病前性格論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 07:53 UTC 版)
#古典的分類に示したように、日本では1980年代まで、うつ病の患者に几帳面な人が多いという定説があり、これは病前性格論におけるメランコリー親和型性格や循環性格を指したものであった。 フーベルトゥス・テレンバッハの唱えたメランコリー親和型性格は、几帳面・生真面目・小心な性格を示すメランコリー親和型性格を持つ人が、職場での昇進などをきっかけに仕事の範囲が広がると、責任感から無理を重ね、うつ病を発症するという仮説である。 従来は、メランコリー親和型性格がうつ病の特徴とされ、薬に反応しやすく、休養と服薬で軽快しやすいものであった。 しかし、近年ではうつ病概念の拡大や社会状況の変化に伴い、これらの性格に該当しないディスチミア親和型と呼ばれる一群の患者が増加しているとされる。ディスチミア親和型はメランコリー親和型とは異なり、薬への反応は部分的であり、休養と服薬のみではしばしば慢性化する。そのため、メランコリー親和型に準じた治療では改善がみられない。 ディスチミア親和型は、2004年に樽味伸が提唱したもので、以下のような特徴がある。若年層に見られ、社会的役割への同一化よりも、自己自身への愛着が優先する。また、成熟した役割意識から生まれる自責的感覚を持ちにくい。ストレスに対しては他責的・他罰的に対処し、抱えきれない課題に対し、時には自傷や大量服薬を行う。幼いころから競争原理が働いた社会で成長した世代が多く、現実で思い通りにならない事態に直面した際に個の尊厳は破れ、自己愛は先鋭化する。回避的な傾向が目立つ。 ディスチミア親和型うつ病とメランコリー親和型うつ病の対比(樽味伸、2005)ディスチミア親和型メランコリー親和型年齢層青年層 中高年層 関連する気質スチューデント・アパシー退却傾向と無気力 執着気質メランコリー性格 病前性格「自己自身(役割ぬき)への愛着規範に対し、『ストレス』であると抵抗する秩序への否定的感情と万能感もともと仕事熱心ではない 社会的役割・規範への愛着規範に対して好意的で同一化秩序を愛し、配慮的で几帳面基本的に仕事熱心 症候学的特徴不全感と倦怠回避と他罰的感情(他者への非難)衝動的な自傷、一方で「軽やかな」自殺企図 焦燥と抑制疲弊と罪業感(申し訳なさの表明)完遂しかねない「熟慮した」自殺企図 薬物への反応多くは部分的効果に留まる(病み終えない) 多くは良好(病み終える) 認知と行動特性どこまでが「生き方」でどこからが「症状経過」か不分明 疾病による行動変化が明らか 予後と環境変化休養と服薬のみではしばしば慢性化する置かれた場・環境の変化で急速に改善することがある 休養と服薬で全般に軽快しやすい場・環境の変化は両価的である(時に自責的となる)
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