陰陽魚
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 10:10 UTC 版)
陰陽勾玉巴(寿の字巴) 陰陽魚太極図 この形をした太極図は、陰陽太極図、太陰大極図ともいい、太極のなかに陰陽が生じた様子が描かれている。この図は古代中国において流行して道教のシンボルとなった。白黒の勾玉を組み合わせたような意匠となっており、中国ではこれを魚の形に見立て、陰陽魚と呼んでいる。黒色は陰を表し右側で下降する気を意味し、白色は陽を表し左側で上昇する気を意味する。魚尾から魚頭に向かって領域が広がっていくのは、それぞれの気が生まれ、徐々に盛んになっていく様子を表し、やがて陰は陽を飲み込もうとし、陽は陰を飲み込もうとする。陰が極まれば、陽に変じ、陽が極まれば陰に変ず。陰の中央にある魚眼のような白色の点は陰中の陽を示し、いくら陰が強くなっても陰の中に陽があり、後に陽に転じることを表す。陽の中央の点は同じように陽中の陰を示し、いくら陽が強くなっても陽の中に陰があり、後に陰に転じる。太極図は、これを永遠に繰り返すことを表している。魚眼の位置は下記で述べるように古来のものでは左右に置かれていたが、現在流行のものは上下に置かれることが多い。これを陽極まれば陰に転じ、陰極まれば陽に転ずることを表しているとするのは乾・坤を上下に配する先天図による説明様式であり、陽中の陰、陰中の陽とするのは離・坎を上下に配する後天図による説明様式である。これは次項の来知徳太極図の影響を受けていると考えられる。 この陰陽魚の太極図の作者は分かっていない。その起源となる図について早くに言及したものに明初の趙撝謙『六書本義』がある。しかし、そこでその名称は太極図ではなく、「天地自然之図」または「天地自然河図」であった。これは三皇五帝の伏羲が天地自然に象って八卦を作ったという伝説や黄河から現れた龍馬の背にあった河図にもとづいて八卦を作ったという伝説による。趙撝謙はこの図を蔡元定(朱熹の弟子)が蜀の隠者から得て秘蔵していたもので、朱熹も見たことのなかったものだと述べている。その後、章潢の『図書編』において「古太極図」の名で収録され、また趙仲全『道学正宗』ではこれに円内を八等分する四線の入った図を「古太極図」として収めた。清代になると考証学が隆盛し、胡渭は『易図明辨』を著して宋学の図書先天の学を攻撃し、これらの図は道教に由来して儒教のものではないとする論を展開した。そして、「古太極図」は五代末の道士陳摶が伝えたという3つの易図の一つ「先天図」であり、錬丹術の基本典籍『周易参同契』に由来するとした。これによりこの図は「陳摶先天図」「先天太極図」などとも呼ばれるようになった。 現在のものは魚頭が幾何学的な半円になっているが、これらの図では円の中央で反対側まで細長く伸び、互いに食い入る形になっている。また魚眼は古い図では円形ではなく、滴状であった。円で太極を、黒白の色で陰陽を、黒地と白地の配置で八卦を表し、これ一つで『易経』繋辞上伝の「太極 - 両儀 - 四象 - 八卦」の生成論をすべて含んでいる。ここで円内の白黒の配置は伏羲先天八卦に対応しており、円の外側に八卦が一緒に描かれる図もある。このことは円内を8等分する4つの直線が描かれた趙仲全の「古太極図」で分かりやすく、扇状の領域内で円側から尖端に向かって初爻(下爻)、第2爻(中爻)、第3爻(上爻)の陰陽が表されている。震・離・兌・乾というように陽気が東北(左下)から始まり南で最も盛んとなる様子は、白地が外側から内側に段々広がっていき、中心から真上にかけてすべてが白地になる様子で描かれ、巽・坎・艮・坤というように陰気が西南(右上)から始まり北で最も盛んになるのは、黒地が外側から内側に段々と広がっていき、中心から真下にかけてすべてが黒地になることで描かれる。問題があるのは西(右)の坎と東(左)の離であるが、胡渭は互いの魚頭魚眼が中央に入り込んでいることを『周易参同契』で戊己(坎離の納甲)が中宮にあることと関連させ、外側の領域を無視して中央東側の黒中白点が坎を表し、中央西側の白中黒点が離を表すとした。これに対して張恵言は二卦だけが東西逆転するのはおかしく、他の六卦と同様、外側から下中上の爻に対応し、魚眼は坎・離の中爻(陰中の陽、陽中の陰)ではなく各上爻の変形としている。 なお韓国では、「朝鮮半島で使われる陰陽魚の太極図は朝鮮固有の模様である」との主張(韓国起源説)があり、証拠として『太極図説』の撰述(1070年)より古い新羅時代(682年)や百済時代(538年~660年頃)に作られた遺物を挙げている(詳細は大韓民国の国旗#大韓民国の太極旗を参照のこと)。
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