《訊く》の敬語
「訊く」の敬語表現
「きく」という行為には、感覚的に声や音をキャッチするという意味の「聞く」や、「耳を傾ける」などのように、意識的に声や音に気持ちを向ける「聴く」などがあります。そして「訊く」という漢字をあてる場合は、「尋ねる、質問する」などの意味となり、これは「不明点を明らかにする」という積極的な気持ちがこめられた言葉として用いられます。「訊く」の敬語表現は、訊く主体が誰なのかによって内容が変わってきます。訊くという行為を行うのが自分より目上の人である場合は、尊敬語を使って「お尋ねになる」「お聞きになる」などとします。訊く主体が自分の場合は、自分の行為を低めて相手を立てる謙譲語を使って「お聞きする」「お伺いする」「お尋ねする」などとします。また、「です」「ます」などの丁寧語を用いて「訊きます」とした場合も、話や文章の相手に対して丁寧に述べる敬語表現となります。
「訊く」の敬語の最上級の表現
[尋ねる・質問する」といった意味の「訊く」を敬語で言い表した場合、「ご教示たまわります」が最上級の表現として考えられます。まず、「尋ねる・質問する」という言葉を敬意がこもった形に言い換えると「教示していただく」という表現になります。「教示」には尊敬の接頭語の「ご」を付けることによって、敬意が一段階高くなり、「していただく」という謙譲語のさらに丁寧な表現である「たまわる」に言い換えることでさらに敬意が深まります。そのうえで丁寧語の「ます」を末尾に加えることによって、敬語の三要素である尊敬・謙譲・丁寧のすべてが揃った最上級の敬語表現に改まったことになります。「訊く」の敬語のビジネスメール・手紙での例文
「訊く」の敬語をビジネスメールや手紙で用いる場合は、訊く主体が目上の人である場合と、自分が主体となる場合とで使い分けることが必要です。目上の人の場合は尊敬語を主軸にして文章を組み立て、次のように用います。「ご使用になる中で、何かご不明な点がおありでしたら、どうぞご遠慮なくお尋ねください」。「会議の席で部長がお尋ねになった点については、部署内での見解を早急に取りまとめるようにしてください」。また、訊くのが自分である場合では、次のように謙譲語を用いて文章を組み立てます。「先日お申し付けいただきました企画案の取りまとめについて、いくつかお伺いしたい点があるのですが、明日の午前中に少々お時間をいただけませんでしょうか」。「あらかじめ先方様にお聞きしておく注意点は、以上で全てということでよろしいでしょうか」。「取引先へは再度お尋ねしてしまうことになるのですが、失礼にはあたりませんでしょうか」。
「訊く」を上司に伝える際の敬語表現
「訊く」を上司に伝える場合には、自分が上司に訊くケースと、上司が誰かに訊くというケースの二つの状況が考えられます。自分が上司に訊く場合は、「お聞きする」「お伺いする」「お尋ねする」などと適宜謙譲語に言い換えて伝えるようにします。その際、話の内容が「課長の若い頃の武勇伝をお聞かせいただけませんか」のように比較的カジュアルなものなら、「お聞きする」などの軽い表現がふさわしい場合もありますし、「今後の営業展開について、部長のご見解をお伺いしたいのですが、次回の会議でお話しいただけませんか」などと依頼する場合は、「お伺いする」といったオフィシャルな表現でなくては締まらないというケースもあります。時と場合にふさわしい適切な言い方を選ぶことが大切です。また、ビジネスシーンの中では、上司に依頼して何かを訊いてもらうというケースもあります。その場合は尊敬語を用いて上司の行為を高める表現にします。「先日お願いした人員補充の件、人事部にお尋ねいただけましたでしょうか」などが一般的ですが、「お尋ねいただく」というストレートな表現ではなく、「人事部にはその後いかがでしょうか」などと適宜言い換えた方がやわらかく伝わるケースもあります。
「訊く」の敬語での誤用表現・注意事項
「訊く」を敬語にした場合の表現の一つに、「お伺いする」という謙譲表現があります。これは本来、二重敬語という文法的に不適切な言い回しです。二重敬語とは、一つの語について、同じ種類の敬語を二重に使ってしまっているもので、「お伺いする」のケースでいえば「お~する」と「伺う」という二つの謙譲語が重なってしまっている状態がこれにあたります。ただしこの二重敬語も、語によっては習慣として定着しているものもあり、「お伺いする」もその一つとして許容されている表現になっています。とはいえ、そもそもが誤用表現であるという点では注意しておく必要があるでしょう。このほか、名前を訊くことを「お名前を頂戴する」と表現するケースも見受けられます。「お名前を訊かせていただく」の「訊かせて」が省略されて「お名前をいただく」となり、「いただく」の連想から「頂戴する」に変化したものと考えられますが、「頂戴する」は「もらう」の謙譲語であり、「訊く」という要素はどこにもありません。「お名前を頂戴する」という言い方は明らかに誤用表現ですので注意しなくてはなりません。
「訊く」の敬語での言い換え表現
「訊く」の敬語での言い換え表現としては、教えや指示を聴く場合などに用いる「仰ぐ」や、専門的な知識や技能を教えてもらう場合などに用いる「教授いただく」などをあげることができます。「仰ぐ」の使い方としては「ご指示を仰ぐ」「ご教示を仰ぐ」などとなり、「教授いただく」を使う場合は「分析結果について、ご教授いただけませんでしょうか」などとします。- 《訊く》の敬語のページへのリンク