vaginaとは? わかりやすく解説

vagina

別表記:ヴァギナ

「vagina」とは・「vagina」の意味

「vagina」は、女性生殖器の一部である膣を指す英単語である。膣は、外陰部から子宮へと続く筒状筋肉組織で、性交時にペニス挿入される場所であり、出産時には子供が通る道でもある。また、月経時には子宮から排出される血液が膣を通って体外へと出る。

「vagina」の発音・読み方

「vagina」の発音は、IPA表記では /vəˈaɪnə/ であり、IPAカタカナ読みでは「ヴァジャイナ」となる。日本人発音するカタカナ英語では「ヴァギナ」と読むことが一般的である。

「vagina」の定義を英語で解説

The vagina is a muscular, tubular part of the female genital tract that extends from the vulva to the cervix, the opening of the uterus. It serves as the receptacle for the penis during sexual intercourse, the birth canal during childbirth, and the passageway for menstrual blood to exit the body.

「vagina」の類語

「vagina」の類語には、より医学的な表現である「vaginal canal」や、一般的な言い方である「birth canal」がある。また、俗語で「pussy」や「cunt」という言葉も「vagina」を指すが、これらの言葉女性に対して不適切であるとされることが多いため、注意が必要である。

「vagina」に関連する用語・表現

「vagina」に関連する用語表現には、「vulva」(外陰部)、「cervix」(子宮頸)、「uterus」(子宮)、「ovaries」(卵巣)、「fallopian tubes」(卵管)などがある。これらの用語は、女性生殖器生殖システム関連する英単語である。

「vagina」の例文

1. The vagina is an important part of the female reproductive system.(膣は女性生殖システム重要な部分である。) 2. The vagina connects the vulva to the cervix.(膣は外陰部子宮頸をつなぐ。) 3. The vagina serves as the birth canal during childbirth.(膣は出産時出産経路として機能する。) 4. Menstrual blood exits the body through the vagina.(月経血は膣を通って体外排出される。) 5. The vagina is a self-cleaning organ.(膣は自己浄化機能を持つ器官である。) 6. The vagina can expand and contract.(膣は拡張収縮することができる。) 7. The pH level of the vagina is slightly acidic.(膣のpHレベルはやや酸性である。) 8. The vagina is lined with mucus-producing cells.(膣は粘液産生する細胞覆われている。) 9. The vagina is susceptible to infections if not properly cared for.適切なケアなされない場合、膣は感染症にかかりやすくなる。) 10. The vagina plays a crucial role in sexual pleasure for women.(膣は女性の性快感において重要な役割を果たす。)

ヴァギナ

別表記:膣、バギナワギナ
英語:vagina

ヴァギナとは、「膣(ちつ)」を意味する英単語のvaginaをカタカナ表した語。

アルファベットの「v」の音を再現する慣用的な表記として「ヴァギナ」が用いられるが、日本語では「ヴァ」と「バ」の音の区別がほぼされないため「バギナ」、また「ワギナ」と表記される場合もある。英語の発音はやや異なり、あえてカタカナ用いて表記するならば「ヴァジャイナ」となる。日本語においては、膣という語のほうがより一般的に使われているといえる。なお、ヴァギナの語源は、ラテン語で「鞘(さや)」を意味するvāgīnaである。

ヴァギナは、人間では女性動物では雌が持つ生殖器で、子宮開口部をつなぐ細い管状器官である。人間において、主にヴァギナは膣などの性器からの分泌物月経血を体外排出するための通り道男性器受け入れ出産時胎児通り道となる産道としての役割を果たす

人間のヴァギナは酸性保たれているが、酸性度個人により差がある。ヴァギナが酸性のままであると、アルカリ性である精子死滅してしまい、子孫を残すには問題生じるが、性行為により絶頂感じると子宮入り口である子宮頸管しきゅうけいかん)から強アルカリ性液体分泌され膣内アルカリ性傾けて精子生き残りやすくするとされている。

バギナ【(ラテン)vagina】

読み方:ばぎな

膣(ちつ)。ワギナ


ワギナ【(ラテン)vagina】

読み方:わぎな

膣(ちつ)。バギナ


【仮名】ちつ
原文】vagina

子宮から体外伸びる筋肉の管。「birth canal産道)」とも呼ばれる

【英】Vagina
読み方:ちつ

哺乳類の雌における交尾器官で、分娩に際して産道をかねる。雌性生殖器官。

(vagina から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/08/13 00:21 UTC 版)

膣/腟
ヒトの健常な腟の模式図。閉経前(左図)と後(右)でその様相は変化する。
ヒトの女性生殖器系の模式図。
概要
由来 尿生殖洞英語版中腎傍管
器官 生殖器系
動脈 上部:子宮動脈
中部・下部:腟動脈英語版
静脈 子宮静脈叢英語版腟静脈叢英語版
神経 交感神経系:腰内臓神経英語版
副交感神経系:骨盤内臓神経英語版
リンパ系 上部:内腸骨リンパ節英語版
下部:浅鼠径リンパ節英語版
表記・識別
英語 vagina
ラテン語 vagina
MeSH D014621
グレイ解剖学 p.1264
TA A09.1.04.001
FMA 19949
解剖学用語

または(ちつ、英語: vagina、複数形:英語: vaginae[1])は一部の動物に存在する女性・雌性生殖器の一つである。主に哺乳類における子宮頸部から外陰部をつなぐ管状の内性器のことを指す。性行為交尾の際に陰茎をおさめる交尾器官としての働きを担うほか、排出する月経血の通過路や出産時の産道としての働きもある。哺乳類以外の動物においても類似する雌性生殖器官を指して用いる場合がある。

ヒトでは膣の前方には膀胱尿道が、後方には直腸が、上には子宮が存在する。生理学的には膣分泌液の分泌、出産、膣内細菌叢の維持といった様々な機能がある。膣で起こる病態としては性感染症や腟炎、腟がんなどがある。

日本語において膣は腟とも表記され、特に医学の文脈では後者が好んで用いられる。これに鑑み本項目では医学関連の記述ではを、その他の性科学動物学といった記述ではを用いた。詳細については#日本語の「ちつ」の語源のセクションで解説した。

ヒトにおける構造

肉眼解剖学

女性の骨盤部の矢状面を表したイラスト。腟と他臓器との位置関係が分かる。

ヒトの腟は弾性がある筋組織を含んだ管状の解剖学的構造で、腟前庭から子宮頸部までの部分にある[2][3]。腟の入り口(腟口)は尿生殖三角と呼ばれる領域に存在する。この尿生殖三角というのは会陰よりも前にある三角形状の領域のことで、尿道の出口(外尿道口)や外性器の一部が含まれる[4]。腟は腟口から上後方へ進み、前側は膀胱や尿道に、後ろ側は直腸に接している[5]。腟上部では子宮頸部が腟の前面に向かって90度の角度で突出している[5]。腟口・外尿道口は陰唇によって保護されている[6]

性的興奮が起こっていない状態の腟は管がつぶれたような形状をしており、前壁と後壁はほとんど接している。側壁は特にその中央部で比較的頑丈になっているため、この状態の腟の横断面がHの形に見える[3][7]。腟には横走する多数の腟粘膜ヒダが存在しており、これらは接している前壁・後壁で特に高まりを形成する。これをそれぞれ前皺柱後皺柱と呼ぶ[8]。前・後皺柱は下部で特に発達しており、尿道の接する前下部は尿道隆起と呼ばれる[8]

後方では、腟上部は直腸子宮窩(ダグラス窩)により、腟中部は疎性結合組織により、腟下部は会陰体英語版により直腸と隔てられている[9]。この腟と直腸を隔てる部分を直腸腟中隔という[10]。反対に前方で膀胱や尿道と腟を隔てる部分を膀胱腟中隔・尿道腟中隔と呼ぶ[10]。腟の管腔の中でも子宮頸部の突出により折り返し状になっている部分は腟円蓋と呼ばれており、前部・後部・右外側部・左外側部の4領域の腟円蓋に区分され、全てが通じている[2][3]。腟円蓋後部は前部よりもより深くなっている[3]

