電車制御の電子化
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電車や電気機関車は誕生以来動力として「直流電動機」を使用し、その制御には複数の電動機と多数の抵抗器を繋ぎ変えて電動機に流れる電流を制御する「抵抗制御」という方式を採用していた。直流電動機は荷重の変化や回転数の変化に対する許容幅が広く電動車に適した電動機であるが、重要部品である電機子が回転により物理的に磨耗するため定期的に清掃や部品交換等のメンテナンスが必要であることが難点。また抵抗制御もカム軸により電気接点をオン・オフするため経時劣化が避けられず定期メンテナンスを必要とする上に抵抗器による電気のロスが避けられない。 1968年に営団地下鉄で試作された6000系電車は、抵抗制御をやめて電動機に流れる電流を半導体素子の働きにより無接点で電子的に制御するサイリスタチョッパ方式を採用し、運行コストとメンテナンス性を改善した。このサイリスタチョッパは大別して主電動機に直巻電動機を使用しつつ、電動機の電機子に流れる電流をスイッチングする電機子チョッパ制御と、複巻電動機の分巻界磁に流れる電流をスイッチングする界磁チョッパ制御、分巻電動機の電機子と他励界磁を共に高周波スイッチングする4象限チョッパ制御の3種が存在し、前2者が先行した。界磁チョッパは高速電車への回生ブレーキ機能の付加に適して東急・京王・近鉄・阪急等の大手私鉄各社に1970年代以降大量採用され、電機子チョッパは中・低速域での高加減速を繰り返し、主回路から抵抗器を追放できることによるトンネル内の温度上昇抑制や省エネルギーが大きなメリットとなる各都市の地下鉄電車で1970年代前半以降標準的に採用され、同じく高加減速運用に充当される阪神の「青胴車」と呼ばれる各停用電車にも改造および新造で導入され、それぞれ省エネルギーに大きな威力を発揮した。また、これらを統合した4象限チョッパは営団地下鉄や一部の新交通システムで採用され、続くVVVF制御への橋渡しとなった。 電車駆動システムの本格的な電子化は、電動機に「かご形三相誘導電動機」を使用し、「可変電圧可変周波数制御」(Variable Voltage Variable Frequency:VVVF)方式で電動機を動かすことにより達成された。この電動機の回転速度は入力される交流電流の周波数に比例し、出力は電圧によって制御できる。また電機子のような磨耗部品が無いためメンテナンスを大幅に軽減できるという利点がある。「可変電圧可変周波数制御」方式とは、大容量のインバータにより適切な周波数・適切な電圧の交流電気を発生させて電動機を動かす方式で、電力ロスが少ない上に物理的な電気接点を持たないためメンテナンスが少なくて済むという特徴がある。 この方式を日本で最初に採用したのは電気容量が少なく、軌道回路が存在しないために誘導障害が問題となりにくい路面電車で、1982年の熊本市電8200形である。本格的な電車に採用されたのは1984年の近鉄1250系であり、これは世界最初の大型電車への採用となった(最初の車両は試作車的な存在であり量産は1987年から始まった)1990年代に入るとJR東日本とJR西日本でVVVFインバーター制御による通勤電車の試作・量産が始まった。新幹線では、1990年に試作車が完成し1992年から営業運転に入った「のぞみ」用の300系電車がVVVFインバーター制御を採用して、軽量化と高速化を達成した。在来線特急もJR西日本の681系電車「スーパー雷鳥」が1992年から営業運転を始めている。その後新たに設計される電車や電気機関車は大半がVVVFインバーター制御を採用することになった。
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