長男の心得
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 03:57 UTC 版)
初出:『yom yom』vol.13〈2009年11月〉 依頼人、畠田靖彦の視点で語られる。 2年前、靖彦の母ツルが癌で亡くなる前、ツルが使者に依頼して、靖彦が高校3年生の時に亡くなった父に会ったと言う。そして、自分が死んだ後に家のことで困ったことが生じたら、使者に連絡して自分を呼び出すよう靖彦に言い残す。 靖彦は遊ばせていた山を売ることにしたが、権利書が見つからないので母に尋ねる必要を覚え、そのため母が教えてくれた使者の連絡先に電話をかけたと言う。一方で、靖彦は、一人息子であり、祖父の代から続く工務店の跡取りである太一が、弟の息子や娘たちと比べておとなしく、愚鈍に見えることを心配している。そして、自分以外の親族が、太一を高く評価するのが理解できない。 約束の場に現れた使者が高校生だったため、靖彦は彼に高圧的で傲慢な態度を取る。そして、親はこんなことをやっているのを知っているのか、学校に入っているのかと尋ねる。使者の少年は、ぎこちない笑顔を浮かべ、答えられないと言う。 面会当日、使者は靖彦に、先日の質問の答えとして、自分には両親ともいないと答える。靖彦は、変なことを聞いて悪かったと答える。 靖彦が面会場所の部屋に入ると、ツル本人が迎える。頬に触れられ、靖彦の目に涙がにじむ。ツルは、山を売るというのは嘘だと指摘する。靖彦はそれを認め、自分の病名を知っていたかとツルに尋ねる。ツルが癌だと診断されたとき、弟の久仁彦は孫や親戚には告知しようと言ったが、靖彦はそれを止めた。その結果、ツルが亡くなった時に、太一や姪の美奈からは「知っていればもっと会いに行ったのに」と責められた。自分の判断が正しかったのか、靖彦は知りたかったのだ。しかし、代わりにツルは、「あんたは優しいよ」と答える。そして、久仁彦を大学にやると言いながら、実は追い出したんじゃないか、自分が店を継いで悪かったと気に病んでいることを、自分も嫁の祥子も気づいていたし、たぶん久仁彦本人も気づいていた、もうそのことは気にするなと。ツルは、太一のことをいい子だと言う。そして、自分がどうして使者に依頼して夫に会ったのかまだ分からないのかと靖彦に尋ね、人の親ならいつか分かると言い残して消えていく。 面会後、感想を求める使者に、靖彦は「本物だと騙されそうになった」などと憎まれ口を叩く。しかし、すぐに感謝を表し、名刺を使者に手渡して、困ったことがあったらいつでも連絡してくれと言う。 その数年後、ツルの遺した日記から、彼女が使者に依頼して靖彦の父に会ったときの記述を見つける。ツルは、太一を連れて会いに行っていた。彼女は、太一を畠田家の跡取りとして夫に紹介したのだと靖彦は悟る。そして、父が太一の頭を撫で回したように、自分もいつか太一の子にそうするのだろうかと思う。
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長男の心得
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畠田靖彦(はただ やすひこ) 50代で、地方の工務店の社長をしている。使者についてはほとんど信じていなかったが、山を売るための権利書のありかが分からないためという理由で、2年前に亡くなった母ツルの遺言に従い、母との面会を依頼してきた。本当は山を売る気はなく、ツルが死ぬ前、自分の判断で彼女が癌だということを孫や親戚に告知しなかったため、死後に太一や美奈や他の親戚たちに「知っていたらもっと会いに行ったのに」と責められたが、自分のあのときの判断が正しかったのかを確認したかったからだった。 自分が長男だということで気を張って生きてきたが、自分がその器ではないとも思い、弟の久仁彦に対して負い目を抱いてきた。それを、再会したツルに指摘されて、解放される。 歩美が子どもだということで、最初に会ったときには傲慢な態度を貫き、歩美の第一印象は「嫌な奴」。しかし、歩美が両親を亡くしていたことを知ると、絶句し、彼を見下すような発言をしたことを謝罪してきた。また、面会後に感想を歩美が求めると、「つい、本物だと騙されそうになった」と憎まれ口を叩きながらも、感謝し、何か困ったことがあったら連絡するようにと名刺を手渡した。 一人息子の太一が、従兄妹たちに比べて成績も悪く、おとなしい性格なのを心配し、ツルが生きていれば太一が畠田家の跡継ぎとしてふさわしいと思うかどうかと疑問に思っていた。そして、再会したツルが太一をいい子だと言っても信用できなかった。しかし、ツルとの再会の数年後、ツルの日記を見つけ、彼女が2歳の太一と一緒に亡父と会ったことを知る。そして、彼女が太一を畠田家の跡継ぎとして父に会わせたのだと悟った。 畠田ツル 靖彦の母。2年前に癌で亡くなる前、自分がかつて使者に依頼し、死んだ夫と面会したことがあることを教え、自分が死んだ後に家のことで困ったことが生じたら、使者に連絡して自分を呼び出すように言い残した。 靖彦の依頼で呼び出されると、もう久仁彦を追い出して家業を継いだなどと考えるのをやめるよう諭した。そして、どうして自分が使者に依頼して夫に会ったのか、いずれ分かると言い残して消えていった。 畠田太一 靖彦の息子。地元の私立大学で3年生の21歳。おとなしい性格で、靖彦は本家の跡取りとして男らしさに欠けると思っている。しかし、他の親族たちは太一のことを高く評価している。 靖彦がツルと面会して数年後には家業を継いでおり、結婚している。 2歳の時、ツルが使者に依頼して夫に会った際、一緒に面会している。 畠田祥子(はただ しょうこ) 靖彦の妻。頑固ですぐに大声を出す靖彦をよくたしなめ、その言い方や内容が年々ツルに似てきていると靖彦は感じている。ツルによれば、靖彦が長男という立場に自信が無く、弟の久仁彦に負い目を感じていることを知っている。 靖彦の父 靖彦が高校3年生の時に心臓病で亡くなった。死ぬ前に財産分与や工務店の今後について指示するなどしっかりしたところがある反面、家族が自分の知らないところで何かするのを嫌う人で、すぐに憎まれ口を叩いた。ツルは、そういうところが靖彦に似ていると言った。 使者に呼び出されてツルと再会したとき、初孫である太一を見せられ、涙を流して喜んだと、ツルの日記に記されている。 畠田久仁彦(はただ くにひこ) 靖彦の4歳下の弟。小さい頃から真面目で勉強ができ、靖彦とツルのはからいで東京の大学に入学する。大学卒業後は、地元に戻って町役場で働いている。祥子によれば、対人関係の持ち方が、靖彦が北風なら久仁彦は太陽。 畠田裕紀(はただ ひろき) 久仁彦の息子。太一と同学年だが、半年後に生まれた。成績優秀で県内の有名高校から、東京の名門大学に進んだ。外資系企業から内定をもらったが、本人は大学院に進むことを希望している。 畠田美奈(はただ みな) 久仁彦の娘。成績優秀で県内の有名高校に在籍。ツルの三回忌の時、大学受験の模試で名前が載った全国ランキングを仏壇に捧げたが、靖彦が小馬鹿にするような発言をしたために激怒した。 トキ ツルのすぐ下の妹。
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