イコモスの勧告と登録に向けた動き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 23:01 UTC 版)
「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の記事における「イコモスの勧告と登録に向けた動き」の解説
推薦書提出を受けて、2014年9月26日から10月5日までユネスコ諮問機関のイコモスの現地調査が行われた。2015年6月28日から7月8日に開催される第39回世界遺産委員会に先立ち、イコモスは2015年5月4日に「登録」(記載)を勧告し、登録が確実視されることとなった。イコモスは「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」への名称変更も提案したが、これは事前の打診に対して日本が同意したものであり、産業全体ではなく重工業に限定された物件であることを明記する意図による。 韓国の尹炳世外交部長官は、「九州・山口の近代化産業遺産群を世界遺産に登録することは世界遺産登録の基本精神に反する」として以前から登録に反対を表明していた。構成資産のうち、長崎造船所や端島炭坑など7つの施設で第二次世界大戦中に多くの朝鮮人が徴用され、多くの犠牲者を出したというのが主な理由であり、全23施設のうち7施設の申請撤回を求めた。また、中国外交部も韓国の働きかけに応じ、中国人が働かされた施設があるとして登録反対を表明した。これに対し日本の岸田文雄外相は、この遺産群の対象年代は1850年代から1910年であり、徴用が行われた年代とは異なると反論した。 韓国は21か国で構成される第39回世界遺産委員会の委員国に含まれており、委員会審議での紛糾も予想され、イコモスの登録勧告が行われた2015年5月以降、日韓両政府は協議を行なった。韓国は、勧告の文言にある「各施設の全体の歴史を理解できるようにする」という点から、「全体の歴史」には1940年代の徴用も含まれるという解釈を示し、強制徴用の説明を展示に加える措置をとることを妥協案として提示した。 2015年6月21日、尹外交部長官は訪日して岸田外相と会談を行い、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録について協力する方針を示した。日本の政府関係者によると、日本側は歴史的な事実関係の範囲内で明示すると説明し、韓国側に一定の配慮をみせたという。また、韓国も「百済歴史地区」の世界遺産登録を目指しているので、岸田外相は「(両国は)ともに協力し、両案件が登録できるよう協力することで一致した」ことを明らかにした。 その合意は委員会での韓国側の発言内容に踏み込むものではなかったが、6月下旬に日本側の要求によって開示された韓国側の委員会発言案には「強制労働」(英語: forced labor) の文言があった。この語は国際法でも強制労働を指す言葉として使われているため、日本側は反発し、首相周辺からはナチスの行為と同一視されることを懸念する声も出た。韓国は世界遺産委員会開会後に、一時は決議案そのものに「強制労働」を明記することまで求めるなど態度を硬化させたが、その背景には韓国国内の世論の存在が指摘されている。 一方で、国内でも外務省が「政治問題化する可能性があるので明治後期の遺産を外してくれ」、文部科学省からも「明治後期は(その価値について検定教科書で触れていないので)教科書問題になるから外してくれ」との依願があったことを、登録推進の中心的役割を果たした加藤康子内閣官房参与はインタビューで答えている。
※この「イコモスの勧告と登録に向けた動き」の解説は、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の解説の一部です。
「イコモスの勧告と登録に向けた動き」を含む「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の記事については、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の概要を参照ください。
- イコモスの勧告と登録に向けた動きのページへのリンク