腟はその上部・中部・下部の3部位でそれぞれ筋や靭帯によって支持されている。上部1/3は肛門挙筋基靭帯英語版恥骨頸靭帯英語版直腸子宮靭帯英語版が支持している[2][9]。中部1/3は尿生殖隔膜英語版の含む部位であり[2]、U字状に走行する恥骨腟筋英語版が腟を覆っている[9]。下部1/3は会陰体[2][11]球海綿体筋英語版などによって覆われている[9]

腟口と処女膜

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ヒトの外陰部および腟口

腟口(ちつこう、英語: vaginal orifice, vaginal introitus[12]ラテン語: ostium vaginae[13])は腟前庭の後端にある開口部で、外尿道口よりも後方にある。腟口は通常時は小陰唇によって覆われて隠れているが、経腟分娩英語版後には露出していることがある[3]

処女膜は腟口を部分的に覆っている薄い粘膜組織の層である[3]。性交や出産によって処女膜は変化する。処女膜が破れた場合、完全に消失するか少し残存するかは様々で、残存したものは処女膜痕(しょじょまくこん、ラテン語: carunculae hymenales)と呼ばれる[8]。処女膜は非常に弾性に富むため破裂したのち通常の位置に戻ることもある[14]。なお、処女膜は疾患、外傷、診察自慰行為身体活動などによっても破れ得る。これらの理由から処女膜を調べればその女性が処女であるかどうかを判断できるというのは誤りである[14][15]

腟の大きさ

腟の長さは妊娠適齢年齢の女性の間で個人差がある。腟の前側には子宮頸部が存在するために前壁と後壁では腟の長さは異なっており、前壁は約7-7.5 cm、後壁は約9 cm長である[3][16]。腟口と処女膜も大きさは個人差がある。処女膜は通常円形や半月形のことが多いが、様々な形状を取り得る[3][17]

発生

腟の発生最初期。左右のミュラー管が尿生殖洞の後壁で隆起(洞結節)を形成し、そこが腟の発生のもととなる。

腟は中腎傍管と尿生殖洞から発生すると考えられている。発生の過程で中腎傍管(ミュラー管)は左右のものが癒合し、尾側末端が尿生殖洞英語版(ミュラー結節[18])の後壁で接触し、洞結節という膨らみを形成する[19][20]。洞結節が形成されるとミュラー管の癒合が頭側へ進み、子宮腟管(生殖管)と呼ばれる腔が形成される[20]。この間にも洞結節を構成する組織は肥厚を続けており、膨大部となると洞腟球英語版と呼ばれるようになる[20]。左右の洞腟球が癒合すると腟板(vaginal plate)と呼ばれるようになり、内部の組織が剥落することで腟腔ができる[20]。腟内腔の形成がされなかったり不完全であったりすると腟中隔英語版という腟の内腔に膜組織が存在する奇形の原因となり、生後月経血の排出障害を起こすことがある[19]。尿生殖洞の洞結節が形成された部分と腟の間には隔壁が存在しているが、これが残存して処女膜となる[21]

腟の発生学的な起源については論争がある。広く知られているのはA. K. Koffが1933年に記述した説で、腟の上部は中腎傍管の尾側部から生じ、下部は尿生殖洞から発生するというものである[22][23]。他の説としてD. Bulmerによる1957年の仮説があり、腟上皮は単に尿生殖洞の上皮を由来とするという[24]。Witschiの1970年の研究ではKoffによる説を再検討し、洞結節が膨らんでできた洞腟球が中腎管(ウォルフ管)の一部であると結論付けている[23][25]。Witschiによる意見はP. Aciénの研究[26]やG. BokとU. Drewsらの研究[27]で裏付けるような結果が得られている[23][25]。一方でRobboyらはKoffとBulmerの対立する説のレビューにて、自身の研究を踏まえてBulmerの記述を支持している[24]。相互に関連する組織が複雑であり、ヒトの腟と同様に発生する動物モデルが欠如しているという難しさが今なお存在しており[24][28]、現在も研究がすすめられ、対立するこれらの説を解決する糸口になる可能性がある[23]

組織学

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腟粘膜ヒダ。影により前1/3のみ見える。
腟壁の組織スライド。染色はHE染色で、中拡大。重層扁平上皮英語版やその下層の結合組織が確認できる。より深層にある筋層はここでは見えていない。黒線は腟粘膜ヒダを指している。

腟壁英語: vaginal wall)は管腔側から粘膜上皮、粘膜固有層粘膜下層平滑筋層、外膜の順に構成される[注釈 1][30]。腟壁は粘膜ヒダを形成することによって表面積を増やして拡張・伸展可能になっている[16]

上皮

粘膜上皮は非角化重層扁平上皮英語版から成り、排卵前のエストロゲン濃度が高いときは厚くなり、排卵後のプロゲステロン濃度が高いときは薄くなる[31]。全身の粘膜上皮の中には腺構造を有する場合があるが、ふつう腟壁には腺組織が存在しない[32][29]。上皮の基底側(粘膜固有層側)では細胞分裂が盛んで、新しい細胞が生まれる[33]。表層の細胞はしだいに剥落し、基底側の細胞がそれを埋め合わせるように増殖し、表層へ移行していくターンオーバーが起こっている[3][34]

粘膜上皮の主に表層側の細胞ではグリコーゲンが貯蔵されており[30]、これが腟腔へ分泌されると腟内細菌叢を構成するデーデルライン桿菌によって乳酸に分解され、腟の酸性pH環境を作り出す[31]。グリコーゲンの蓄積はエストロゲンにより誘導される[35]。母体のエストロゲンの影響により女性の新生児の腟は生後2-4週ほどは重層扁平上皮が厚くなっている。それ以降思春期までは上皮はグリコーゲンの見られない数層の立方上皮のみで薄いままとなる[36]。また、思春期までは腟粘膜ヒダもほとんど認められず、色としては赤い[37]。最終的に閉経以降はグリコーゲン量の低下がみられ、粘膜上皮は薄くなる[3][38]

子宮頸部の中でも子宮腟部と呼ばれる子宮頸部が腟の方向へ突出している部分には腟上皮もその一部として存在しており、上皮の境目が見られる[39]。この部位は扁平円柱上皮境界(squamocolumnar junction、SCJ)と呼ばれており、思春期から閉経までは上皮の肥大により腟側へ、その時期の前後では子宮側へ移動する[40]

腟の扁平上皮は摩擦や感染の両方に抵抗性が高くなっている[36]。上皮に透過性があることにより免疫系抗体のような成分が容易に表層に到達できるようになっている[41]。腟上皮は同様に重層扁平上皮である皮膚とも違いがある。皮膚の表皮は脂質を豊富に含んでいるため耐水性があるが、腟上皮にはそこまで脂質が含まれていないため水や水に溶けた可溶性の物質は腟上皮を通り抜けることができる[41]

腟が外界の乾燥した空気にさらされると角化が起こることがある[3]骨盤臓器脱のような病的状態においても腟粘膜が外界にさらされ、乾燥・角化が起こる[42]。また、エストロゲン濃度が高いときにも腟上皮の角化が起こることがある[31]

その他

腟の粘膜上皮下には血管やリンパ管といった脈管系が豊富に存在している[5]。特に、腟円蓋においてはリンパ小節が見られることもある[29]。上皮下のうち、固有層では膠原線維弾性線維が豊富・密に存在しており、粘膜下層では膠原線維・弾性線維は粗めに存在する[31]。更に粘膜下層では脈管系の中でも静脈叢が発達し、血液がうっ血すると腟壁が拡張する働きを持つのではないかと考えられている[31]

