街とその不確かな壁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/24 14:31 UTC 版)
街とその不確かな壁 | ||
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著者 | 村上春樹 | |
イラスト | タダジュン | |
発行日 | 2023年4月13日 | |
発行元 | 新潮社 | |
ジャンル | 小説 | |
国 |
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言語 | 日本語 | |
形態 | 上製本 | |
ページ数 | 672ページ | |
公式サイト | 『街とその不確かな壁』特設サイト | |
コード | ISBN 978-4-10-353437-2 | |
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『街とその不確かな壁』(まちとそのふたしかなかべ、英語:The City and Its Uncertain Walls)は、村上春樹の15作目となる長編小説。2023年、新潮社刊。
出版
村上は1980年(昭和55年)に、中編小説『街と、その不確かな壁』を発表していたが、「中途半端な形」で掲載したという思いがあり、1985年(昭和60年)に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』として改作した。しかしまだ「あと2年待ちたかった」との心残りがあり、再び書き改めて完成させたのが『街とその不確かな壁』である[1]。
2020年(令和2年)3月の初めから書き始め、約3年をかけ完成させた[2]。村上は本作に着手した時期について「書き始めたのは20年春ごろで社会全体にコロナ禍の影響も大きかった。家に居ることが増え、自分の内面をみる傾向が強くなった。そろそろあれを書いてもいいんじゃないかと、引き出しの奥から引っ張り出してきた。時期が来たな、という感覚がありました」と振り返っている[3]。2023年(令和5年)4月13日に、新潮社で刊行された[4]。
本作は、村上の長編小説としては初めて電子書籍版が紙版と同時発売された[5]。2025年(令和7年)4月23日に新潮文庫(上・下)で文庫化された[6]。
登場人物
現実の世界
- ぼく(僕)
- 物語の主人公。高校三年生。海に近い静かな郊外住宅地に住んでいる。高校卒業後、東京の私立大学へ進学。一留後、書籍取次会社へ就職。のち福島県の山間部にあるZ**町の図書館館長へ転職する。司書資格は所持していない。
- きみ(君)
- 私立の女子校に通い、主人公より一つ年下で高校生エッセイ・コンクールで知り合いになる初恋の女の子。
- 添田さん
- 10年前から図書館の司書を行っている30代の女性。長野県松本市出身。夫は福島県郡山市出身でZ**町の公立小学校教員。僕と共に子易辰也と話すことのできる人物で実質的な図書館運営を担当している。
- 子易辰也
- 図書館の前館長。家は代々造り酒屋を営んでいる素封家で、妹が一人おり結婚して遠い町に住んでいる。東京の私立大学へ進学し経済学を学ぶが若い頃は文芸作家を志していた。父親が脳梗塞で倒れたため帰郷し家の酒造業を継ぐ。35歳で結婚。ベレー帽とスカートを愛用している。図書館とその運営費を寄付している。
- 子易観理
- 子易辰也の妻。町に住む子易の知人の姪で東京出身。ミッション系の女子大の仏文科出身。大使館の秘書をしており結婚後も仕事をしばらくは続けていた。犬の毛アレルギーを持つ。
- 子易森(しん)
- 子易夫妻の長男。尚、女の子が生まれてきた場合は「林(りん)」という名前にする予定だった。
- イエロー・サブマリンの少年(M**くん)
- 16歳で中学を卒業した後高校へ進学せずほぼ毎日図書館で本を読み漁っている。サヴァン症候群の気が見られる。無口で普段は筆談とジェスチャーのみ。生年月日から曜日を当てることが出来る技能を持っている。
- イエロー・サブマリンの少年の父親
- 地元で幼稚園や学習塾経営、成人向け教室ビジネスなど教育事業を手広く行っている。
- イエロー・サブマリンの少年の母親
- 家族の中で唯一少年と少し会話をしている。
- イエロー・サブマリンの少年の長男
- 東京の大学を卒業した民事弁護士。
- イエロー・サブマリンの少年の次男
- 現在東京の大学の医学部在籍中。外科医の脳神経外科志望だが精神医学にも興味を持っている。
- コーヒーショップの女店員
- 北海道札幌市出身の36歳くらいの女性。札幌の女子大を卒業後地元の銀行へ就職。高校時代の同級生と結婚していたが離婚し、Z**町へ移住しコーヒーショップを開業。
- 小松
- 福島県の不動産屋に勤めている中年男。僕に家を案内してくれる。
- 大木
- 取次会社時代、図書館関係の部署にいた大学の三年後輩。僕にいくつか図書館関係の仕事を紹介する。
壁で囲まれている世界
- 私
- どこからか街へ来て影を捨て街に住んでいる。図書館で夢読みの仕事を行っている。
- 影
- ぼくが街へ入るときに引き剥がされ、街と外の世界の中間地点である「影の囲い場」に住み門番の仕事の手伝いをしている。
- 門衛
