理想溶液
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理想溶液(りそうようえき、英語: ideal solution)とは、混合熱が厳密にゼロで、任意の成分の蒸気圧がラウールの法則にほぼ完全に従う溶液のことである[1]。完全溶液 (perfect solution) ともいう[2]。2種類以上の液体を混合して溶液をつくるとき、混合物が完全溶液となるなら、混合時に発熱も吸熱もない。また、完全溶液中の任意の成分の蒸気圧は、その成分が単独で存在するときの蒸気圧に溶液のモル分率を掛けたものに等しい。
溶質の量に比べて溶媒の量がはるかに多い場合、ほとんどの溶液は溶媒についてラウールの法則がおおよそ成立する。このような溶液の理論モデルとして、溶媒の化学ポテンシャルが完全溶液の場合と同じ式で表される溶液を考える。これを理想希薄溶液 (ideal dilute solution) という[3][注 1]。理想希薄溶液では溶媒についてラウールの法則が成り立ち、溶質についてヘンリーの法則が成り立つ[3]。理想希薄溶液では、溶媒に溶質を溶かすときの混合熱はゼロでなくてもよい。つまり、溶質 1 モル当たりの溶解熱がゼロでなくても、溶媒についてラウールの法則が成り立つなら理想希薄溶液とみなせる。
ラウールの法則に従わない溶液を実在溶液という。実在溶液では成分の活量について考える必要がある。完全溶液や理想希薄溶液は、すべての成分の活量係数を 1 とする溶液モデルである。実在溶液が希薄溶液であるとき、すなわち溶質のモル分率の総和が 1 より十分に小さいときには、溶媒も含めてすべての成分の活量係数を 1 とみなせることが多い。そのため、十分に希薄な実在溶液は理想希薄溶液とみなせることが多い。このことは、十分に希薄な実在気体が理想気体とみなせることに似ている。
この項目では、完全溶液および理想希薄溶液について述べる。また、これらと深いかかわりを持つ、理想混合気体についても述べる。
理想溶液と完全溶液と理想希薄溶液
理想溶液という術語は、若干あいまいな使われ方をしている。完全溶液を指して理想溶液と呼ぶこともあれば[4]、完全溶液と理想希薄溶液をあわせて理想溶液と呼ぶこともある[5]。あいまいさを避けるため、以下この項目では理想溶液という術語を使わない。この項目では、全組成領域で溶液に含まれるすべての成分がラウールの法則に従う溶液を完全溶液と呼ぶ。また、溶媒のモル分率が十分 1 に近く、溶媒だけがラウールの法則に従う溶液を理想希薄溶液と呼ぶ。
完全溶液
定義
溶液に含まれる成分 i が温度 T、圧力 P のもとで単独で純粋な液体状態にあるときの、成分 i の化学ポテンシャル を μi*(T, P) とする(この項目では純物質の状態量をアスタリスク付きの記号で表す)。温度 T、圧力 P、組成 X の溶液において、どの成分 i の化学ポテンシャルも
理想溶液
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/14 04:06 UTC 版)
熱力学的には液体は分子が分子間力により束縛し合っているものの、固体のように秩序だった構造をとらない。すなわち無秩序な物理的状態を示す。したがって、溶液の液体の中で溶媒分子と溶質分子との間での束縛が等価であり、それぞれが区別されないような無秩序な混合状態の液体となっている溶液を理想溶液(ideal solution)と呼ぶ。理想溶液は熱力学的な概念であり、その理論から理想溶液の挙動としてラウールの法則が導かれる。言い換えると、いずれの溶液濃度においてもラウールの法則が成立する溶液が理想溶液である。 経験的に理想溶液となる溶解(あるいは混合)は次のような場合が該当する。 構成分子の分子の大きさがほぼ等しい 混合熱はゼロ 混合による容積変化はゼロ 近似的に理想溶液と見なされる例としては、重クロロホルムとクロロホルムとの混合やトルエンとベンゼンとの混合などがある。 それら以外の場合でも希薄溶液は溶質分子同士の相互作用の影響は無視しうるので理想溶液に近似可能であり、ラウールの法則やヘンリーの法則が成り立つ。その場合蒸気圧あるいは沸点や凝固点など溶液の熱力学的状態量は束一的性質を示す。 二種類の液体が混合する場合、成分2のモル分率を X 2 {\displaystyle X_{2}} と置くと成分2の部分モル溶解エントロピーは以下のようになる。ここで R {\displaystyle R} は気体定数である。 Δ S ¯ 2 = − R ln X 2 {\displaystyle \Delta {\overline {S}}_{2}=-R\ln X_{2}} また理想溶液においては溶解エンタルピー変化は0であるから、成分2の部分モル溶解ギブス自由エネルギーは以下のようになる。ここで T {\displaystyle T} は絶対温度である。 Δ G ¯ 2 = R T ln X 2 {\displaystyle \Delta {\overline {G}}_{2}=RT\ln X_{2}} 二成分溶液において、各成分のフガシティー(理想系を仮定した蒸気圧) f 1 {\displaystyle f_{1}} 、 f 2 {\displaystyle f_{2}} は各成分のモル分率 X 1 {\displaystyle X_{1}} 、 X 2 {\displaystyle X_{2}} と以下の関係にある。 X 1 ( ∂ ln f 1 ∂ X 1 ) P , T = X 2 ( ∂ ln f 2 ∂ X 2 ) P , T {\displaystyle X_{1}\left({\frac {\partial \ln f_{1}}{\partial X_{1}}}\right)_{P,T}=X_{2}\left({\frac {\partial \ln f_{2}}{\partial X_{2}}}\right)_{P,T}} 蒸気圧が充分に低圧で理想気体と近似できる場合は各成分のフガシティーを蒸気圧 P 1 {\displaystyle P_{1}} 、 P 2 {\displaystyle P_{2}} で置いてよく以下のようになる。ここで P 1 ∘ {\displaystyle P_{1}^{\circ }} 、 P 2 ∘ {\displaystyle P_{2}^{\circ }} は各成分の純液体の蒸気圧である。各成分の蒸気圧は各成分のモル分率に比例する。(ラウールの法則) P 1 = P 1 ∘ X 1 = P 1 ∘ ( 1 − X 2 ) {\displaystyle P_{1}=P_{1}^{\circ }X_{1}=P_{1}^{\circ }(1-X_{2})} P 2 = P 2 ∘ X 2 = P 2 ∘ ( 1 − X 1 ) {\displaystyle P_{2}=P_{2}^{\circ }X_{2}=P_{2}^{\circ }(1-X_{1})} また成分2の希薄溶液において、 X 2 {\displaystyle X_{2}} が0に近いときその近傍で微分学により以下の式が成立する。成分2のフガシティーは成分2のモル分率に比例する。(ヘンリーの法則) ∂ f 2 ∂ X 2 = f 2 X 2 = const {\displaystyle {\frac {\partial f_{2}}{\partial X_{2}}}={\frac {f_{2}}{X_{2}}}={\mbox{const}}}
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