筋層は平滑筋線維で構成され、様々な方向に筋線維が走っている[31]。この筋の走行が内腔側で輪走、外膜側で縦走のいわゆる内輪外縦であるとする教科書もあるが、その区別は難しい[43]。腟の筋層に存在する平滑筋は妊娠時には増加し、腟の外膜に付着する骨盤底筋群とともに腟の伸展を担う[44][43]

管腔と反対側にある外膜は疎性結合組織で[31]、骨盤の臓器の間をつなぐ血管やリンパ管、神経線維を含んだ疎性結合組織に移行する[16]

血液栄養と神経支配

腟への血液供給は主に内腸骨動脈の枝[注釈 2]腟動脈英語版子宮動脈腟枝英語版を介して行われる[2][45]。腟動脈は腟の側面で子宮動脈腟枝と吻合[45]、腟奇動脈(azygos artery of vagina)と呼ばれる腟の前後壁正中を縦に走る動脈を形成する[47]。腟を栄養する他の動脈としては中直腸動脈英語版内陰部動脈英語版があり[3]、いずれも内腸骨動脈の枝である[47]。これらの動脈にはリンパ管が伴行しており、上部は子宮動脈に、中部は腟動脈に伴行する[47]。下部は処女膜の外方領域から鼠径リンパ節英語版へと排出する[47][48]。腟のリンパ管の95%は腟表面から3mm以内という近い部分を走っている[49]

腟から心臓へ還流するための静脈は主に左右に2つある。これらは腟の側面で腟静脈叢英語版を形成する。腟静脈叢は子宮静脈叢英語版膀胱静脈叢英語版直腸静脈叢英語版などにつながっており、最終的には内腸骨静脈英語版へ還流して心臓に戻る[47]

神経支配は上部では交感神経系副交感神経系によるもので、下下腹神経叢英語版(骨盤神経叢)を出入りする神経が支配している[50]。下部では陰部神経英語版により支配される[3][47]

機能

分泌

腟分泌物は主に子宮、子宮頸部、腟上皮からのもので、性的興奮時にはこれらに加えてバルトリン腺からの分泌液が含まれている[3]。腟を湿った状態に保つのに必要な分泌液はごく少量であり、性的興奮時、月経の中盤や少し前、妊娠時などに量が増加する[3]。月経は子宮内膜から血液や粘膜組織が定期的に排出される現象で、これは腟を通る[51]。腟粘膜は月経周期を通して厚さやその組成が変化する[52]。月経周期は女性生殖器(特に子宮と卵巣)で起こる規則的で自然な変化であり、これによって妊娠が可能になる[53][54]。定期的に排出される月経血を受け止め吸収するために様々な生理処理用品があり、タンポン月経カップナプキンなどがある[55]

腟口の付近にあるバルトリン腺は元々は腟分泌液の主な供給源であると考えられてきたが、詳細な研究によりバルトリン腺が分泌するのは数滴の粘液に過ぎないことが明らかになった[56]。腟分泌液はそのほとんどが腟壁の血管から濾出液として漏れ出たものである。腟組織内の血管にうっ血が起こると毛細血管から濾出液が染み出すことで汗のような滴として形成され、腟上皮を通り抜けて腟腔内へと至る[56][57][58]

排卵中や排卵後は子宮頸部の粘液腺がさまざまな成分を含む粘液を分泌し、腟腔内をアルカリ性にすることで精子が生存可能な状態にする[59]。閉経すると腟分泌液の量はふつう減少する[60]

性的刺激

腟に存在する神経終末は性行為により刺激されると快感をもたらすことがある。腟の一部分への刺激だけで快感に至る場合もあれば、腟への挿入による密閉・充満が快感をうむ場合もある[61]。腟には神経終末が豊富ではないので腟への挿入のみで十分な性的刺激やオーガズムが得られないことも多い[61][62][63]。文献では腟には神経終末が集中しており腟の入り口(下1/3)で特に感受性が高いとすることが一般的であるが[62][63][64]、腟壁の神経終末の密度がとりわけ高い領域は見られないとする研究もある[65][66]。別の研究では女性の一部に腟前壁の神経終末の密度が高い人がいるという報告もある[注釈 3][65]。腟に神経終末が少ないことにより分娩痛が比較的抑えられているものと考えられている[63][67][68]

腟で得られる快感にはさまざまなものがある。陰茎の挿入に加え、オナニー手指による刺激、特定の性交体位正常位側位など)で起こる状況などが挙げられる[69]異性愛者同士では性的興奮を昂らせるための前戯や性交に伴う行為として[70][71]、また避妊のためや処女を守るため[72][73]といった理由で手指による刺激が行われる場合がある。一般的ではないが、陰茎と腟以外での性行為を性的快感の主な手段とするような人もいる[71]。一方で、レズビアン女性間性交渉者(WSW)は性行為の主な方法として手指を用いた愛撫を行う[74][75]。女性の中には腟で快感を得るためにバイブレータ張形といった性具を用いる人もいる[76]

多くの女性はオーガズムに達するために陰核への直接的な刺激が必要である[62][63]。陰核は腟刺激にも関連する。陰核は神経終末を豊富に含んでいる外性器であり、恥骨弓英語版に広く付着して陰唇へ結合組織を伸ばしている。研究によると陰核は腟とともにまとまった組織を形成しており、この組織の広がりが女性によって異なっていて腟への刺激で起こるオーガズムに関連している可能性がある[77]

性的興奮時、特に陰核の刺激時には腟壁から分泌液が分泌される。これは性的興奮が起こった10-30秒後には始まり、女性の興奮時間が長くなるにつれその量も増加する[78]。分泌液により腟と陰茎(またはその他の挿入物)の間で起こる摩擦や摩擦による外傷を減じるという働きがある。興奮に伴い腟は長さも長くなり、圧力によってさらに長くなることもある。女性が絶頂に至れば長さに加えて幅も広がる一方、子宮頸部が退縮する[78][79]。腟上部2/3が拡張すると子宮が大骨盤の高さまで上昇し、子宮頸部は腟の上へ持ち上げられる。これにより腟中央部はテントを形成したように広がる[78]。これはテント形成またはバルーン現象と呼ばれる[80]。腟壁は弾性があるため骨盤の筋群や腟粘膜ヒダにより伸縮し、挿入された陰茎(または他の挿入物)を包み込む[64]。これにより陰茎に摩擦が生じて男性側がオーガズムに達し射精に至らしめることで受精が可能となる[81]

腟の中でも性感帯になりうる領域としてGスポットが挙げられる。これはふつう腟前壁の腟口から少しほどの部分といわれ、性行為中に刺激されると強い快感やオーガズムを起こす女性もいる[65][82]。Gスポットによるオーガズムは女性の射精の原因である可能性があり、それゆえにGスポットによる快感は腟壁上の特定の領域ではなくスキーン腺という男性では前立腺相同な器官によるものと考える学者がいる[65]。一方でスキーン腺とGスポットとの関係は弱いと考える者もいる[66][82]。Gスポットは女性ごとに位置が異なること、一部の女性では存在しないように見えることから、独立した構造として存在するかについては議論がある。また、Gスポットへの刺激と思われていた刺激に対する感覚は腟の動きとともに陰核も動いた結果であり、それによって腟刺激でオーガズムに至るとする仮説もある[65][67][83]

出産

腟は通常の分娩法(経腟分娩)においては産道となる。分娩が近づくと腟分泌液の増加や破水のようないくつかの徴候が現れてくる。破水は基本的に分娩の開始時に起こるものである。ただし、10%ほどの例では分娩前に破水が起こる前期破水という状態となる[84]。初産婦においてはブラクストン・ヒックス収縮陣痛と勘違いすることがあるが[85]、これは体が本格的な分娩へ備えるための準備のようなものである。分娩開始のサインではないものの[86]、通常分娩に至るまでの数日間にかなり強くなる[85][86]