- 門の開閉や死んだ獣たちを焼く仕事をしている門番。唯一街の外へ出ることを許され、林檎を取っては街の人々に分け与えている。
- 女の子
- 図書館で夢読みの手伝いをしてくれている女の子。かつては影を持っていた。
- 老人
- ぼくの生活の世話を焼いてくれている元軍人。
- イエロー・サブマリンの少年
- 図書館で僕から夢読みの仕事を引き継ぐ。
脚注
注釈
出典
- ^ “村上春樹、新刊「街とその不確かな壁」は「40年前の決着をつけたかった」”. www.yomiuri.co.jp. 読売新聞オンライン (2023年4月5日). 2023年4月13日閲覧。
- ^ “村上春樹、6年ぶりの最新長編『街とその不確かな壁』特設サイト”. 新潮社. 2023年4月13日閲覧。
- ^ 中野稔「村上春樹 6年ぶり長編 「書きたいもの書く力ついた」 壁を越す「信じる力」」文化面、『日本経済新聞』2023年4月13日、朝刊。
- ^ “村上春樹さん新刊発売 「街とその不確かな壁」”. 日本経済新聞 (2023年4月13日). 2023年4月13日閲覧。
- ^ “村上春樹の新作長編『街とその不確かな壁』本日発売|長編小説では初の同時電子書籍配信”. Qetic (2023年4月13日). 2023年6月26日閲覧。
- ^ “村上春樹の『街とその不確かな壁』、待望の文庫化”. 新潮社. 2025年4月23日閲覧。
外部リンク
街と、その不確かな壁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/02 02:24 UTC 版)
『街と、その不確かな壁』(まちと、そのふたしかなかべ)は、村上春樹の実質的には3作目となる中編小説。
概要
1980年『文學界』9月号に掲載された。後に発表される『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』へと発展する習作的な小説として位置しているが、村上の意向により単行本や全集にも一切収録されていない作品である。
この作品は、『1973年のピンボール』が芥川賞候補となったことにより、その受賞第1作として発表することを意識して書いたと、村上自身がインタビューで明らかにしている。テーマそのものは以前から暖めていた内容であったが、文体は前2作とは異なり生硬で難解なものとなり、また物語の結末も本人にとって納得のいくものではなかったようで、村上は後に「あれは失敗」であり、「書くべきじゃなかった」とも語っている[1]。
2023年4月13日に発売された長編『街とその不確かな壁』の題名は、これから読点が一つ抜かれたものである[2]。
あらすじ
18歳の夏の夕暮れ、「僕」は「君」から高い「壁」に囲まれた「街」の話を聞く。「君」が言うには、ここに存在するのは自分の「影」に過ぎず、本当の彼女はその「壁」に囲まれた「街」の中にいるという。
「君」(の影)はその後まもなく死に、「僕」は「君」から聞いた「ことば」をたよりに「街」に入り、予言者として「古い夢」を調べることになる。「僕」は本当の「君」に出会い、しだいに親しくなっていくが、「影」を失った彼女とはどんなに言葉を交わし、身体を重ねても、心を通わせることはできないことに気付く。
やがて「古い夢」を解放することに成功し、その底知れぬ悲しみを知った「僕」は、「影」を取り戻して「街」を出ることを決心し、留まらせようとする「壁」を振り切って現実世界へと回帰する。
弱くて暗い自分の「影」を背負い、その腐臭と共に生きることを選択した「僕」は、1秒ごとに死んでいく「ことば」を紡ぎながら「君」の記憶を語り続けていく。
登場人物
- 僕
- 物語の主人公で語り手。本当の「君」に会うために「街」へやってきた。「街」にある図書館に通い、「古い夢」の整理をしている。
- 君
- 16歳のときに「僕」と出会い、その後若くして死ぬ。「街」では図書館の司書として働いている。自分の「影」についての記憶はないが、「僕」が「古い夢」を調べる手助けをする。
- 僕の影
- 「僕」が「街」に入ったときに引き離され、門番小屋の地下室で暮らしている。門番によれば、「影」とは「弱くて暗い心」であるらしい。
- 門番
- 「街」への出入りを管理する者。「影」の世話や、死んだ獣たちの始末なども行う。
- 大佐
- 「僕」が居住する「官舎」の隣人である退役軍人。
- 獣たち
- 「街」に住む一角獣。「壁」の外との行き来が許される唯一の存在。
脚注
- ^ 『文學界』(文藝春秋、1991年4月増刊号「村上春樹ブック」)「『1973年のピンボール』が芥川賞の候補になって、何か書けと言われたんです。『群像』には受賞第一作を書いたから義理を果たしたし、一つ書けるかなと思ったし、あの話は書きたい話だったんです。(中略)ただ、あれは失敗だったんですね。というのは、ああいうことはやるべきじゃなかったんです。僕はいまでも後悔してる。受賞第一作用なんて書くべきじゃなかった。これは声を大にして言いたい。(中略)あれはむずかしい話なんです。あのころの僕の実力ではとても歯が立たなかったんです。」
- ^ “街とその不確かな壁”. www.shinchosha.co.jp. 新潮社. 2023年3月7日閲覧。
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