行き過ぎた母乳栄養推進運動に対する反省
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/26 11:17 UTC 版)
「母乳栄養」の記事における「行き過ぎた母乳栄養推進運動に対する反省」の解説
一方、行き過ぎた母乳推進運動に対する反論も多く認める。90%以上の母体では充分に母乳を分泌できると考えられる反面、母乳の有益性を強く進めすぎる余り、一部の母乳分泌の悪い母体で人工乳を与えず、赤ちゃんが低血糖を起こすまで低栄養状態で粘ることなどの問題が臨床現場でしばしば認められる。 母乳を肯定する論文が乱立した時期があり、例えば「母乳栄養の子供は人工乳栄養よりも知能が高い」といった論文も複数だされたが、Jain は2002年に「詳細な検討を行った結果、母乳栄養が知能の発達をより促進すると結論付ける論文は過去にたくさんあるが、そのほとんどが結果を受け入れがたい質の低い論文である」 と小児科領域における権威的雑誌「Pediatrics」でそれまでの母乳優位の検証自体に問題があると提起している。 当然ながら、無作為化割り付けで人工乳を投与するような「質の高い」研究は倫理的な観点から批判を受ける。米国小児科学会は2012年に「最近の研究発表やシステマティック・レビューから、母乳と母乳育児が乳児栄養の基準・標準である、という結論が、さらに確固たるものとなってきている」「生後6ヵ月間は母乳のみで、その後補完食を開始し、少なくとも生後1年間もしくは母子がお互いに望む限り母乳育児を継続するという推奨を再確認している」などとする宣言を小児科領域における権威的雑誌「Pediatrics」に掲載している。 2006年、国内の小児科学雑誌で完全母乳栄養児における低血糖の症例が報告された。2008年5月28日の朝日新聞で、こうした事例に基づいて「赤ちゃんの状況を充分に観察せずに母乳だけに頼ること」の危険性が取り上げられ、完全母乳栄養にこだわりすぎることに対して小児科領域で賛否両論の大きな議論を起こした。 母乳栄養は乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクを下げるといわれてきた。2005年の米国小児科学会による声明では、SIDSのリスクとして人工乳が取り上げられることはなかった。その後の研究の蓄積を待って、2016年の改訂ではSIDS予防として母乳栄養が推奨されている。 2019年に改訂された厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」では、母乳栄養の利点を挙げるとともに、「育児用ミルクを少しでも与えると肥満になるといった表現で誤解を与えないように配慮する」と記載し、事実に基づかない不合理な恐怖を与えないための配慮がなされている。 なお、WHO/UNICEFの「母乳育児がうまくいくための 10 のステップ」で記載されているのは「医学的に適応のある場合を除いて、母乳で育てられている新生児に母乳以外の飲食物を与えない」であり、医学的適応がある場合の人工乳の使用を妨げるものではない。また、「母乳育児の重要性とその方法について、妊娠中の女性およびその家族と話し合う」といった、医療者による支援体制の整備を求める項目から構築されており、母親やその家族の心構えに言及するようなものではない。
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