女性の身体が出産に備えるにつれ、子宮頸部は軟らかく、薄く変化し、前方へ移動して前を向き、子宮口は開大し始める。これにより胎児は骨盤の方へ降りることができるようになり、妊婦は下降感(lightening)を感じるようになる[87]。胎児が骨盤の方へ移動すると坐骨神経の刺激による痛みや腟分泌液の増加、排尿頻度の増加などが見られることがある[88]。下降感は経産婦においては分娩が始まった後に起こることが多い一方、初産婦では分娩の始まる10-14日前に起こることもある[88]

陣痛が始まると胎児は子宮頸部による支持を失い始める。子宮口の開大英語版が10cm程度に達し、胎児の頭部が収まる程度になると胎児の頭部が子宮から腟へと進んでいく[89][90]。腟が骨盤筋群などと協調して伸展できることにより、径を増し、胎児を娩出することができる[91]

経腟分娩は分娩の方法において最も普及している方法であるが、合併症のリスクがある場合は帝王切開を行うべきである場合もある[92]。腟粘膜は出生直後は浮腫様に液が異常に蓄積するうえ薄くなり粘膜ヒダもあまり見られなくなる[93]。腟粘膜の厚さや粘膜ヒダが元に戻るためには卵巣が通常時の機能に戻りエストロゲンの分泌も回復するのが必要で、おおよそ3週間である[93][94]。分娩により腟口は開大して弛緩した状態となるが、産褥期(分娩後約6-8週)でおおよそ妊娠前の状態に戻る[93]。ただし、腟は分娩前よりもサイズが大きいままとなる[93]

出生後一時期は悪露と呼ばれる子宮や腟からの分泌物が分泌される[95]。悪露は排出量や持続期間に個人差があり、長いと6週間分泌されることがある[96]

腟内細菌叢

腟スワブで採取した検体のグラム染色像。ラクトバチルス菌や扁平上皮細胞が見られる。

腟内細菌叢英語版は出生から閉経まで生涯を通じて変化する複雑な生態系のようなものである。様々な微生物が腟上皮の管腔側および上皮内に存在している[41]。この微生物相(マイクロバイオーム )は通常の免疫力を持つ女性には症状を引き起こしたり感染したりしない種や属の細菌で構成されており、腟内細菌叢においてはラクトバチルス属の細菌が支配的である[97]。これらの細菌がグリコーゲンを代謝して乳酸を生成し、腟内のpHを酸性に保つことで病原菌から感染を防いでいる[98]。このような腟の生体防御機能は腟の自浄作用と呼ばれる[31][98]

臨床的重要性

骨盤診察

婦人科の検査において用いられる使い捨ての二弁式腟鏡
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二弁式腟鏡で見た健常人の子宮頸。画像上と下には子宮へおさえつけている腟鏡のブレードが見え、子宮頸の左右には腟壁が見える。

腟の健康状態は他の女性生殖器の検査とともに骨盤診察英語版(婦人科診察)の一環として検査がなされることがある[99][100]。このような検査と同時にパップテスト(子宮頸部細胞診)が行われることもある。アメリカにおいてはパップテストによるスクリーニングは21歳から開始し65歳まで行うことが推奨されている[101]。日本においては20歳から2年に一度行うことが推奨されている[102]。ガイドラインで推奨される検査頻度は1-5年まで国によって様々である[103]。妊娠しておらず無症状の女性に対してルーチンで骨盤検査を行うことは益よりも害が上回りうるとする報告もある[104]。妊娠した女性で見られる骨盤診察の正常所見として腟壁にやや青みがかかることが挙げられる[99]

骨盤診察は原因不明の腟分泌物異常、痛み、予期せぬ出血、尿症状といった所見がある場合に行われることが多い[99][105][106]。腟の検査を行う場合、外陰部の視診・簡易的な触診が終わったのち、腟鏡診が行われる。これにより腟内の分泌や腟の炎症・腫瘤性病変などを確認することができる[107]。その後、手袋着用のもと指で内診(双合診)が行われ、腟や子宮の触診が行われる[107]。腟の検査は体腔検査の一つとして行われる場合もある[108]。いずれにせよ腟の診察は羞恥心を伴うものであり、医師には配慮が必要である[109]。患者が内診等を拒否する場合には省略することもある[110]

腟壁裂傷のような腟に起こる外傷は性的暴行性的虐待の際に起こることがある[37][99]。裂傷のほかに挫傷、炎症、剥離などが起こりうる。物体を用いて性的暴行が行われた場合X線撮影により腟内異物が明らかになることがある[37]。同意が得られた場合、骨盤診察は性的暴行を評価する材料の一つになる[111]。骨盤診察は妊娠中にも行うことがあり、ハイリスク妊娠の女性では更に検査が増えることがある[99][112]

薬剤との関連

経腟投与英語版は薬剤の投与経路の一つであり、クリームや錠剤の薬剤を腟に挿入する投与方法である。薬理学的に経腟投与には他の投与方法と比べて全身への副作用が限定的であり、主に腟やその付近の構造物(子宮腟部など)の治療効果英語版を高めうるという利点がある[113][114]。経腟投与される薬剤としては子宮頸管熟化剤のプロスタグランジンE2があり、2020年より承認されている[注釈 4][115]。他にもエストロゲン[113]避妊薬[113]抗真菌薬[116]などが用いられることがある。薬剤を投与する方法として腟リング英語版によるものがあり、避妊のための避妊腟リングがある。腟リングは腟内に挿入して使用し、腟内および全身の薬剤の濃度を低くおさえたまま継続的かつ安定的に維持することができる[114][117]

出産にあたっては疼痛を緩和するために腟壁や陰部神経英語版に対して注射をすることで疼痛を管理することがある。陰部神経は骨盤底の筋の運動のほかにも痛覚のような感覚も支配するため陰部神経ブロックを行うことによって出産時の疼痛を軽減することができる。疼痛緩和の薬剤が胎児にとくに悪影響を与えるとは報告されておらず、目立った合併症も確認されていない[118]

疾患

炎症・感染症

腟の感染症や疾患としては性器カンジダ症腟炎性感染症(STIs)、腟がんなどが挙げられる。ガセリ菌のようなラクトバチルス属の菌は腟内細菌叢を構成し、バクテリオシン過酸化水素を分泌することによって感染症からの保護作用を有する[119]。出産可能年齢の健常女性における腟内環境は通常酸性であり、pHは3.8-4.5程度である[120]。このような低pH環境によって様々な病原性微生物が発育するのを防いでいる[120]。腟の酸性環境は性行為により流入した精液[121][122]、月経、閉経、コントロール不良な糖尿病経口避妊薬、一部の抗菌薬[注釈 5]などに影響を受ける[123]。これらの要因のいずれもが酸性環境を乱す原因となり、性器カンジダ症のような感染症に発展しうる[124]。腟液のpH上昇(おおむね4.5以上)は細菌性腟症における細菌の異常増殖や寄生虫感染症の一つであるトリコモナス症などでも起こり得り、どちらも腟炎の症状を引き起こす[120][125]。細菌性腟症に特徴的な多様な種の細菌叢への変化は妊娠の転帰不良リスクを増加させ[126]、脳神経障害や肺障害といった多臓器障害が生まれた新生児に起こるリスクも高まる[127]。骨盤診察において性感染症のような感染症のスクリーニングを行うために腟液の検体採取が行われることがある[99]。基本的には滅菌綿棒で腟の奥、つまりは腟円蓋付近の分泌物を採取する[128]

