・エリザベス2の方が船首波が小さく凌波性が良好である。 クイーン・ヴィクトリア クイーン・エリザベス2 真っ白でファンネルで個性をつけているのが標準的なクルーズ客船だが、キュナードやHALのように下半分を濃紺に塗り分けていたり、ノルウェージャン・クルーズラインのハワイ路線のように特別なペイントを施している場合もある。 また、ロイヤルカリビアンのような煙突周辺に巨大な構造物があったり、カーニバルのようにT字型のファンネルをつけているものもある。 ロイヤルカリビアンのヴィジョン・オブ・ザ・シーズの煙突まわりの造形 en:Carnival LegendのT字型ファンネル en:Carnival Sensationのファンネル 大きな船体では、波浪による揺れの影響が小さくなり快適な旅が提供できて、共同で使う施設も大規模で豪華なものが搭載できる。また乗客数を増やせば利益の向上も見込めるため、カーニバルのファンタジー級の成功から船体規模は増大の一途をたどり、最大級のオアシス・オブ・ザ・シーズにいたっては20万総トンを突破している。 ただし、現在のパナマ運河の通航が可能な最大船型は全長294m・全幅32.2m・最大高57.91mであるため、安定性の限度までキャビンを積み上げた場合でも、9万総tをやや超える程度が通航可能上限の大きさとなる。 しかし、パナマ運河を通航できるという事は配船上の利点となるため、超10万総トン級と平行して、現在でもパナマ運河を通過できるパナマックスタイプの船も合わせて作られている。一昔前までは7万トンが総トン数の限界とされていたが、これは建造技術というよりは客船の建造設備や港湾設備の整備状況によるものであった。双方の拡張が進んだ2009年現在、22万総トン(満載排水量約10万t)のクルーズ客船が就航している。 従来では、それほど問題とならなかった風圧による操船への影響が、上部構造物の拡大によって顕著となり、同じく巨大化した自動車運搬船のように前後を丸くすることで、風の抵抗を最小限にするよう考慮されている。風浪による影響が最も大きくなるのが岸壁への着岸時であるが、近年のクルーズ客船の多くは、推進軸を90度以上変更できるポッド型電動推進器を装備しており、これとサイドスラスターとの併用により、離着岸時の操船性を高めている。 カーニバルクルーズが、7万総トン級のファンタジー級を8隻揃建造して運用し経営上大きな成功を収めたことから、同型船を大量に配備することが普通になって、船ごとの個性というものが薄れている。 また、クルーズ会社の合併吸収によって、同じタイプの船を傘下の各ブランドで運用することも行われている。例えばカーニバルクルーズのカーニバル・スピリット級、コスタクルーズのコスタ・アトランティカ級、HALのザイデルダム級はすべて同じ基本設計の船である。こういったことから、クルーズ会社ごとの独自色も失われつつあるがMSCクルーズは設計を独自に行っていることから他クルーズ船社とは一線を画している。
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