見立て殺人とは? わかりやすく解説

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みたて‐さつじん【見立て殺人】

読み方:みたてさつじん

推理小説題材として使われる殺人の一。伝説物語、詩などに見立てて殺人犯したり、死体殺害現場装飾したりすること。童謡見立てた場合は特に童謡殺人よばれる


見立て殺人

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/15 23:36 UTC 版)

見立て殺人(みたてさつじん)とはあるものに見立てて事件が装飾された殺人のこと。殺人が絡まないものも含めて単に「見立て」とも言い、推理小説におけるテーマの1つである。

見立てる対象によって「童謡殺人」「筋書き殺人」などとも呼ばれる。

概要

童謡言い伝えなどある特定のものに見立てられて、死体や現場(発見現場ないし殺害現場)が犯人に装飾させられている殺人事件のことである(殺人にまで及ばないこともある)。筋立て通りに殺人が行われるという異様な不気味さを狙ったもので、トリックというよりもプロットに属するが[1]アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』や横溝正史の『八つ墓村』のように、見立てることがトリックという例も少なくない。

江戸川乱歩は「類別トリック集成」の中で「童謡殺人」「筋書き殺人」という名称で見立て殺人を取り上げている。この中で乱歩は故人の言葉や古文書などの筋書き通りに恐ろしいことが起きるという着想は、日本の古い物語、オラクル亀卜のような占い、また聖書などにも見られ、それら同じ恐ろしさを探偵小説に応用したものと解説している[1]

上記のように推理小説(ミステリー作品)における見立て殺人の目的は、読者に異様な不気味さを与えるというものである。他方、それを実行する犯人の理由は様々であり、基本的には先入観を与えることで次の標的候補・犯行順序・犯行現場・凶器を予測させて探偵役(ひいては読者)を欺くことにあるが、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』のような異常な心理が主因という場合もままある。ただし、トリックに関係しない場合でも、見立てられないままに起こった殺人などをきっかけにして、犯人の糸口をつかむということはある。

推理小説の歴史における最初期の見立て殺人はイギリス推理小説における童謡殺人であり、後述するようにマザー・グースを題材にした作品がよく見られる(ただし、乱歩は1919年発表の谷崎潤一郎『呪われた戯曲』を「筋書き殺人」の例に挙げている[注釈 1]。この年にはフランスのモーリス・ルブランが、孤島に伝わる詩に沿って連続殺人が行われる『三十棺桶島』を刊行している)。

童謡殺人

見立てる対象が童謡の場合、特に「童謡殺人」と呼ばれる。中でも英米ではマザー・グースを題材にした殺人事件の物語というのが1つの定番としてみられ、比較的に早いものでは1924年イーデン・フィルポッツ作『だれがコマドリを殺したのか?』がある。ただし、この作品はストーリーに見立て殺人があまり絡んでいない。

1929年に発表されたヴァン・ダインの『僧正殺人事件』は童謡殺人が主テーマとなっており、童謡殺人(ひいては見立て殺人)の嚆矢としてよく挙げられる。また、エラリー・クイーンもマザー・グースをテーマにした童謡殺人を2作(『靴に棲む老婆』『ダブル・ダブル』)書いている。

さらに、アガサ・クリスティはマザー・グースをテーマにした童謡殺人を2作(『そして誰もいなくなった[注釈 2]ポケットにライ麦を』)書いており、前者はクローズド・サークルの傑作としてもよく知られている。

日本では英米の童謡殺人に影響を受けて書かれた横溝正史の『悪魔の手毬唄』が、架空の手毬唄を題材にした作品として知られている。また高木彬光の『一、二、三 - 死』では、「鬼の数え歌」[注釈 3]の歌詞の順に連続殺人が起きている。

なお、童謡殺人の多くは童謡の歌詞が筋書きにあたるため後述の「筋書き殺人」にも該当するが、重複を避けるため童謡殺人に該当する作品については「筋書き殺人」での記述を省略する。

筋書き殺人

「筋書き殺人」の典型として、ヨーク・ハッターが書いた探偵小説『(仮題)ヴァニラ殺人事件』の筋書き通りに殺人が行われるバーナビー・ロス(エラリー・クイーンの別名義)作『Yの悲劇』(1932年)がよく知られている。

また、アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』(1935年)もよく知られている。作品中でAの地名ではAの頭文字の人物が、Bの地名ではBの頭文字の人物がとABC順に殺され、その殺人現場には「ABC鉄道案内」がそれぞれの地名のページが開かれて置かれていたというもので、「ABC鉄道案内」とアルファベットそのものが見立てに用いられている。

日本では高木彬光の『呪縛の家』(1950年)が典型的で、「舜斎は宙を泳ぎて殺さるべし、澄子は水に浮かびて殺さるべし、烈子は火に包まれて殺さるべし、土岐子は地に埋もれて殺さるべし」の4つの予言に基づく連続殺人が描かれている。

他には横溝正史の諸作品がよく知られている。『獄門島』では有名な俳句に基づく連続殺人を扱い、『八つ墓村』では村の中で対(つい)として知られる「双子杉、博労、分限者、坊主、尼」に見立てられた殺人が、『犬神家の一族』では犬神家の家宝「斧・琴・菊(よき・こと・きく)」に見立てられた殺人が、それぞれ描かれている。

出典・注釈

注釈

  1. ^ 谷崎は推理小説家ではないが、乱歩は評論「日本の誇り得る探偵小説」(『悪人志願』)の中で彼の推理小説家としての一面を高く評価している。他にも谷崎の『途上』を「プロバビリティーの犯罪」を扱った最初の作品と称えている。
  2. ^ 『そして誰もいなくなった』に登場する童謡「10人のインディアン」は童謡の作者が明らかなため、厳密にはマザーグースではないという見方もある。
  3. ^ 作品中では、明治の中ごろまで四国の田舎に残っていた「悪党の数え歌」とか「鬼の数え歌」とか言われるものだと説明されている。

出典

  1. ^ a b 江戸川乱歩類別トリック集成」(『続・幻影城』)

関連項目


見立て殺人

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/19 00:26 UTC 版)

そして誰もいなくなった」の記事における「見立て殺人」の解説

本作連続殺人童謡十人の小さな兵隊さん」になぞらえた見立て殺人である。童謡の詩が各招待客部屋飾られており、10体の兵隊人形ダイニングルーム飾られている。見立て殺人はその性質から、詩の筋立て通り殺人遂行される、対となっている人形破壊殺人遂行認知されるなど、異様な不気味さを演出させる。 登場人物は詩の1文を順になぞらえて殺されていき、その度人形破壊紛失されていく。殺害手法毒殺撲殺射殺などの詩とは関係のないものであるが、小道具衣装、場所を細工することで詩の1文に併せている。本作では真犯人に詩と人形を対にした見立て殺人を遂行させており、最後1人となったヴェラ・エリザベス・クレイソーン部屋用意されていた首吊りロープ見て最後の人形を落として壊してしまったことにより、詩の最後の1文を自ら遂行している。

※この「見立て殺人」の解説は、「そして誰もいなくなった」の解説の一部です。
「見立て殺人」を含む「そして誰もいなくなった」の記事については、「そして誰もいなくなった」の概要を参照ください。

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