腟には自浄作用があるためとりわけ追加で衛生的な処置は必要でない[129][130]。外陰部や腟を清潔に維持するという目的で膣洗浄器が用いられることがあるものの、臨床的には通常推奨されない行為である[129][130]。これは腟には細菌叢が存在する方が正常であり感染症から守るために存在しているのであり、みだらに微生物相のバランスを崩してしまうことは感染症や異常な腟液分泌を引き起こしうるためである[129]

腟分泌物の色やにおい、あるいは炎症や灼熱感のような分泌に伴う症状によって腟感染症の疑いを示す場合がある[131][132]。ただし、腟分泌液異常は腟炎等の感染症以外にも糖尿病、膣洗浄、香料入りの石鹼、入浴剤による泡風呂、避妊用ピルなどを原因として起こることがある[131]。腟分泌液の異常が見られる感染症としては白~黄色で酒粕状の帯下を認める性器カンジダ症、黄色で悪臭を伴う帯下を認める細菌性腟症、黄白色の泡沫状の帯下を認める腟トリコモナス症などがある[133]

エイズヒトパピローマウイルス感染症、性器ヘルペス、トリコモナス症などは腟に影響する性感染症であり、これらの性感染症を防ぐために医療機関はセーファーセックスを推奨している[134][135]。セーファーセックスとしてはコンドームの使用や女性用コンドーム の使用などが挙げられる。このような方法は精液が女性生殖器に直接触れることを避けるのに有用である[136][137]。しかしながら女性用コンドームが通常のコンドームと比べて性感染症を防ぐのに効果的であるかについては研究報告が少ない[137]。また、避妊を目的として女性コンドームを着用することは通常コンドームよりも効果が薄いと考えられている。これは女性用コンドームが膣に密着しにくいこと、また、膣内へ滑りこんで精液が漏れてしまうことがあり得るためである[138]

腫瘍・類腫瘍性病変

腟がんは組織型が主に扁平上皮の悪性腫瘍であり[139]、年齢的には高齢女性に好発する[140][141]子宮頸癌の既往は腟がんのリスクとなり[142]、腟がんが子宮頸癌と同時または発覚後に発見される可能性は十分にある。これらの原因が同一である可能性もある[140][142][143]。子宮頸癌や腟がんの症状としては性交疼痛症不正性器出血、性交後や閉経後の腟分泌液異常などがある[144][145]。しかし、ほとんどの子宮頸癌は症状のない無症候性である[144]。腟がんの治療は放射線療法が主体で[139]、がんのなるべく近い部分に放射線源を挿入して行う腔内照射が行われることがある[146]。腔内照射では放射線を体外から照射する外部照射に比べて生存率が高まったとの報告がある[146]。子宮頸癌に対して用いた放射線療法が腟がんの発生リスクを高めるかどうか、という臨床疑問についてはまだ不明確である[142]

腟がんは扁平上皮癌であることが多いものの、その他に腺癌、腺扁平上皮癌、腺様嚢胞癌、カルチノイド小細胞癌悪性黒色腫といった腫瘍が生じることがある[139]。小児では予後不良な横紋筋肉腫が腟に生じることがある[139]

腟に生じる類腫瘍性病変としては腟腺症や腟留血腫がある。腟腺症は腟に通常存在しない腺上皮が発生する病態である[147]。腟留血腫は処女膜や腟の閉鎖で腟から月経血が体外へ排出されないことで腟に月経血が貯留する病態である[147]

加齢・出産の影響

年齢やホルモン濃度は腟のpHと深く関連している[148]。エストロゲンやグリコーゲン、細菌叢を構成するラクトバチルス属などがこれらに影響を及ぼす[149][150]。出生時の腟の酸性環境はおおよそpH 4.5ほどで[148]、出生後3-6週間ほどは酸性ではなく[151]アルカリ性の環境になる[152]。例えば思春期前の女児の平均腟pHは7.0である[149]。かなりの個人差はあるもののだいたい7-12歳ほどで陰唇が発達し、処女膜の肥厚や腟の伸長が起き、腟は8cm程度にまで伸長する。腟粘膜も厚くなり、腟のpHはこの頃酸性へと戻る。下り物と呼ばれるサラサラとした白色腟分泌液も見られる[152]。13-18歳ほどの思春期の女性の腟内細菌叢は既に出産可能年齢の女性のものに近く[150]pHも平均3.8-4.5になる[120]。ただし、初経前と初経後でも同じくらいであるかどうかについては明らかでない[150]。閉経期の腟pHはホルモン補充療法などをしていなければ6.5-7.0ほどであり、ホルモン補充を行っている場合は4.5-5.0程度となる[150]

閉経前(左)と閉経後(右)の腟粘膜の組織像のイラスト。

閉経に伴い、体内で産生されるエストロゲンは減少する。エストロゲンの減少は腟壁の菲薄化や炎症を来す萎縮性腟炎英語版の原因となり[153][154]、腟の掻痒や灼熱感、出血、疼痛、腟分泌液低下による腟粘膜乾燥といった諸症状を引き起こしてしまう[155]。腟粘膜乾燥は乾燥自体が不快感の原因となり、性行為中の不快感や疼痛の原因にもなる[155][156]。閉経では腟を支持する構造の組成にも影響を及ぼしうる。血管の構造は加齢によってしだいに少なくなる[157]コラーゲンは組成やその比率が変化していく。このような腟の支持組織の脆弱化は結合組織の生理的変化が原因であると考えられている[158]

閉経に伴う症状はエストロゲン配合の膣クリーム[159]、処方箋なしで服用可能な非ホルモン製剤[155]、エストロゲンを放出するFemringのような膣リング[160]、そのほかホルモン補充療法[159]などによって緩和できる。しかし、ホルモン補充療法では悪心・嘔吐、体重増加といった副作用等のリスクも存在する[161][162]。膣クリームや膣リングは他のホルモン補充療法とはリスクが同等ではない可能性がある[163]。日本ではホルモン療法の代わりに漢方薬で治療を行うことも多く、当帰芍薬散加味逍遙散桂枝茯苓丸などが用いられる[164]

女性の中には閉経後に性欲が上昇してくる人もいる[155]。おそらく性行為を続けている閉経済みの女性では閉経していない人と同レベルの腟分泌液の規則的な分泌があり、性行為を十分に快感としてとらえることができていると思われる[155]。そのような人の場合、腟はそこまで萎縮しておらず、性行為に際する懸念も少ないと思われる[165]

他にも加齢や出産に伴う腟の変化としては腹圧性尿失禁 直腸瘤英語版膀胱瘤などがある[166]。腹圧性尿失禁は妊娠や出産、閉経などに伴う身体の変化が原因となりやすい。これは出産や閉経などで骨盤底筋による支持が脆弱になりやすく、閉経では特にエストロゲン不足が尿道を締める括約筋の機能低下につながるためである[167][168]。直腸瘤や膀胱瘤のような骨盤臓器脱は骨盤臓器が正常の位置から下降してしまう病的状態で、腟にも影響を及ぼしてしまう[169]。腟における症状としては腟粘膜の乾燥や擦過による出血などが挙げられる[170]ケーゲル体操のような骨盤底筋群を鍛える運動を行うと筋力の増強につながり[171]、臓器脱の進行を予防・阻止することができる[172]

胎児が娩出に至る分娩第3期では腟は大幅な変化を起こす。胎児が娩出されるすぐ前に腟から血液が急速に流れることがある。出産時に起こる腟の裂傷には深さや重症度、巻き込む組織の程度などに個人差がある[37][173]。腟の裂傷は直腸や肛門にまで広範囲に及ぶこともあり、妊婦にとっては特に苦痛を伴うものである[173]。このような場合、便失禁を発症し、腟から便が排出されてしまうことがある[173]

