手紙 手紙の概要

手紙

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/09 14:54 UTC 版)

手紙、手紙を届ける配達人、受け取る人を描いたフィンランド 切手
恋文を読すふむ女性(油彩、ドイツ、1849年
手紙の一例。フランスのある無名の兵士が、恋人に宛てて書いた手紙(1916年
手紙をうまく書けない人のために代わりに書く代書屋インド、2007年)インドでは今も識字率が低く、「人口のおよそ半数が文字の読み書きができない」という。

狭義には封書(封筒で包んで届けるもの)のみを指して用いる[注釈 1][注釈 2]が、広義には封書に加えて、はがき(封筒に入れずに送る書状)も含む。

概要

用事などを記してひとに届ける文書が手紙である。

届ける方法はさまざまであり、郵便で送ってもよいし、人づてでも、つまり誰かに託して渡してもらってもよいし、さらに言うなら(いくらか特殊ではあるが[注釈 3])直接手渡ししてもよい。

狭義には封書つまり封筒に入れた文書だけを指し、それが代表格であるが、広義には葉書類も含める。また1990年代なかば~2000年代前半以降は電子メールで要件を書いて送ることも一般化したのでこれも手紙の一種だと感じている人もいるが、その一方で「手紙(letter)」という用語はあくまでをつかったものだけを指す用語として使いたい、と感じている人々もいる[2]

特定の相手に届けるのが手紙である。不特定多数に見せたり渡したりするためのものはチラシと呼ぶことで区別され、別物である。

各言語での呼びかた

英語圏
英語では「letter」が封書つまり封筒に入れられて届けられる文書つまり手紙を意味する。手書きであろうが、タイプライターで打たれようが、プリントであろうがかまわない。また郵便で届けられようが、メッセンジャーによって届けられようがかまわない[3]
「mail」のほうは、郵便制度を使って送られるものを指し、手紙に加えて小包も含めて指す。ただし、電子メールの普及により、文脈から誤解を生じないときは"mail"が電子メールを意味することがあり、従来の郵便はややユーモラスに"snailmail"と表現されることがある[4]
中国
中国語で手紙のことは「」という。現代の中国語で「手紙」はトイレットペーパーティッシュペーパーの意味である。

歴史

手紙はメソポタミア文明古代エジプトから存在した[5]。つまり紀元前数千年の時代から手紙のやりとりは行われていた。メソポタミアでは粘土版楔形文字で手紙が書かれていた。ここ数十年、粘土版の発掘が進み、数十万点の粘土版が出土しており、私的な手紙も大量に発見された。

古代エジプトの手紙は、パピルスに、の茎(や鳥の羽根)で作ったペンで書かれた。

手紙というのは、小さな都市国家の中ではあまり用いられず、大きな帝国内で頻繁に用いられるようになる傾向があった[5]。古代ギリシアは文明度は高かったが、小さな都市で自足してしまっていたので手紙のやりとりは少なく、それに対して古代ローマ帝国では植民地と植民地の間の連絡が複雑で、行政制度と軍事制度のかなめとして郵便配達制度(クルスス・プブリクス)が発達し、手紙が頻繁にやりとりされるようになった[5]。 古代ローマのクルスス・プブリクスはとても優れていて、272km/日 の速度で郵便を急送することができ、19世紀になるまでこれをしのぐ郵便配達制度はヨーロッパでは現れなかった[5]

古代ローマの手紙が、文章の文体を育む役割を果たした[5]。たとえば、 ローマ皇帝勅命など、ローマ公用手紙の文体は、個々の事例を挙げ 一般原則を引き出し 断を下す、という文体であった。その文体は、使徒パウロの書簡でも用いられ、その文体が、ローマ教皇の司教通達などにも受け継がれていくことになった[5]。またキケロセネカ小プリニウスなどの書簡の文体や、オウィディウスホラティウスなどの書簡詩の文体は、その後のヨーロッパの文人たちの手本になっていった[5]。古代ローマ人たちは、パピルスのほかに、羊皮紙に書く方法も、また木板にを塗ってそれに「stylus スティルス」という鉄筆で手紙を書く方法も使った。この鉄筆が、のちの「style スタイル」(文体)という語の起源となった[5]

