非集計行動モデル
【英】:disaggregate demand model
概要
交通機関の選択行動を個人のランダム効用理論に基づき構築したモデル. これまでのモデルはゾーン毎にデータを集計して作られているため, 個人の行動メカニズムを明示的にとらえることができなかった. 非集計行動モデルは, (1) 少数のデータでよい, (2) 時間的空間的移転性が高い, (3) 交通サービス改善の便益算定が容易である, などの特徴を有している. 誤差項の分布形によってロジットモデルとプロビットモデルが誘導される.
詳説
非集計行動モデルは, 1970年代初めにMcFaddenらによって開発・提案が行われた交通機関の選択行動を予測する手法である. 理想的交通人の選択行動をミクロ経済学の効用理論に基づいて記述しているため, 「個人選択モデル」とも呼ばれている. 個々人の選択データをモデル化する離散選択モデルは, すでに心理学や生物学の分野で提案されていたが, Manheim, Ben-AkivaらがMcFaddenの提案する非集計行動モデルの理論研究を積極的に行い, 交通計画における予測技術を大きく進展させた. 非集計行動モデルを用いた需要予測は交通機関の選択問題をはじめ, 観光・買物などの目的地選択, 鉄道のアクセス駅や経路の選択, 駐車場選択などに用いられてきた.
都市圏の将来交通量を推計する4段階推定法では, ゾーン間の分布交通量が推計された後, 交通機関別の交通量を予測する. このとき用いられるデータはゾーン内で集約された性別, 年齢別, 目的別の統計値, すなわち集計データである. このため交通を行う人の属性や効用は選択行動に反映することができなく, きめの細かい交通行動の予測はできなかった. 非集計行動モデルは効用理論をベースに個人の選択行動を予測しており, 集計モデルと比べて, 1.理論的背景が明確で個人の意思決定過程を表現している, 2.モデル作成のためのデータが比較的少なくてすむ, 等の利点を有している. しかし非集計行動モデルにおいては選択した交通機関と, 選択しなかった交通機関の効用差を求めるために比較データを作成しなければならない.
非集計行動モデルはランダム効用理論に基づき, 「個人が交通行動の基本的な意志決定単位であり, 個人はある選択状況の中から最も望ましい, すなわち効用が最大となる選択肢を選ぶように行動する」と考え, さらに効用の大きさは「確定項と誤差項」によって記述できると仮定している. 最も多用されているロジットモデルにおいては, 効用関数の誤差項の確率分布としてガンベル分布を想定している. 一方, 誤差項の確率分布を正規分布と仮定するとプロビットモデルが誘導される.
実際の交通行動において, 誤差項の分布がガンベル分布 (Gumbel distribution) であるか, 正規分布であるかの研究はほとんどなされていない. また, 離散的な行動データ (バスか, 自家用車か) を用いてロジットモデル (連続関数) のパラメータを回帰し, 将来予測のときに効用値 (連続値) を用いて, 再び離散的行動を判別しなければならない.
ロジットモデルはモデルの意味が理解しやすく, パラメータの推定も比較的容易であり, その一般式は以下の通りである.
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ロジットモデルのパラメータは最尤法により推定される. 非集計行動モデルに用いられるロジットモデルは, 選択肢の条件によって次のように分類される.
(3)ネスティッドロジットモデル
多項ロジットモデルのIIA特性による制約を緩和したロジットモデル.
IIA (Independence from Irrelevant Alternatives) 特性は, 「選択確率比の文脈独立」とも呼ばれ, ロジットモデルの問題点として常に指摘されている. すなわちIIA特性とは, ある個人にとって選択肢数が3以上あるとき, ある2つの選択肢の確率比は, それ以外の選択肢から独立であることを意味する. しかし交通行動の場合には類似性の高い選択肢が含まれることが多く, 厳密にIIA特性を保つことができない. このため選択肢の類似性に応じて, 選択肢を2つのグループに分けるネスティッドロジットモデルが開発された. 選択肢集合はいくつかの部分集合に分割され, 階層構造を持つ選択ツリーが構成される.
プロビットモデルは効用関数の誤差項に同時正規分布を仮定するため, ロジットモデルのようにIIA特性に伴う適用上の制約がなく, 個人による効用の異質性を扱うことができる, という特徴がある. しかし, 選択肢が3項以上になるとパラメータの推定が複雑になり, 操作性が極端に悪化する.
[1] 土木学会, 『非集計行動モデルの理論と実際』, 丸善, 1995.
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