初夜
『東海道四谷怪談』(鶴屋南北)「浪宅」 民谷伊右衛門は妻お岩を捨て、伊藤喜兵衛の孫娘お梅の婿になる。お岩は毒を盛られて、憤死する(*→〔妻殺し〕3)。新婚初夜の床。伊右衛門はお梅の身体を抱き寄せる。その時お梅の顔がお岩に変わり、恨めしげに伊右衛門を見つめて笑う。驚いた伊右衛門は刀を抜き、お岩の首を打ち落とす。しかし打ち落とされた首を見ると、それはお梅だった。
『日本霊異記』中-33 富家の美しい娘万子(よろづのこ)に、1人の男が多くの品を送り求婚する。2人は閨に入るが、その夜、閨の内で「痛や」という声が3度あがる。万子の父母は、「まだ性交に慣れぬから痛むのだろう」と誤解し、助けに行かず寝てしまう。翌朝、閨の戸を開けると、万子の身体は頭と1本の指だけを残し、すべて食われていた。
『酉陽雑俎』続集巻2-893 通行の人に湯茶を提供していた百姓王申は、1人の旅の女に好意を持ち、13歳になる息子の嫁に迎える。その夜、王申の妻が、息子が「食われてしまう」と叫び訴える夢を見た。妻は夫とともに寝室の扉を開けて見る。中から怪物が飛び出し、息子は脳骨と髪が残っているだけだった。
*新婚初夜の花嫁を誘拐する→〔誘拐〕5の『ルスランとリュドミラ』(プーシキン)第1歌。
『雨月物語』巻之4「蛇性の婬」 美青年・豊雄は、蛇性の真女子(まなご)から逃れ(*→〔雨宿り〕3)、もと采女であった富子と結婚する。初めの夜は何事もなくすぎたが、2日目の夜、豊雄にむかって富子が「古き契りを忘れ、このような人を寵愛なさるとは」と言うその声は、まぎれもなく真女子の声であった〔*道成寺の法海和尚が真女子を調伏するが、富子は病んで死んでしまった〕。
『本陣殺人事件』(横溝正史) 大地主一柳家の当主賢造は、神経質で潔癖症だった。彼は、婚約者が処女でなかったことを知り、そのような女を妻とすることに堪えられず、祝言の夜に花嫁を殺して自殺する。しかも彼は自殺の理由を隠すため、自身が賊に殺されたかのような状況を作り上げる→〔死因〕2a。
『哀蚊(あわれが)』(太宰治) 一生独身だった婆様は、幼い「私」をかわいがり、「私」はいつも婆様の部屋にいた。ある秋、「私」の姉様が婿養子をとった祝言の夜、婆様は「私」に哀蚊の話をした。「秋まで生き残されてる蚊を哀蚊と言うのじゃ・・・・・・。なんの、哀蚊はわしじゃがな」。「私」は夜中に目覚め、廊下の遠い片隅に幽霊を見た。幽霊は白くしょんぼり蹲(うずく)まって、姉様と婿様が寝ている部屋をのぞいていた。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)4編上「赤坂」 弥次郎兵衛と喜多八が泊まった宿で、ちょうどその夜、亭主の甥の婚礼があった。弥次郎兵衛・喜多八は、ふすまを隔てたすぐ隣が新婚夫婦の閨なので、隙間からのぞこうとするうちに、ふすまが倒れてしまう。弥次郎兵衛はすばやく自分の寝床へ逃げ戻り、喜多八は「手水(ちょうず)へ行くつもりが、寝ぼけて方向を間違えました」と、花婿に謝ってその場をごまかす。
★5.第二の初夜。
『初夜』(三浦哲郎) 「私」は心優しい娘・志乃と結婚したが、新婚初夜に避妊した。「私」は兄・姉たちの不幸な運命を思い(*→〔末子〕1の『忍ぶ川』)、自分の中にも宿命的な因縁の血が流れているのではないか、と恐れた。その危険な・病んだ血を、子供に与えることがこわかったのだ。2~3年して父が病死した。兄・姉の場合とは異なる、父の尋常平凡な死に方は、「私」を安堵させた。「私」は慎重に日を選んで、志乃との第2の初夜を迎え、志乃は「私」の子を身ごもった。
★6.初夜権。花婿・花嫁の結婚に際して、まず最初に領主(あるいは族長・呪術師など)が花嫁と寝所をともにし、それがすんでから花嫁を花婿に引き渡す。
『フィガロの結婚』(モーツァルト) アルマヴィーヴァ伯爵は、封建的な風習である初夜権を廃止して、領民たちを喜ばせる。しかし伯爵はすぐにそれを後悔し、従僕フィガロと侍女スザンナの結婚に際して、初夜権の復活をもくろむ。いったん廃止宣言した初夜権を大っぴらに行使することは、さすがの伯爵にもできず、伯爵はスザンナを口説き、2人は夜の庭園で逢引きすることになる→〔妻〕8。
初夜と同じ種類の言葉
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