気液平衡とは? わかりやすく解説

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気液平衡

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/28 14:30 UTC 版)

気液平衡: Vapor–Liquid EquilibriumVLE)は、熱力学(thermodynamics)および化学工学(chemical engineering)において、化学種が気相と液相の間でどのように分配されるかを記述する概念である。

気体とそれに接する液体の濃度は、特に熱力学的平衡(thermodynamic equilibrium)にある場合、蒸気圧(vapor pressure)によって表されることが多い。蒸気圧は、他の気体が存在する場合には、全圧の一部としての分圧(partial pressure)として表される。液体の平衡蒸気圧は、一般に温度に強く依存する。気液平衡において、特定の濃度の成分を含む液体は、各成分の気相での濃度または分圧が、液体の組成と温度に応じた一定の値を持つ平衡蒸気を形成する。逆に、特定の組成を持つ気体が液体と平衡状態にある場合、その液体中の成分濃度も、気体中の濃度と温度に依存して決まる。各成分の液体相での平衡濃度は、気相での濃度(または蒸気圧)と異なることが多いが、一定の関係性を持つ。気液平衡データは実験的に決定することが可能であり、ラウールの法則(Raoult's law)、ドルトンの法則(Dalton's law)、ヘンリーの法則(Henry's law) などの理論を用いて近似することもできる。

この気液平衡の情報は、蒸留(distillation)、特に蒸留塔(fractionating column)の設計に役立つ。特に、分留(fractional distillation) において重要であり、化学工学の専門技術のひとつである[1][2][3]。蒸留は、混合物中の成分を、沸騰(気化)と凝縮の過程を利用して分離または部分的に分離する操作である。この過程では、液相と気相における成分濃度の違いを利用する。

複数の成分を含む混合物では、各成分の濃度をモル分率(mole fraction) で表すことが一般的である。モル分率とは、特定の(気相または液相)における、ある成分のモル数を、その相に含まれるすべての成分のモル数の合計で割った値である。

二成分系(binary mixture)は、2つの成分からなる混合物である。三成分系(ternary mixture)は、3つの成分からなる混合物である。四成分以上の混合物の場合も気液平衡データは存在するが、グラフで表現するのは難しくなる。気液平衡データは、系の全圧(1気圧やプロセス圧力)に依存する。

温度がある値に達すると、液体成分の平衡蒸気圧の総和が系の全圧と等しくなる(通常はそれより小さい)。このとき、液体から発生した気体の泡が、系の全圧を維持していた気体を押しのけるようにして発生し、混合物が沸騰する。この温度をその圧力における沸点(boiling point) と呼ぶ。(全圧が一定に保たれるように、系の体積を適切に調整すると仮定する。)特に、全圧が1気圧のときの沸点を「標準沸点」(normal boiling point)と呼ぶ。

気液平衡の熱力学的記述

熱力学の分野では、気液平衡が成立する条件やその性質について記述する。気体と液体が単一成分か混合物かによって、解析方法が大きく異なる。

純物質(単一成分)系

液体と気体が純物質(単一の分子成分のみで、不純物を含まない)で構成されている場合、両相の平衡状態は以下の式で表される。

沸点の図

上記の平衡関係式は通常、それぞれの相(液相または気相)について適用されるが、結果を一つの図にまとめることができる。二成分系の沸点図では、温度(T)または圧力を縦軸に、モル分率x1を横軸にとる。特定の温度(または圧力)において、あるモル分率の気体が、異なるモル分率の液相と平衡状態にあることが一般的である。これらの気体および液体のモル分率は、同じ水平の等温線(一定温度T)上の二つの点として表される。温度と気・液相のモル分率の関係をプロットすると、通常二本の曲線が得られる。下側の曲線は、様々な温度における沸騰する液体のモル分率を示し、泡立ち点英語版曲線(沸騰開始曲線)と呼ばれる。また、上側の曲線は、様々な温度における気体のモル分率を示し、露点温度曲線(露点曲線)と呼ばれる[1]

この二つの曲線は、混合物が純粋な成分になる点(x1 = 0(かつx2 = 1、純成分数2)またはx1 = 1(かつx2 = 0、純成分数1))で必ず交わる。これらの点における温度は、それぞれの純物質の沸点に対応する。

特定の物質の組み合わせによっては、2つの曲線がx1 = 0x1 = 1の間のある点で一致することがある。このとき、両曲線は接するように交わり、2つの温度が異なる場合には露点温度(dew-point temperature)は必ず沸点温度(boiling-point temperature)よりも高くなる。この曲線が一致する点は、その物質の組み合わせに特有の共沸点(azeotrope)と呼ばれる。共沸点は共沸温度(azeotrope temperature)および共沸組成(azeotropic composition)によって特徴づけられ、通常はモル分率で表される。共沸点には2種類あり、最大沸点共沸(maximum-boiling azeotrope)と最小沸点共沸(minimum-boiling azeotrope)が存在する。最大沸点共沸では、沸点曲線の中で共沸温度が最も高くなり、最小沸点共沸では、共沸温度が最も低くなる。

三成分混合物の気液平衡データを沸点の図(boiling point diagram)として表現する場合、三次元グラフを用いることができる。この場合、2つの軸は成分のモル分率を表し、3つ目の軸が温度を示す。もし、二次元で表現する場合、組成は正三角形として描かれ、その各頂点が純物質を表す。三角形の辺上の任意の点は両端の2成分の混合物を示し、三角形内部の点は3成分すべてを含む混合物を表す。各成分のモル分率は、その成分の頂点から対辺に向かって垂直に引いた線上の位置で決まる。このとき、泡立ち点(bubble point)と露点(dew point)のデータは、三角柱状の空間内に曲面として描かれ、3つの成分の沸点をつなぐ形になる。この三角柱の各面は、対応する二成分系の沸点図を表す。しかし、このような三次元の沸点図は視覚的に複雑なため、実際にはあまり使用されない。代わりに、三次元の曲面を二次元グラフに変換する方法として、等高線図のように等温線(isotherm lines)を描く手法がある。この場合、泡点と露点のデータをそれぞれ独立した等温線として表現する必要がある。

K値と比揮発度

K値(分配係数)のグラフ(UNIQUAC英語版の最適フィット曲線) クロロホルム/メタノール混合物

ある化学種が液相と気相のどちらを優先して分配するかを表す指標として、ヘンリー定数(Henry’s law constant)がある。4種類以上の成分を含む混合物の気液平衡データも存在するが、これらの沸点図を表やグラフで示すのは困難である。そこで、多成分系や二成分系の気液平衡データは、K値(気液分配係数、気液平衡分配比)[1][2]を用いて定義される。

低温範囲における軽質炭化水素系のK値
高温範囲における軽質炭化水素系のK値

二成分系の混合物では、2つの成分のK値の比が比揮発度αと呼ばれる。

気液平衡図

二成分混合物の各成分について、気液平衡図を作成することができる。この図では、液相のモル分率を横軸、気相のモル分率を縦軸にとる。気液平衡図において、成分1と成分2の液相モル分率はそれぞれx1およびx2で表され、対応する気相モル分率は一般にy1およびy2で表される[2]。二元混合物についても同様に、気液平衡図に記載されている。




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