笑いの研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 02:48 UTC 版)
古代既に古代ギリシアのプラトンには笑いについての考察がある。アリストテレスは『詩学』の中で喜劇も考察対象にすると書いたが、これは実現しなかったと見られている。 古代ギリシャでは悲劇と喜劇が一作ずつ上演されるのが常であった。 日本の文献で最も古い笑いの記録は岩戸隠れに於いてアメノウズメノミコトが神懸かったり踊っているのを見た神々が笑ったというくだりであろう。古代社会において笑いを含む芸能が、神や支配者を楽しませるもの、奉納するものとしての要素があったことを示している。 考古学的な資料(出土遺物)として、古墳時代の人物埴輪の中に笑った表情の埴輪が見られる。 18世紀ドイツの哲学者イマヌエル・カントは「笑いは緊張の緩和から来る」という有名な言葉を残した。 19世紀フランスの詩人シャルル・ボードレールは、有意義的滑稽(人間の振る舞いによって引き起こされる普通の笑い)と、絶対的滑稽(グロテスクによって引き起こされる深遠で原始的な笑い)があるとした。 スコットランドの哲学者・心理学者アレクサンダー・ベインは、笑いとは、私たちを安心させる些細なこと、卑俗なことに接触による緊張した状態から逃れた状態である。笑わせてくれるまじめさ、荘厳さの形であるとした。 イギリスの社会学者ハーバート・スペンサーは、強い感情、精神や肉体という、笑いの一般的な理由として、他の筋肉運動と異なり、特に目的もない筋肉運動から笑いが構成されるということに注目するべきだと主張した。 笑うのは動物の中でもヒトだけであると考えられてきた。しかし、進化論の提唱者であるチャールズ・ダーウィンは、オランウータンやチンパンジーといった類人猿をくすぐると笑い声をあげると書いている。 20世紀オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトは「ユーモアは自我の不可侵性の貫徹から来る」と説いた。 フランスの哲学者アンリ・ベルクソンは自身の研究『笑い』において、ボードヴィル演劇を素材として笑いの原因を考察した。ここでは「笑いは、生命ある人間に機械的なこわばりが生じた結果である。」としている。 日本でも、落語家の桂枝雀が、笑いは緊張の緩和によって起こるという「緊緩理論」を立てている。 笑いには、免疫系のNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性を高めるなどの健康増進作用があると言われている。 オランダの霊長類学者ヤン・ファンフーフは、笑いの起源と進化についての仮説を提唱した。笑いは微笑み(スマイル)と声の伴う笑い(ラフ)の二つに大きく分類でき、スマイルはサルの仲間が自分より強いサルに対してみせる「歯をむき出しにする表情(グリマス)」から、ラフはサルの仲間が遊びにおいてみせる「口をまるくあける表情(プレイ・フェイス)とそれに付随するあえぎ声(プレイ・パント/笑い声)」からそれぞれ進化したという(プレイ・フェイスは霊長類に広く見られるが、笑い声を発する種は限られる)。 21世紀欲求神経学研究センターの小林亮は、脳神経科学の視点から「複数のシナプスタグ開放による記憶の連合と、それに伴う副交感神経系優位」により笑いが生じるとする『記憶の連合理論』を提唱している。この理論は「緊緩理論」と「構図のずれ」を統合する内容であり、知的好奇心を構成する脳のシステムと同一だと考えられるという。
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