光散乱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/21 05:11 UTC 版)
光散乱(ひかりさんらん)とは、光を物質に入射させた時、これを吸収すると同時に光を四方八方に放出する現象をいう。
光散乱の原理
古典論による説明
光散乱は光の反射と同じく、入射光によって誘起された電気双極子の振動から2次波が放出されることによるものである。たとえば原子に光が入射すると、電気双極子の振動が誘起され、それから2次波が放出されるが、多くの原子がまばらに、しかもランダムに分布していれば、これからの2次波を任意の方向で観測した場合に、その強度は各原子からの2次波の強度の和になり、これは一般に0にならない。これが光散乱である。
これに対して原子が密にあり、その密度が一様であるときには、各原子からの2次波は互いに干渉して特定の方向以外では強度が0になる。干渉の結果で消えない2次波は反射波となり、また入射波と干渉して屈折波ができる。このように光散乱は一般に物質が均一でないことに起因するものであり、これには物質表面が一様でなく、そこでも反射光がいろいろな方向に広がる乱反射も含まれるが、ここでは表面の効果は無視して、物質の内部で起こる光散乱について考える。
量子論による説明
量子論による扱いでは、光散乱は光と物質の相互作用によって起こる2光子過程の遷移である。
定常的な光散乱の基本公式は、クラマース・ハイゼンベルグの分散式(K-H分散式)と呼ばれる。また断熱近似とPlaczek近似により、K-H分散式は分子の分極率テンソルで近似的に表わされる。
光の弾性散乱には分極率の平均値が寄与し、これをレイリー散乱という。一方、光の非弾性散乱には分極率のゆらぎが寄与し、これをラマン散乱という。
いろいろな光散乱

光散乱現象の例
- 空が青いのは、太陽光が大気中の空気分子とレイリー散乱するところが大きい。
- 雲が白いのは多重散乱+ミー散乱による。
- 牛乳にはレイリー散乱を起こすタンパク質カゼインのミセル(20-150 ナノメートル程度)およびミー散乱を起こす脂肪球(直径1-100 マイクロメートル程度)が存在する。脂肪分の多い生クリームは脂肪球のミー散乱により白く見える。無脂肪牛乳はレイリー散乱により青みがかっているが、多重散乱により白く見える。
- チンダル現象は、コロイドによる光の散乱である。レイリーやミーによって理論的に研究された。散乱された光を調べることでコロイドの分子量、大きさなどを求めることができる。
応用例
- 動的光散乱法
- 溶液中の高分子や懸濁液中のコロイド粒子など、主にnmスケールの粒子の粒径分布を測定する手法である。測定対象にレーザーを照射し、レイリー散乱による散乱光を観測する。干渉による散乱強度のゆらぎを利用する。
- マイクロ波レーダー
- 雨粒や雪などを観測する気象レーダーに利用される。パルス状のセンチメートル波を放射し、レイリー散乱による散乱光を観測する。放射から観測までの時間差を利用する。
- ラマン分光法
- 結晶や溶液中の分子の振動モードやその他の物性を測定する手法である。測定対象にレーザーを照射し、ラマン散乱による散乱光を観測する。入射光と散乱光の波長の差を利用する。
- マイクロ波散乱計
- 海面の波浪など、大きなスケールの観測対象にマイクロ波をパルス状に照射して反射して来たマイクロ波を受信する事で対象の状態を計測する。
参考文献
- 柴田文明「光散乱の理論」(アグネ出版「固体物理」Vol.20 1985年)
関連項目
- 臨界蛋白光(臨界タンパク光)
光散乱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/11 07:02 UTC 版)
鏡面反射 光ファイバーのコア中を伝播する光は全反射に基いて説明できる。分子レベルで見て粗く、不規則な表面においては、光線はさまざまな方向へランダムに反射されることがある。このような種類の反射を「拡散反射」と呼び、典型的には広い範囲の反射角により特徴づけられる。裸眼で物体が見えるのは、ほとんどがこの種類の反射光による。この種類の反射は「光散乱」と呼ばれることも多い。物体表面からの光散乱は我々の物理観測における主要なメカニズムである。多くの一般的な表面の光散乱はランバート反射によりモデル化できる。 光散乱は散乱される光の波長に影響を受ける。そのため、入射光波の周波数によって散乱中心の物理的次元(もしくは空間スケール)に限界が生じる。これは通常微視的なスケールである。例えば、可視光は波長スケールが1 マイクロメートルのオーダーであるから、散乱中心は同等の空間スケールとなる。 よって、光の内表面および界面における非コヒーレント散乱(英語版)が散乱の原因となる。金属やセラミックスのような(多)結晶性の物質では、細孔に加えてほとんどの内表面もしくは界面が粒界を形成しており、細かな結晶秩序領域に分割されている。近年、散乱中心(粒界)のサイズを散乱される光よりも小さくすると散乱がほとんど起こらないことが示された。この現象は透明セラミクス材料の開発につながっている。 また、光ファイバーに用いられるレベルの光学ガラスにおける光散乱は、ガラス構造中の分子レベルの欠陥(組成変動)に起因する。実際、ガラスを多結晶の極限状態と見做す考え方が芽生えつつある。この枠組み内では、様々な度合いの近距離秩序を示す「領域」が金属や合金とガラスやセラミックスの両方の物質の構成ブロックとなる。この領域の内側およびその間のどちらにも微視的構造欠陥が分布し、光散乱が起きるのに理想的な場所を提供する。 これと同じ現象が赤外線ミサイルドームの透明性限界で見られる。
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