聖骸布の真偽について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 06:54 UTC 版)
聖骸布はその発見以来、言い伝え通りの品であると信じられつつ、詐欺的な作り物や誤認との指摘も受けていて、これまでにも一般公開された機会などに合わせて専門家による科学的調査が進められている。 聖骸布が偽物であるという主張は、奇跡的な出来事であるはずの「遺骸をくるんだ布に像が映りこむ」という現象が聖書で言及されていないこと、頭と胴体を別の布で包むという聖書時代のユダヤの埋葬慣習に反していること、キリストと同時代の遺跡から発掘された布の単純な織り方とは違って複雑な織り方をしていることなどを根拠とする。また、像の人物には白人の特徴があり、聖書時代のパレスチナ人の顔立ちではないという指摘や、法医学的な調査の結果、死体をそのまま包んだにしては血痕の付き方があり得ないという結論もだされている。 1988年の調査では、オックスフォード大学、アリゾナ大学、スイス連邦工科大学の3機関において、考古学などで資料年代推定に用いられる放射性炭素年代測定(炭素14法年代測定)が行われた。その結果、この布自体の織布期は1260年から1390年の間の中世である、と推定された。この年代測定の結果や、もともと布を所有していたシャルニー家がテンプル騎士団と縁が深い、像の人物と肖像が似ているなどの理由で、テンプル騎士団最後の総長ジャック・ド・モレーの埋葬布だという説もある。だが、この3機関が発表前にデータを交換し、生のデータの公開を拒否したことから、この結果はイエスの布だと信じる一派からは疑問視されている。ヴァチカンは1年後に、炭素14法年代測定結果を無視すると発表した。 炭素14法年代測定の調査結果については、過去の修復作業時に付け足された部分や、一般公開の時に素手で触れられていた部分をサンプルとした測定であったことや、1995年にカリフォルニアのサン・アントニオ大学の科学調査で、聖骸布の糸の上に生存し続けているバクテリアによって生成されたプラスティックの膜が確認され、この膜が結果に大きな誤差を出した原因の1つだと言われる。検査方法の有効性や結果の信憑性を疑う批判がある。 アメリカのロスアラモス国立研究所の調査により、1988年に調査された布の箇所にはバニリンという物質が含まれており、その物質が含まれている場所は火災によって補修された箇所であることが明らかとなった。また、バニリンが含まれていない箇所に対しての調査では、1300年から3000年前の布ではないかということが明らかになった。布は杉綾織りの亜麻布であり、縫い方も死海のほとりにあるマサダ(要塞)の遺跡で発見された生地と同様の、独特の縫い方であると判明した。 本物説の補強材料として、布に写し出されたネガ状の全身像特有の色の濃淡、筆あとの無さ、画像の表層性などが生じた過程は科学的に説明や再現ができないと主張されることもある。実際には、14世紀に入手可能な材料を用いた実験は数多く行われており、一種の写真術やあぶり出しなどの様々な方法で、類似の図像が再現されている。
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