うつ病概念の拡大
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/13 20:52 UTC 版)
新しいタイプのうつ病を理解するには、日本における精神医学の発展の歴史を知る必要がある。戦前から日本はドイツ精神医学の影響を受けており、うつ病=内因性うつ病(=メランコリー親和型うつ病)と捉えられてきた。しかし戦後アメリカ精神医学が主流となり、各国と同様に日本においても操作的診断学が導入されるようになると、あらゆる抑うつ症状が全て「大うつ病性障害」に包含されることとなった。従来の伝統的診断学においては、病前性格論・生活史診断などを組み合わせてうつ病の鑑別診断が行われており、カルテには薬物が奏効する「内因性うつ病」、心理学的問題の解決が求められる「神経症性うつ病」、「境界性パーソナリティ障害に伴う抑うつ症状」などと記されていた。しかし操作的診断基準とともにうつ病圏が拡大されると、成因が問われず様々な精神障害の抑うつ症状が「大うつ病性障害」へと混入して診断されることとなった。その結果成因が問われないままにうつ病と診断がなされ治療されてきたのが、近年増加した新しいタイプのうつ病である。症候学的には大うつ病性障害の診断基準を満たすため、確かに「うつ病」ではあるが、必ずしも伝統的診断における「うつ病(内因性うつ病)」とは限らないため、抗うつ薬による薬物療法の効果は限局的である。
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