V‐30
V30
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 00:31 UTC 版)
V30 (μPD70116) は、NECが製造した、インテル8086の(正確にはNECのμPD8086(μCOM-86)の)上位互換マイクロプロセッサである。外部バス8ビットのV20 (μPD70108) がある。V30はPC-9800シリーズの他、同社の輸出向けノートPCのen:UltraLiteにも(V20ではなくV30が)採用された。V20はワープロ専用機文豪ミニ5の一部機種や、一部のPC/XT互換機などに採用された。またV30・V20のセカンドソース製品には、ソニーCXQ70116・CXQ70108、シャープLH70116・LH70108、ザイログZ70116・Z70108 がある。 ハードウェア面では、オリジナルの8086に対してピン配置が互換である。信号のタイミングは、8086のクロックのデューティ比が1:2なのに対し、V30は1:1と多少異なっており、これに付随して他のタイミングの定義も異なる。ただし、実際にはそのまま差し替えても問題なく動くことが多かった。 8MHzまでは、原発振を2分周するクロックジェネレータμPD71011のほかに、3分周のμPD71084も使用できる事から、1:2も許容されている模様。10MHz以上(8MHz超)はμPD71011指定で、1:1のみ。最低クロック周波数は2MHzで、停止することはできない。 8086の中には沖電気(現 ラピスセミコンダクタ)のMSM80C86A-10(10MHzバージョン)のように、メーカやクロック周波数によってはデューティ比が1:1のもの(MSM80C86A-10データシート J2O0010-27-X3。これはクロックの停止も可能)もあり、これらからの交換の場合はさらに有利だった。実際にJ-3100SS(元祖DynaBook)のCPUをMSM80C86A-10からV30に載せ替えた例もある。ただし、フラットパッケージ同士でパッケージ形状およびピン配置(MSM80C86A-10は56ピン、V30は52ピン)が異なるため、簡単ではない。 ソフトウェア面では、バイナリコードレベルで80186上位互換であり、オリジナルの8086に対しても上位互換である。 また、8086・80186に無いいくつかの命令が追加されていた。V30専用のアセンブリニーモニックは、8080からの流れを汲んだ8086のニーモニックとは異なっており、V30のニーモニックに対応したアセンブラはほとんど存在しなかった。また、80286とは異なる拡張をした命令群は80286以後のインテル系CPUではサポートされないため積極的に用いられず、市場では主に「高速な8086」と見なされて利用されていた。一方で、一部のソフトウェアはV30固有の拡張命令を使用していたため、PC-9801ではソフトウェア資産継承の視点から、しばらくの間はV30とインテル系CPUを両方実装し、切り替えて使用する方式をとった。EPSON PCシリーズでは、V30を搭載したのはPC-286Uや初期のPC-286NOTEなどPC-286シリーズのごく一部の機種のみで、それ以外の機種では、このようなソフトウェアの中には正常に動作しないものもあった。1990年のPC-9801DA/DS/DX以降の機種ではPC-98GSなど一部を除きPC-9800シリーズでもV30を省略したため同様の問題を抱えることになったが、そのころにはそのようなソフトが少なくなっていたため、あまり表面化しなかった。なお、NEC自身はV30固有命令の使用を推奨しない旨を案内していた。 CPU内部のバスを増強してデータ転送効率を上げるとともに、所要クロック数の多い乗算・除算命令をハードワイヤード化し、命令実行に要するクロック数を削減したため、多くの命令を8086の約2/3のクロック数で実行可能となり、単純にCPUを差し替えただけで、同一の動作クロックで数%から数10%高速で演算処理を行うことができた。 マイクロコードの著作権がセカンドソース契約で問題となり、NECは先手を打って1984年、Vシリーズがインテルの著作権を侵害していないことを確認する訴訟(債務不存在確認訴訟)を起こした。これに対してインテルが反訴したため裁判は長引いたが、5年後の1989年にV30はi8086の著作権を侵害していないとの判決を得た。ただし、その直接の理由は、8086に著作権表示がなく、当該製品に対して著作権が認められないからである。一方で、マイクロコードにも著作権があることが判示され、互換プロセッサの製造が困難となった。86系のマイクロコードの著作権への抵触を回避するために、完全にハードワイヤード化されたV33系へ移行した。 V30はμPD8080AF(μCOM-80F)を元にした、8080エミュレーション機能を実装していたのも特徴の一つである。
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