手術

腟や腟口は会陰切開腟切除術英語版腟形成術小陰唇縮小術英語版といった手術によって変化してしまうことがある[166][174]。腟形成術を受ける女性はふつう比較的高齢で出産経験のある女性である[166]。腟形成術を行う前には腟を徹底的に検査することが標準であり、他の腟疾患を見極めるために婦人泌尿器科英語版を専門とする医師へ紹介することもある[166]。小陰唇縮小術については、小陰唇の縮小が短時間で終わり、合併症も軽度かつ稀である[166]。手術の際の処置によってできる瘢痕も最小限であり、長期的な問題はこれまでに確認されていない[166]

会陰切開は分娩第2期において胎児が腟口を通れるほど広げることを目的として行われる。現在では決まりきった手順として全ての妊婦に行うことは推奨されていない[175]。日本においては急速に胎児を娩出する必要がある場合、会陰の伸展性が不良な場合、低体重出生児や巨大児などの場合に適応となる[176]。切開においては皮膚、腟上皮、皮下組織会陰体浅会陰横筋などを含めて行われ、全体では腟から肛門の部分までに至る[177][178]。会陰切開を行った部分は分娩の後、痛みを生じる場合があり、会陰切開や腟裂傷が分娩に伴って起こった3か月ほど後までは性行為中に痛みを訴えることがよくある[179]。手術の方法によって別の術式より痛みが少ないという可能性も報告されている[180]。会陰切開は腟から肛門へかけて切開する正中切開のほかに、腟後壁正中から肛門やや外側へ向かう正中側切開、肛門に向かわない側切開・横切開などがある[181]

腟切除術は全体または部分的に腟を切除する手術であり、悪性病変の治療にふつう用いられる[174]。性器の全部または一部を取り除くことになるが、神経が損傷したり瘢痕・癒着が残ったりする虞がある[182]。子宮頸癌の一部の術式でも見られることであるが、性機能が障害される可能性もある。手術を行うことによって痛みの他にも腟の弾性、腟分泌液、性的興奮などに影響が出ることもある。1年程度で治癒することが多いが、より長い期間戻るのに要することもある[182]

女性、特に高齢で多産であった女性では腟の弛緩を外科的に治療することを選択する場合がある。このようなときに用いられる腟形成は英語圏では腟の引き締め(tightening)や若返り(rejuvenation)と呼ばれている[183]。このような若返りと呼ばれる手術を経て自己像や性的快感の改善を感じることがある[183]。一方、手術に伴う腟口の感染・狭窄、不十分な引き締め、性機能低下(性交痛など)、直腸腟瘻英語版などを合併するリスクがある。このような手術を受ける女性が同時に骨盤臓器脱のような病的状態を抱えている場合もあり、手術でそれの治療も行うということがある[184]

腟の手術は待機的な手術であったり、美容目的で行われたりすることもある。美容目的で行われる手術は先天的な異常があったり物理的な不快感を呈する場合であったり、性器の外観を変えたいという目的であったりする。平均的な性器の外観や性器の測定値といったものが曖昧であるために手術を行って満足のいくものとするにはかなり困難である[185]トランスジェンダーの人々にとっては性別適合手術が可能である。インターセックスの考えを持つ全ての人々が手術を望むわけではないものの、自分には不一致と考える性器の状況を正すために手術を選択する人もいる[186]

奇形およびその他疾患

超音波画像。(1)膀胱、(2)子宮、(3)腟である。

腟には形態異常や欠損が起こることがある[187]。腟を閉塞するような異常において最も多いのは無孔処女膜英語版で、腟口を処女膜が完全に覆ってしまうことで月経血や腟分泌物を排出することができなくなってしまう[188][189]。腟腔内で部分的または完全に閉塞を起こすような壁を生じる腟中隔英語版という異常も存在する[188]。原因によって外科的治療の方法が変わってくるため、治療に移る前に正確な原因を突き止めることが重要である[190]。部分的な腟欠損英語版によって性器の外観は正常であっても内部で異常が存在するような症例も存在する[191]

腟に異常な別の器官とつながった開口部(瘻孔)ができると尿や便がそこから流入し、失禁の原因になる[192][193]。腟は泌尿器系や消化器系の器官と近い位置関係にあるため、瘻孔を形成しやすい[194]。具体的な原因は多岐にわたり、産道の何らかの閉塞により妨げられた分娩(閉塞性分娩)、子宮摘出術悪性腫瘍、放射線などがある[195]。腟にできる瘻孔には割合は少ないものの先天性のものもある[196]。瘻孔を治療するためには様々な外科的手法がある[192][197]。瘻孔を治療しなかった場合、重大な障害や深刻なQOL低下が起こり得る[192]

子宮摘出術の際の深刻な合併症として腸管の腟への脱出(vaginal evisceration)がある。これは子宮摘出により元々子宮頸部が開口していた腟の部分が脆弱であり、その部分(vaginal cuff)が破裂して腸が脱出してくるという病態である[111][198]

嚢胞も腟に影響することがある。腟の上皮や腟深層では様々なタイプの腟嚢胞英語版が生じることがあり、7 cmほどの大きさにまで発達しうる[199][200]。これらはルーチンとして行う骨盤診察の際に偶然発見されることがよくある[201]。腟嚢胞は直腸瘤や膀胱瘤のような腟付近から突出する別の構造のように見えることもある[199]。嚢胞としては他にミュラー管嚢胞英語版ガートナー管嚢胞英語版封入嚢胞などが見られることがある[202]。腟嚢胞はおそらく30-40歳ほどの女性に起こりやすいと考えられている[199]。推定によると200人に1人が腟嚢胞を有しているとされる[199][203]バルトリン腺嚢胞英語版は腟というよりは外陰由来の疾患である[204]が、腟口に存在する瘤状の病変として見えることがある[205]。比較的若年女性に多く、通常無症候性だが、膿瘍を形成すると疼痛を生じ[206]、大きい場合は腟前庭英語版の入り口をふさぎ[207]、歩行障害を起こしたり性交痛を起こしたりする[206]

社会・文化

認識、象徴、卑俗性

これまでの歴史を通じて膣に対しては様々な認識があり、性欲の中心であるという考えや出産に重要であることから生命の暗喩であるとする考え、陰茎に劣るもの、見た目やにおいの好ましくないもの、卑俗なものなどと認識されてきた[208][209][210]。このような考えは性差や解釈のされ方によるところが大きい。進化心理学者のデイビッド・バスは陰茎は陰核よりも大きいうえに陰茎は容易に目に見える一方で膣はそうではなく、男性は陰茎から排尿して子供の時に陰茎を触るように教えられるが、女性は性器に触れないように教えられることが多く、触るような行為に害があると捉えるようになってしまうと述べている。バスはこのことが女性が性器にあまり詳しくなく、男児が女児よりも自慰行為を覚えるのが早く頻度も多いことの理由である、としている[211]

「膣」という言葉は日常会話では口にすることがふつう憚られ[212]、膣の解剖学的な構造については知らない人が多く、排尿のための器官であると勘違いする人もいる[213][214]。"boys have a penis, girls have a vagina"(男児には陰茎、女児には膣がある)というフレーズがそのような誤認を助長しており、女児の陰部には一つしか開口部がないという認識を生んでしまっている可能性がある[214]。作家のHilda Hutchersonは「多くの女性は幼少期から言語的にも非言語的にも自身の性器について醜く、臭く、汚いものであると条件づけられてきたために、パートナーが性器の見た目や臭い、味を嫌うのではないかという恐れから親密な関係を十分に楽しめない」と述べている。Hutchersonは女性は男性とは違って学校の更衣室で性器を比べ合いするような習慣がなく、それも多くの女性が自身の性器が正常なのかどうかを疑問に思う理由の一つである、と主張している[209]。作家のCatherine Blackledgeは膣があることは膣の無いパートナーと比べて格下に扱われ、二級市民のように扱われることである、と記述した[212]

