船体の消磁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/16 08:36 UTC 版)
最近の詳細については船体消磁を参照 最初にこの用語を用いたのは、第二次世界大戦中のカナダ海軍予備員(en:RCNVR)のチャールズ・F・グッドイーブ海軍中佐(en:Charles F.Goodeve)である。当時RCNVRはイギリス海軍に大打撃を与えていたドイツの磁気機雷に対抗しようとしていた。船体の鋼鉄は、航行中に地磁気による誘導で磁気を帯びる。磁気機雷は、この磁気を帯びた鋼鉄がおこす磁場の変化を検出するものであった。グッドイーブら海軍の科学者はこの磁場の影響を相殺する——すなわち船全体の磁場の和が背景の磁場と等しくなるようにする——ために、船体内に小さな上向きの(N-pole up)磁場を発生させるシステムを多数設置した。ドイツ人は自分たちの機雷の起動する磁場の強さを表すのにガウス(gauss)という単位(当時はまだ標準になっていなかった)を用いていたことから、グッドイーブは機雷に対抗するこのようなプロセス一般をdegaussing(消磁)と呼び、後にこの用語が世界共通で用いられるようになった。 最初の消磁の方法はコイリング(coiling)として知られる、電磁コイルを船体内に設置するというものであった。このしくみは船体周辺の磁場を継続的にバイアスすることに加え、機雷が下向きの("S-pole down")磁場を検出するように設定される南半球では、コイルのバイアス磁場を逆向きにすることもできた。イギリスの船、特に巡洋艦や戦艦は、1943年前後までこの方法で十分に防御されていた。 しかし、このような特殊な装置の設置には非常に高額の費用を要し、またすべての船に必要な補修を施すことは困難であった。そこでグッドイーブはワイピング(wiping)と呼ばれる新たな手段を考案し、海軍により実用化された。これは船の側面に約2000アンペアのパルス電流が流れる大きな電気ケーブルを引きまわし、船体に小さな磁場を起こすものであった。この手法を発展させたものが現在でも使われており、船体消磁(deperming)と呼ばれている。 消磁の効力が時とともに薄れるのは、初めは波や船のエンジンの振動が磁場をゆっくりとランダム化していくせいだと考えられていたが、テストによってこれは本当の解答にはなりえないことが分かった。正確には、船が地磁気中を航行していくことで船体が消磁の効力を打ち消していくように地磁気を拾うことためだと後にわかった。このことから、艦長らはできるかぎり方向を変えながら航行するように指導された。それでもバイアスは最終的には消えてなくなり、船は定期的に消磁しなければならなかった。小さな船では、大戦の間ワイピングが行われ続けた。 戦後は磁気信管の性能が向上し、磁場そのものの強さだけではなく、その変化を検出するようになった。この信管では、従来の方法で消磁された船には船体に磁場の強い点があるため、これを検知できた。そこで、船体の磁界の正確な方向が測定され、磁界を発生させる装置も特定されるようになった。そしてこれらの影響を相殺するために、消磁システムは複雑化し、すべての軸(方向)の磁場を除去できるように3セット以上の独立したコイルを含む近代的なシステムになっていった。
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