離隔態勢の柔道
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嘉納亡き後も、嘉納の求めた「離れて行う柔道」の試行は第2代講道館館長の南郷次郎や望月稔や富木謙治などに引き継がれ、1942年に南郷次郎館長時代に講道館において「柔道の離隔態勢の技の研究委員会」が設置されている。中でも富木謙治による離れて行う柔道の当身と立ち関節を主体とする「離隔態勢の柔道」の研究は、講道館護身術や合気道競技(柔道第二乱取り法)などとしてまとめられることになる。 富木謙治は、嘉納治五郎の遺した言説から、古流柔術各流派、合気柔術(合気道)、また剣術(剣道)を包括する嘉納の『柔道原理』を分析する。また柔道の技を、従来の乱取で行われる組む技(第一部門)「投技」・(第二部門)「固め技」と、従来の形で行われる(打・突・蹴や武器に対峙する)離れた技(第三部門)「当身技」・(第四部門)「(立ち)関節技(手首関節や肘関節を捕っての立ち関節技や居取り技の投げや固め)」、の4種に再度分類し、「投技」・「固め技」の従来の乱取に対して、「当身技」・「関節技」によって行われる柔道の第二乱取法を提唱する。 富木は、嘉納の帰納した古い各流柔術に一貫する基本術理としての「柔道原理」を、「自然体の理」、「柔の理」、「崩しの理」の3つにまとめ、攻防の理論として、また「投技」「固め技」「関節技」「当身技」のわざをそれぞれの状況に当てはめる。 「攻防」に即応する、自在な姿勢の取り方として『自然体の理』 (変幻自在、臨機応変に、且つ「不動心」や「心身一如」「動静一如」の禅の心法に通じる「無構え」の思想) 「防御」の立場で、相手の攻撃を無効にする柔らかい働きかけとして『柔の理』 (「不敗の理」の柔軟な体の運用)「組んで」相手の力を流す 「離れて」相手の斬突をかわしうける 「攻撃」の立場で、相手の姿勢のバランスを崩して勝機を「つくる」『崩しの理』 (古流柔術の技の本質・中心技法としての「倒すこと」と「抑えること」)「組んで」相手の襟・袖(着物、服、又は手や首、胴、脚など)をつかんで崩す 「離れて」相手のあご・肘・手首に触れて崩す 相手の手首または前腕をつかむことによって、特にそのつかんだ腕をひねることによって相手の「姿勢」を崩す場合。「関節技」 相手の体、特に顔面に力を加えることによって相手の姿勢を「崩す」場合。「当身技」 崩しの理において富木は「つくり」と「かけ」をそれぞれ重視する。またその中で富木は、柔術における「「わざ」の大目的は「倒すこと」と「抑えること」の二つに帰することが出来る」とし、柔道の第一乱取、第二乱取のそれぞれの技の分類に当てはめる。 「倒すこと」の練習 第一の場合組みついてからかける「わざ」の練習であって、主として、お互いが襟・袖(着物、服、又は手や首、胴、脚など)に組みついて、足や腰のはたらきによる「わざ」を練習する。(腰技、足技など投技) 第二の場合離れて相手の打・突・蹴や武器の斬突を防ぎながらかける「わざ」の練習であって、主として、手刀(広義)のはたらきによる「わざ」を練習する。(当身技) 倒すときに腕手首をとる。(関節技) 「抑えること」の練習 第一の場合寝技に属する「わざ」の練習であって、主として、相手を仰向けの姿勢に抑えることを練習する。(固め技) 第二の場合「座技」(柔道形における居取り技)に属する「わざ」の練習であって、主として、相手を「うつ伏せ」の姿勢に抑えることを練習する。(関節技) なお、富木は「当身技には二つの性格がある」、「一撃必殺の打・突・蹴の威力を発揮するもの」で「拳・手刀・肘・足などの鍛錬に重点を置く」(衝撃的破壊的なもの)、「相手の姿勢の「崩れ」に乗じて、一点の力の働きで相手を「倒す」」もの(柔らかい力の働きであるが、加えた力が持続的であることによって相手を「倒す」ことが出来る)があり、「「当身技」における二つの性格の相違は、その練習方法においても根本的に異なる」と説明する。 また、富木は嘉納の言説における、「『柔道原理』で剣を使えば剣術となり、槍を使えば槍術となる」の思想から、「「柔道原理」の中には「剣道原理」も吸収されていることを意味する」とし、 目付 間合 刀法 を基とする「手刀」法の働きを持っても「柔道原理」を分析する。 富木は「柔道原理」の手刀法として、「相手の打・突・蹴や武器による斬突を、刀法の術理で防御するばかりでなく、相手が自分に「組み」つこうとするのを瞬間的にそれを止める働き、また、「組み」つかれてから、それを「離脱」するはたらきなど、すべて広い意味での「手刀」の働き」とした。
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