ヒンドゥー教においては子宮がヨーニ英語版として性力の象徴とされている。画像はベトナムラムドン省カットティエンで発見された石製のヨーニである。

膣に対して否定的な見方があるのと同時に膣は女性の性の特徴や精神性、生命を象徴するものであるという見方もある。作家のDenise Linnは膣について女性らしさ、開放性、受容を強力に象徴するものであると述べている[215]

ジークムント・フロイトは、膣によるオーガズムと陰核によるオーガズムは別物で、思春期に達し成人女性として成熟すると性感帯が陰核から膣へと移行しうるという概念を提唱した[216]。大多数の女性は膣性交のみではオーガズムに達することができず、このような概念は多くの女性にとっては誤ったものであると感じるものであった[217][218][219]

宗教上での女性器の扱われ方に関しては、ヒンドゥー教ではヨーニ英語版として子宮や膣が象徴づけられている[220]。これはおそらくヒンドゥー教圏の社会において女性の性や膣が生命を生み出す力に価値を置いてきたことを示している可能性がある[221]。なお、ヨーニは子宮や膣を象徴するものであるものの直接的に女性器について言及する際に使う言葉ではない[222]

古代においてはone-sex modelという女性生殖器の解剖学的構造は男性生殖器が反転したものであるという考えがあり[223]、その点で膣は陰茎に相当するものであると考えられていた[224]。後年の解剖学の進展により陰核が実際には陰茎との相同器官であるということが明らかになった[225]

膣にはさまざまな卑俗な名称があり、英語ではcunt、twat、pussyなどがある。cuntは男女関係なく人を侮蔑するような形容語句として用いられることもある。この用法は比較的近年、19世紀後半に生まれたものである[226]。国による用法の違いを反映して、cuntは Compact Oxford English Dictionaryにおいては"an unpleasant or stupid person"(不快な、または愚かな人物)と書かれている[227]メリアム=ウェブスターでは"usually disparaging and obscene: woman"(通常軽蔑や卑猥な意味で女性を指す)と書かれている[228]。1970年代、cuntのような侮蔑的用語を排除しようと試みたフェミニストらもいた[229]。twatは女性器を指すとき以外はイギリス英語で特に侮蔑的な形容詞句として用いられ、愚かな人やいらいらさせるような人を指す際に用いられる[230]。pussyは弱虫な人を表すほかにヒトの外陰部や腟、更に転じて女性の性行為を表す[231]。英語で女性に対してpussyという用語を用いることは侮蔑的や名誉を汚すようなことであり、性的対象と扱っているとみなされる[232]

文学、芸術

視覚芸術の分野においても、膣や外陰部を主題とした作品は古今にわたり制作されてきた。1866年にギュスターヴ・クールベは女性器をクローズアップした裸婦画『世界の起源』を発表した[233]。20世紀以降はニキ・ド・サンファルの《ホン》[234][注釈 6]ジュディ・シカゴの《ディナー・パーティー英語版[235]のように、フェミニズムの観点から女性器を扱った作品も現れている。日本においてはろくでなし子が女性器を主題とした作品で知られる[236]

ラテン語で"talking vagina"(直訳すると話す膣)を意味するvagina loquensとは女性器自らが言葉を発する、とする文学や芸術における重要な伝統で、古代から伝承された"talking cunt"にまでさかのぼる[237][238]。このような文学・芸術作品では膣が魔法や魔力によって話すようになり、しばしば自らの純潔さの欠如を認める[237]。他の民間伝承においては膣に歯があるものとして語られる場合があり、"toothed vagina"のラテン語であるヴァギナ・デンタタvagina dentata)として知られる。これは性行為に関与した男性が負傷や去勢に至り得る可能性があるという含蓄がある。このような伝承は見知らぬ女性の恐ろしさを警告し、レイプを思いとどまらせるような教訓の話として語られることが多い[239]

1996年のイヴ・エンスラーによるヴァギナ・モノローグスは、女性の性を公衆の話題の対象とすることに貢献した。当作品は複数の女性によってインタビューに基づいたモノローグで構成され、作品を通じて女性の性や女性に対するレイプ・暴力行為を取り上げている[240]。エンスラー自身はこの劇について「膣を持つことの意味」を考えるための作品としており、女性とは膣を持つ人であるという曲解に対して反論している[241]

外科治療以外を目的とした女性器の改変

伝統や解剖学の知識不足、性差別などによって影響される社会的見方は自分自身や他人の性器を変えるという決定に大きな影響を及ぼしうる[184][242]。女性は自身の膣や外陰部といった性器を変えたいと感じることがあり、その理由は膣口を覆う小陰唇の長さが見た目上異常のように思えたり、より膣口が小さい方が良いと感じたり、より膣をきつくしたいと感じたりと様々である。女性は性器の見た目や性機能においても若いままが良いと望む場合もある。このような考え方はポルノグラフィのような[243]メディアに影響されることもあり[184][243]、その結果、自己肯定感が低くなることがある[184]。性交渉パートナーの前で裸になるのを恥じることや性行為を光を消した状態で行うことを要求することもある[184]。整容上の目的のみで性器の外科手術を行うことはしばしば否定的にみられるが[184]、医師には女性器切除のようなものとする者もいる[243]

女性器切除は女子割礼と呼ばれることもあり[244]、健康上の利益がないにもかかわらず女性器を改変する行為である[245][246]。女性器切除の中でもWHOの分類する類型でタイプⅢと呼ばれるものは最も有害性の高いものであり、陰唇の一部または全部を除去して膣を閉鎖するもので、性器縫合英語版という[247]。処女性を保つ目的で一旦縫合していた性器を出産のときだけ切開し、出産が終われば再び縫合する性器の再縫合(reinfibulation)が行われることもある[248]

女性器切除をめぐっては大きな論争がある[245]世界保健機関(WHO)を含む保健機関らは人権の観点から女性器切除に対する反対運動・廃絶支援を行っている[249]。女性器切除はほとんどすべての文明においていずれかの時代では存在してきたものであり[250]、最も一般的には女性の性的行動を制御するために行われてきた[250]。現在でもアフリカでは特に、また、中東東南アジアの一部地域では程度は少ないものの生後数日から思春期中ごろの少女に対して性欲を低下させ処女性を保つという目的で行われることがいまだに存在する[245][250][251]。Comfort Momohは女性器切除について、古代エジプトでは上流階級との識別のために行われた可能性があると述べており、エジプトのミイラにおいても性器閉鎖の跡が見られる[250]。女性器切除が行われる理由としては習慣や伝統であるということが最も多い。一部の文化においては女性器切除が少女が大人になるための儀式の一つであり、行わないことは社会的・政治的なつながりを乱すことであると考えられてきた[250][252]

ヒト以外の動物

脊椎動物

アナウサギの雌性生殖器のイラスト。1902年に描かれたものである。膣は"va"の部分。本記事は膣について扱うため詳しくは触れないが、ほとんどの哺乳類は子宮が左右に2つあったり1つであっても2つに分岐していたりする[253]
有袋類(左)と有胎盤類(右)の女性生殖器の概略図。1.卵巣、2.子宮、3.外側膣、4.膣、5.膣洞

膣は基本的に胎生の哺乳類有胎盤類有袋類)に見られる構造であり、子宮から雌の体外の方へと続いている。卵生の有羊膜類の動物でも卵管から子宮が続いて、子宮と総排泄腔の間を膣と呼ぶことがある[注釈 7][256]。ただし、哺乳類のような産道としての役割は持たない[256]

有袋類の雌には外側に膣が2つありこれを外側膣(lateral vagina)という[257]。外側膣は子宮側でも外陰部側でも左右が合わさる[258]。3つ目の膣として正中にあるものも知られており、これを膣洞(median vagina)という[257]。一時的に存在する場合もあれば生涯存在する場合もあるが、出産において用いられる膣である[259]

