メラス
本症は母系遺伝をとるので、母親、同胞の多くは変異をもっています。しかし変異mtDNAをもっていても、無症状なものから、非特異的症状(筋力低下、易疲労性、低身長、糖尿病など)のみ、典型的メラス症状を示すものまでと幅があります。病理学的に血管(小動脈)の異常がある(血管平滑筋に異常ミトコンドリアが増加している)ことから、血管系の異常が本症の発症に大きく関与していると考えられています。
成人発症もありますが、多くは小児期に最初の脳卒中に似た症状が出現します。患者さんの80%は15歳までに第1回目のエピソードを経験します。脳卒中様症状が出現する前から、低身長、易疲労、軽度の筋力低下をみることが多いとされています。脳卒中様症状は嘔吐を伴う発作性の頭痛、痙攣、意識障害で、回復後に片麻痺、視力障害(多くは一過性)を残します。脳卒中様症状は数時間から数日続き、その間は高乳酸血症による代謝性アシドーシスをみます。成人にみられる脳卒中と異なり、麻痺のような症状は一過性で通常は速やかに快復します。
発作症状を繰り返すにつれ、知的退行、てんかん、半盲(時に両側性)、筋力低下が進行し、るいそう、感染、腎不全などでをみることもあります。
血清とくに髄液の乳酸値が正常の2倍以上と高くなります。脳CT/MRIでは多巣性の脳梗塞類似の所見を後頭部優位に認めます(図32)。
![]() | 後頭部(写真の左下の方で、矢尻印で囲んである部位)は薄くみえる(シグナル強度が低い)。この部は血流が少なく脳梗塞の後の所見に似る。メラスではこのように、後頭葉に病変が強い傾向がある。 病気が進行すると、本症のように脳室の拡大、脳の萎縮が目立つようになる。 |
図32:メラスの脳MRI(T1強調画像) |
ミトコンドリアをよく染めるコハク酸脱水素酵素(succinate dehydrogenase: SDH) 染色すると、正常筋(左:N)では血管はほとんど染まらない。 メラス(右:MELAS)では血管壁が強く染まり、異常なミトコンドリアが血管壁に蓄積していることが分かる。 | |
図33:筋組織内の異常血管(SSV) |
Melas
MELAS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/26 02:03 UTC 版)
ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群 (Mitochondrial myopathy, Encephalopathy, Lactic Acidosis, Stroke-like episodes)あるいは略してMELAS(メラス)は反復する脳卒中様発作を特徴とするミトコンドリア病の一種である(以下"MELAS"と呼ぶ)。MELASの80%がmtDNAの点突然変異(3243A→G変異)により引き起こされる。
症状

MELASはミトコンドリアの障害でATP産生がうまくいかなくなるミトコンドリア病(ミトコンドリア脳筋症)の1種である。5~15歳で好発し、知能低下や感音性難聴、低身長、易疲労性、心筋症、筋力低下といったミトコンドリア病に共通する神経・筋症状のほかに、繰り返す脳卒中様発作(頭痛・嘔吐・痙攣・意識障害・片麻痺など)が特徴的で、この発作時にCTやMRI(拡散強調画像)をとると脳梗塞に類似した病変を認める(ただし、この病変の発症機序は不明)。
検査所見

ミトコンドリア病全般に共通することだが、ミトコンドリアでのATP産生(電子伝達系など)がうまくいかないことで解糖系が亢進し、血中・髄液中の乳酸濃度と乳酸/ピルビン酸比(L/P比)が上昇する。また、筋生検を行い、ゴモリ・トリクローム染色を行うと赤色ぼろ線維を認める。MELASに特徴的な所見としては、後頭部の脳梗塞類似病変や脳波での焦点周期性てんかん型放電がある。
遺伝
MELASの80%はミトコンドリアDNAの点変異(3243A→G)であり、母系遺伝する。
治療
現在、発症後の治療法は対症療法にとどまるが、2015年2月24日、英国議会上院が、ミトコンドリアDNAに異常のある女性の受精卵から核を取り出し、正常なミトコンドリアDNAを持つ女性の脱核した卵子に移植するという手法で、3人の遺伝子をもつ受精卵を誕生させ、MELASの子供への遺伝を防止する技術を承認した[1]。この治療法は、ミトコンドリア脳筋症の根治的治療法として期待される一方で、英国上院での審議では「デザイナーベビー」につながるとの倫理上の懸念から反対意見や慎重論が根強かった[1]。
2013年に日本においてもコエンザイムQ10類似の薬剤の臨床試験が開始された[2]。
川崎医科大学などの共同試験によって、アミノ酸の一種であるタウリンを大量に投与すれば発作を抑えられることがわかり、2019年1月、厚生労働省の部会でタウリンの薬の承認申請が了承された。
脚注
- ^ a b “世界初「親3人」体外受精、英議会が承認 来年にも誕生”. 朝日新聞. (2015年2月25日) 2015年2月25日閲覧。
- ^ “ミトコンドリア病MELAS(メラス)に対するEPI-743の臨床研究を開始”. 国立精神・神経医療研究センター. (2013年8月9日) 2015年12月13日閲覧。
外部リンク
- [1] - MELASの解説
- [2] - MELASの解説
- [3] - 頭痛に関する用語集(MELASの解説あり)
- ミトコンドリア病(指定難病21) - 難病情報センターによるMELASの解説
- [4] - 「ミトコンドリア病患者へのコハク酸ナトリウムの投与」
MELAS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 04:19 UTC 版)
家族歴を有する若年性糖尿病、難聴などを特徴とするミトコンドリア脳筋症のひとつにMELAS(メラス)がある。MELASは血管壁ミトコンドリアの機能不全による痙攣発作、不全片麻痺や半盲などの脳卒中様発作を繰り返す。脳卒中様発作は後頭葉、頭頂葉でしばしば認められ、病変分布が支配領域に一致しないため脳卒中様発作と言われる。
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