男の娘の系譜における大空ひばり
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「ストップ!! ひばりくん!」の記事における「男の娘の系譜における大空ひばり」の解説
おたく文化史研究家・吉本たいまつによれば、本作はその後の「男の娘」ブームの直接の先祖であるとされている。吉本は、江口が男女の描画コードを明示的に転倒させることでギャグを生み出している一方、そこにおいて「性別を越境する妖しい魅力」をも作り出していたと分析する。男性キャラクターに対して女性の描画コードを使い、受け手の認識を混乱させる試みは、吉本によれば手塚治虫の『リボンの騎士』にまで遡るとされ、本作では『リボンの騎士』より明確に「男の子でもかわいければ恋愛・性の対象にしてもよい」という視点が打ち出されているとされている。吉本は、描画コードの転倒は、その後も漫画表現の中に根付いて継続していったとし、奥浩哉『HEN』、小野敏洋『バーコードファイター』(ともに1992年)をその例として挙げている。 「オトコの娘年表」(『おと★娘』VOL.7)の構成を担当した来栖美憂は、「オトコの娘文化」の始点はどこかと論じることから始めている。それによれば、江戸川乱歩の小林少年、横山光輝『伊賀の影丸』の影丸の女装の頃には、一部に熱狂的なファンがついていたという。そこへ「大きな一石を投じ」ることになったのが本作であるとし、「ひばりくんの可愛さは衝撃的であり、彼が近代女装美少年文化の始点という評価に異を唱える者はまずいないだろう」と断じている。一方で来栖は、『オトコノコ倶楽部vol.1』において本作を「女装系漫画のルーツ」とみなす認識に異を唱えている。ラブコメのアンチテーゼとして書かれた本作であるが、結局本作の流れを継いだのは『きまぐれオレンジ☆ロード』などのポップなラブコメであった。系譜を作り得なかった本作は、その意味において「ルーツ」とまでは言えないと述べている。『おと★娘』における来栖の分析では、本作の流れは一旦少女漫画に受け継がれつつ、『バーコードファイター』で多くの児童の価値観を再び揺るがしたとされている。 漫画評論を行っている永山薫もまた、現在の男の娘漫画に直結する先駆的作品として本作を挙げている。家族が嘘をついて耕作をからかっているだけという可能性を指摘しつつ、「実は男の子なんだけど、本当は女の子かもしれない」という想像の余地を読者に残す本作の手法は、後の松本トモキ『プラナス・ガール』(2009年)に継承されたとしている。 一方、あしやまひろこは2015年の、本作を「男の娘作品」の古典として挙げた論稿において、大空ひばりには「男の娘」の本質の一部が欠けていたと分析している。あしやまはひばりを『プラナス・ガール』の主人公・藍川絆と比較し、「容姿と行動で男の主人公を翻弄する小悪魔」という点では通じるものがあるとしつつ、両者には決定的な違いがあると論じた。すなわち、大空ひばりは、主人公と家族以外の世間には女性として紹介され、かつ認知されている。また性同一性障害やオカマとして扱われる一面もあり、ポジションはギャグキャラクターである。対して藍川絆は、常に女装で生活していながら、性自認は一貫して男性であり、にもかかわらず学園中からアイドルとして扱われているのである(この点には永山も注意を与えている)。あしやまは『プラナス・ガール』では男の娘の可愛さが性別の範疇を超越するものとして表現されていると評し、両者の対比の中に80年代から現代に至るまでのパラダイムシフトを見出せるとしている。 『プラナス・ガール』などの後、男の娘ブームは収束に向かった。『オトコノコ倶楽部』の創刊者で、『オトコノコ時代』の編集長であった井戸隆明は、ブームの頃に面白いコンテンツがあまり出てこなかったことを衰退の原因の一つに挙げている。その上で、本作を次のように評価している。 絶対的にかわいい、小悪魔的な男の娘というのは『ひばりくん』を超えるものはもうないんじゃないかと。ただ、あれを描ける時代というのもあったと思います。ニューハーフブームはあったにしても、ひばりくんの実態がはっきりとはわからないんですよ。それに翻弄されるというのがギャグマンガとして成り立ったのは時代性でしょうね。いま同じようなことをやってもたぶん成立しない。 — 『オトコノコ時代』編集長・井戸隆明 井戸は、今後も大きな波は再びやってこないだろうと予測し、男の娘的なもののメルクマールといえるものは、結局、本作や『バーコードファイター』になるだろうとしている。
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