『あさま山荘事件』犯人逮捕のスクープ裏話
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「長野放送」の記事における「『あさま山荘事件』犯人逮捕のスクープ裏話」の解説
1972年2月28日、長野県北佐久郡軽井沢町で起きた連合赤軍あさま山荘事件で、フジテレビと協力して犯人逮捕→連行の模様を生中継するという報道史上に残る快挙を達成したが、これは、当時のNBSのテレビ中継車が未だにカラー化されずモノクロであった状況が逆にプラスに作用した。その時の模様の一部は、後にNHK-BS2の「BSスペシャル 青春TVタイムトラベル 第2回『1972年2月28日 テレビの一番長い日〜ニュース映像の衝撃 連合赤軍浅間山荘事件に関係したTVマンたちの一日』(1992年10月31日放送)」でもNHK及び民放各局(長野のNBS、SBCも含む)の当時のVTRを始めとする映像と一緒にまとめて紹介され、その際そのスクープ映像のVTRも一緒に放送された。(あさま山荘事件#エピソードの項も参照) 当時、系列キー局の大半が全番組のカラー化を完了していたが、当時の地方局のカラー化の事情については、地方局がどの系列局に属するか、また、放送局の事情などでも、大きな違いがあった。 信越放送(SBC)は、1958年にテレビ放送を開局した長野県の老舗の民放であり、ニュースネットワークはTBS系のJNNで、同組織の方針も手伝い、カラー中継車を始めとするカラー放送設備も既に完備していた。 しかしNBSは、1967年のUHF第1次チャンネルプランに基づき1969年に開局したテレビ局で、NBSを含めこの頃から相次いで開局した地方の民放UHFテレビ局のほとんどは未だにカラー中継車を導入しておらず、モノクロの中継車しかなかった。 この事件の生中継でも、NHK及びSBCは当然カラー中継で、NBSはその点では不利な状況に置かれていた。しかし、NBSは、ニュースネットワークが開局時からフジテレビ系列のFNNのみであることが、この事件の報道に於いて最終的にはスクープ映像を生み、功を奏した結果となったのである。 事件当日、既にNBSはFNNとしての報道取材の協力体制を確立し、テレビの生中継はメインをフジテレビが自社のカラー中継車で行うこととし、NBSではフジテレビが放送している事件の模様の生放送を、放送回線(当時は電電公社の放送専用のマイクロ波回線)を通してそのまま放送する状況だった。しかし、当時はカラー放送が普通である時代に入っていた為、フジテレビ・FNNではNBSのモノクロ中継車の扱いをどうするのかが問題となっていた。一方で当時のカラーカメラは、普通、モノクロカメラの最低約2倍もの照度がなければ映像として映し出すことができない性能であり、それはその裏を返せば「モノクロならば映し出すことができる照度が、カラーのそれより低い」ということになり、その点においてはモノクロカメラにまだ分があった。そんな中、既にフジテレビでは当時モノクロのハンディー型の高感度カメラを所有していたため、後の犯人が連行される現場にそのカメラとNBSのモノクロ中継車を配置する判断がなされ、決行。そして18時過ぎに犯人連行の瞬間の模様を撮影し、それがフジテレビ・FNNを通じ全国に生放送された。 その時の判断を記す文献が、NBSが1989年に発行した社史「長野放送二十年の歩み」に掲載されており、「(前略)犯人逮捕が夕方になると判断した中継スタッフは日照時間を調べカラー放送は無理と判断、そこにちょっとした偶然が重なった。というのも、長野放送は当時カラー化を進めていたが、その現場に出ていた中継車はまだ白黒用だった。・・・」という一文が書かれている。 更に、前述のNHK-BS2の「青春TVタイムトラベル」の中では、スクープを撮影した当時のフジテレビのカメラマンの証言が放送され、それによると配置された後、長い時間、下にいるスタッフに足を抱えられながら持ち上げられて、前に述べた当時としては小型(と言っても、後の放送用のHDV規格の一体型カメラに比べれば約一回りも大きい)のハンディーカメラを抱え続けながら長時間待ち続けて、スクープ撮影に成功したのだという。 一方、当時唯一のライバル局のSBCは、すでに自社送出番組のカラー化を完了しており、カラー中継車をフルに使うなどものすごい意気込みで事件報道に取り組んでいたが、NBSが快挙を達成した日にはカメラマンが銃撃されて負傷、挙句の果てには犯人逮捕→連行の瞬間も逃すという大失敗に終わった。 2001年に発行された同社の社史「信越放送の50年」には「(前略)残念だったのは現場に中継用の(カラー)高感度カメラがなく、生中継で写せなかった事である。」とあり、NBSとフジテレビが協力して行ったスクープがいかに歴史的なものだったかの証明になっている。 一方、スクープの撮影・生放送を行ったフジテレビでは、これを機に、報道に力を入れるようになったと当時フジテレビ職員であった日枝久が、前述のNHK-BS2の「青春TVタイムトラベル」の中で述べていた(日枝はこの放送当時フジテレビの社長で、後にフジテレビ及びフジ・メディア・ホールディングスの会長となった)。
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