にせ幽霊
*関連項目→〔霊〕
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「贋幽霊」 八丈島へ遠島になる罪人たちの中に、55歳の女がいた。女は、築地の大火の後、にせ幽霊となって盗みをはたらいた。夜、白衣をまとい、衣の腰から下を黒く染めて、ちらりちらりと人前に出る。背中に幅広の黒い板を負って逃げ去るので、人目には、消え失せたように見える。こうして多くの人々を欺き、皆が恐れて逃げたあと、家財を奪ったのである(『甲子夜話』続篇・巻41)。
『品川心中』(落語) 金に困った品川の女郎お染が、貸本屋の金蔵を道連れに心中する。金蔵が海に飛びこんだ直後に、「金ができた」との知らせがあったので、お染は心中を取りやめて帰る。海から這い上がった金蔵は、幽霊のふりをしてお染をこわがらせ仕返しする。
『武悪』(狂言) 主が太郎冠者に命じて、職務怠慢の召使・武悪を成敗させる。しかし太郎冠者は武悪を逃がし、主には「武悪を討ちました」と報告する。武悪は、命が助かったお礼参りに清水の観音へ詣でる。思いがけずそこで主と出くわしたので、武悪は幽霊のふりをする。武悪は「いっしょに冥途へ連れて行く」と言って主を脅し、主は「許いてくれい」と悲鳴を上げて逃げる。
『幽霊』(江戸川乱歩) 辻堂老人は自らの葬式をして、死んだかのごとく見せかけ、その後に、恨み重なる会社重役平田氏の前に姿を現す。平田氏は「幽霊にとりつかれた」と思って、恐れる。明智小五郎が、幽霊の出現場所が屋外に限られ、平田氏の屋敷内には現れないことに気づき、「生きている辻堂老人が平田氏を脅かしているのだ」と察知する。
『エプタメロン』(ナヴァール)第4日第9話 グリュノー侯が2年ぶりに家に帰ると、「幽霊が出るから」といって奥方が近在の領地に移っていた。グリュノー侯は、夜、幽霊を待ちうけてこれを捕らえる。幽霊のふりをしていたのは小間使いで、グリュノー侯夫妻を脅して追い出し、恋仲の下僕とともに家を乗っ取ろうとしたのだった。
『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』(鶴屋南北)「四谷鬼横町の場」 四谷鬼横町の長屋の家主・弥助は、新しい店子(たなこ)が家へ入ると、その晩に幽霊の格好をして現れ、店子を脅す。店子はこわがって、翌日には他所へ引っ越して行く。それでも弥助は「長屋の決まりだから」と言って、1ヵ月分の店賃(たなちん)を取り上げる。笹野屋三五郎と小万が越して来た晩も、弥助は幽霊となって脅す。しかし三五郎も小万もまったく恐れず、つかみ合いの喧嘩のあげくに、幽霊の正体を暴いた。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)3編下「浜松」 弥次郎兵衛・喜多八は、「宿の女将の幽霊が毎晩出る」と聞いて恐れ、厠へも行けない。雨戸を開けて用を足そうとすると、庭に白いものが浮かぶので、幽霊と思い悲鳴をあげる。それは襦袢が干してあるのだった。
『開いた窓』(サキ) フラムトンは神経衰弱の療養のため、田舎の親戚の屋敷を訪れる。姪が「3年前の今日、伯父とその2人の義弟があの開いた窓から猟に出かけ、沼に呑み込まれた」と作り話をする。夕方、伯父たちの帰って来るのが窓の向こうに見える。フラムトンは、「幽霊だ」と思いこんで逃げ去る。
『殉職』(星新一『悪魔のいる天国』) 幽霊が1人の男の前に出現するが、男は「何だ、またか。アルコールが切れると朝から幻覚と幻聴だ」と、平然としている。幽霊が「おれは本物だ」と教えても、男は「アル中が進行したらしい。これを消すには、もう少し飲まねばならん」と言う。
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