ちなみに、文人の書簡はしばしば内容がきわめて文学的なものがありそれ自体がすでに文学作品と見なされることもある。また書簡の形式で、つまり誰かに宛てて語りかけるような形式で意図的に自らの思想などを後世に書き遺す、ということが行われることもある。これらのものを書簡文学と言う。[6]

ヨーロッパの中世では、ギルドが発達したことで商用郵便が急増し各ギルドがメッセンジャー制度をつくった[5]

著名な人物の書簡は後世に残りやすいが、普通の人々の書簡は後世には残りにくい[5]。その点で貴重なのは「en:Paston Letters パストン家書簡」と呼ばれている書簡群(1422年~1509年)である。これは中世後期のイギリス中産階級の普通の一族が家族間でやりとりした手紙群であり、ありきたりの俗事が内容になっていて、当時の普通の人々の日常を詳しく知ることができる[5]。ヨーロッパ中世では、概して商用の書簡が多く、文学的書簡の数は少なかったが、とは言っても当時もやはり人々は感情豊かであり、12世紀のアベラールとエロイーズという悲恋のカップルが、仲を裂かれたあとでも僧院と尼僧院の間でやりとりしたラテン語の書簡集はつとに有名である[5]。(アルジャントゥイユのエロイーズの記事が参照可)

上述のアベラールとエロイーズは実在の人々であり本物の書簡のやりとりであるが、ちなみにヨーロッパでは18世紀ころから書簡体小説という、登場人物たちが手紙のやりとりをすることで物語が展開してゆくという方式の文学が流行した。

中国

中国ではの時代、1ほどの方形の木札に手紙を書いた[注釈 4]。この方形の木札を「牘」というため、手紙のことを「尺牘」と呼んだ[7]

平安時代の日本では「尺牘」とは、漢文の書状を指した。女手によるものは「消息」といわれた。

尺牘の名筆として、王羲之の『喪乱帖』や空海の『風信帖』などが挙げられる。


注釈

  1. ^ 英語のletterも同じ。封筒に入れて届けるもの。封筒に入れないものは「card カード(日本語で葉書)」と呼び分ける。
  2. ^ 日本における郵便ポストの2つの差し入れ口は、左「手紙・はがき」 /右「その他の郵便」などと表記されているものが大半である。この場合、「手紙」は「はがき」以外の封書を意味して用いられている。
  3. ^ 直接会える場合は、口頭で伝えてしまうことが一般的である。直接会えるのに、便利な会話で伝えず、わざわざ手間をかけて文字にして渡すのは、一般論として言えば、特殊な事情がある場合である。
  4. ^ 20世紀初頭、オーレル・スタインによる中央アジア探検によってその実物が発掘されている(二玄社編(書道辞典) p.150)。
  5. ^ 1872年以前は旧暦(天保暦)併記。
  6. ^ エクスパックと異なり、レターパック(500/350/プラス/ライト)は第一種郵便物扱いであり信書送達できる。

出典

  1. ^ 『大辞泉』、手紙
  2. ^ https://english.stackexchange.com/questions/231429/is-it-okay-to-use-the-word-letter-instead-of-e-mail-regarding-to-e-mail-corr
  3. ^ https://www.lexico.com/definition/letter
  4. ^ 『ルミナス和英辞典第2版』研究社、2005年、146頁。 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 『日本大百科全書』(ニッポニカ)、手紙。
  6. ^ 書簡文学
  7. ^ 二玄社編(書道辞典) p.150
  8. ^ 2019年10月1日(火)から郵便料金などが変わりました。
  9. ^ 郵便法第4条、2020年1月20日閲覧
  10. ^ 信書のガイドライン、2017年10月19日閲覧
  11. ^ (詳細は「内国郵便約款」第81条『同時配達の扱い』を参照)
  12. ^ 郵便法第4条第3項、「信書に該当する文書に関する指針」
  13. ^ 郵政省『続逓信事業史』1961年、ほか。
  14. ^ a b 特別展「ニッポンノテガミ」の開催”. 日本郵政株式会社 郵政資料館. 2020年8月18日閲覧。


「手紙」の続きの解説一覧




手紙と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「手紙」の関連用語

1
100% |||||

2
78% |||||

3
70% |||||

4
70% |||||

5
70% |||||

6
70% |||||

7
70% |||||

検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



手紙のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの手紙 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2023 GRAS Group, Inc.RSS