ブチハイエナの雌の膣に相当する構造には専用の開口部がなく、肥大した陰核(擬陰茎英語版と呼ばれる)を通す、つまりは多くの雄における陰茎のような構造をしており、排尿・交尾・出産は全て陰核を通して行われる[260]。イヌ科においては膣が交尾の最中に引き締まり、交尾結合(copulatory tie)を形成する[261]鯨類の雌では他の動物では見られないようなヒダ状の構造が存在しており[262]、海水が生殖器系に入るのを防止するため、望まない雄からの精子を除くためなどといった様々な仮説が存在する[263]

単孔目鳥類爬虫類、一部の両生類では膣ではなく総排出腔と呼ばれる体外への開口部を有する構造があり、これが消化器系・尿路系・生殖器系の共通の出口となっている。種によっては輸卵管の一部が直接総排泄腔へと続いているものも存在する[264][254]

他の動物における膣を含めた雌性生殖器の研究が少ないこともあり、動物解剖学における知識はまだ発展途上である[265][266]。雄性生殖器の方がより研究されている理由の一つとして陰茎は突き出ている器官として計測などがたやすく、解析する点でより単純であるためという理由が考えられる。一方で雌性生殖器は通常体内に隠れており、切開を伴う解剖が必要でより時間を要するという違いがある[265]。他の理由としては雄の陰茎の機能は妊娠をさせるという点で済むが、雌の生殖器は雄の器官との交尾の後に形状の変化を伴うことがあり、繁殖の成功を促進または阻害するように変化するという点が挙げられる[265]

ヒト以外の霊長類の動物は進化の関係上生理学的特徴に類似する点が多いため、ヒトの生物学・医学研究のための最適なモデルである[267]。月経はヒトの女性で最もはっきりしているものの、類人猿サルの仲間においても典型的にみられる[268][269]。例えばマカクは月経をする霊長類の一種で、周期や障害を通した変化はヒトの女性のものと類似する。ヒトとマカクでは月経周期や初潮前・閉経後のエストロゲン・プロゲステロン動態についても類似するところがある。しかし、卵胞期に上皮が角化を起こすのはマカクだけであるという違いもある[267]。マカクは膣pHもヒトとは異なっており、中性から弱アルカリ性程度で広く変動する。これは膣内細菌叢にラクトバチルスが優勢でないことが原因である可能性がある[267]。完全に同一なモデルとして当てはめることはできないものの、このような類似性からマカクは膣のHIV感染の動物モデルとして用いられる[267]

無脊椎動物

交尾を行う無脊椎動物の中にも「膣」と呼ばれる構造を有することがある[270]。このような種では雄で見られる雌へ挿入するための生殖器官を陰茎と呼び、それを受ける雌の器官を膣と呼ぶ[270]。膣が見られる無脊椎動物の例としては線形動物回虫軟体動物カタツムリ[270]扁形動物ヒラムシ[271]などがある。

節足動物昆虫の中にも膣を有する種が存在する。昆虫においても卵は卵巣で形成されてから輸卵管に排出される。輸卵管は卵巣と同様に1対あるが、これが左右で合したのち、生殖室(genital chamber)という空間を形成する[272]。この生殖室が一部の昆虫では管状の構造を形成していて、雄の陰茎を受容する機能を果たすことから膣と呼ばれる[273]ハエの一部で見られるような卵胎生の昆虫では生殖室の前壁が更に肥厚して幼虫を孵化させる子宮を作ることもある[274]

用語

日本語の「ちつ」の語源

膣は『解体新書』の際には「莢(さや)」と訳された[275]。その後、大槻玄沢が『官能真言』にて「室(さや)」とし、『重訂解体新書』では新たに「腟」という漢字を作ったという[276]。実際に、重訂解体新書では腟について「製字」としており、新たに字を作ったことが読み取れる[277]。しかしながら、「腟」という漢字はもともと肉が生じるという意味で使われた別の漢字として既に存在しており、玄沢は当時日本で使われていなかったこの字を再利用したのではないかという考えもある[278]。玄沢が重訂解体新書を完成させた当時は腟がにくづきと室を合わせた会意文字であることから想像できるように「しつ」と読んでいた[276]。実際の『重訂解体新書』では「音を叱と為す」と書かれている[277]。しかし、康煕字典を含め中国の字書には「しつ」の読みも「ちつ」の読みもあり、江戸時代に広く普及した宇田川榛斎の『医範提綱』で「ちつ」が採用されていたことが「ちつ」読みが普及した原因であると考えられている[279]

当初「腟」という漢字が用いられていたにもかかわらず「膣」という表記も使われるようになった理由は定かではない。この理由としては「ちつ」という音が室よりも窒の方が合っているように感じられること、牢と窂の関係のように異体字として発生したことなどが挙げられる[280]

腟と膣という2つの漢字表記が生まれてきたが、医学用語をまとめる用語集においてはほとんどが「腟」を採用している[281]。一方で日本・中国の字書においては「膣」が女性生殖器を意味する正統な漢字であるとする字書がある[282]。これについてはもともと中国では女性生殖器としての意味を持たなかった膣が明治期の留学生らにより輸入されて字書に意味が掲載されるようになり、それを今度は日本が中国の字書を参考にして膣に正統性がもたらされたためではないかと考えられている[283]。このような経緯で字書に掲載されてきたからか膣は国語審議会が定める「表外漢字字体表」に掲載されている一方で腟は簡易慣用字体としてすら掲載されていない[284]

膣と腟のどちらの漢字を使用するべきであるか、という点については議論がある。例えば産婦人科医の水田正能は膣という表記については誤用、使ってはならない、という立場であり[285]、医学界ではいまだに腟の表記が優勢である。このような立場はあるとはいえ、膣という表記を医学界で必ず使ってはならないというわけではなく[280]、実際に明治期以降には活字が使われ始めたこともあり一つの文書で腟・膣表記がどちらも出現するというものさえある[286]。医学界による「腟」の推奨も印刷標準字体における「膣」の推奨もともに推奨であり[287]、どちらが正しくどちらが誤りとはいえないのが現状である[288]

日本語以外の膣を表す語の語源

膣の英語"vagina"はラテン語で植物の(さや、sheath)や刀剣の(scabbard)を意味する"vāgīna"から来ている[1]メリアム=ウェブスターでは膣としての用法のvaginaについて初出を1612年としており、16世紀には確認できないとしている[289]。しかし、紀元前3-2世紀ごろプラウトゥスが膣の意味でvaginaという語を使った例は唯一確認できる[289][290]

ギリシア語では膣は"colpos"または(ギリシア文字:κóλπος)であり、現在でも膣から子宮頸部を観察するときに用いるコルポスコピーにその名が残っている[291]κóλποςはもともと窪みや入り江、胸、子宮といったさまざまな意味を持つ用語として用いられていたが、19世紀ごろに複合語で用いる場合には膣の意味も見られるようになった[290]

脚注

注釈

  1. 粘膜固有層と粘膜下層ははっきりとした境界を有さない。場合によっては粘膜固有層と粘膜下層をまとめて粘膜固有層とすることもある[29]
  2. 子宮動脈の枝として腟動脈が存在する場合もある[45]。腟枝と腟動脈の分類の仕方については難しく、英米の成書では女性に下膀胱動脈英語版がなく、それが腟動脈に相当するという記述がなされる[46]
  3. 確かに腟前壁の方が神経が多いが、上皮下であり上皮内では認めなかったとの報告もある[66]
  4. ただし、既存の経口PGE2との併用は禁忌であるなど併用禁忌が多く、注意を要する[115]
  5. 抗菌薬による細菌の低下により逆に真菌が過剰増殖しうり、pH上昇の原因になる。
  6. 《ホン》の入口は膣を模している。
  7. 例えば、ニワトリでは総排出腔と卵管の遠位部としての子宮(卵管の卵殻腺部)の間を膣部と呼ぶ[254][255]

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