金属の気化熱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/23 09:09 UTC 版)
いくつかの例外(ビスマス、水銀、アンチモン、アルカリ金属)を除くと、気液平衡にある金属蒸気は単原子理想気体とみなせる。したがって、これらの例外を除けば不完全気体の補正は不要であり、データ集に記載されている金属の蒸発熱の値はそのまま、金属原子が金属結合に打ち勝って沸騰するために必要なエネルギーとみなせる。気液平衡にあるビスマス蒸気は Bi 原子と Bi2 分子を同程度に含む混合物なので、それぞれの蒸発熱を求めるには二つの化学種の分圧を求める必要がある。 金属のモル当たりの昇華熱は、金属結合で結ばれた 1 モルの金属結晶の塊をバラバラにして 6.02×1023 個の原子にするのに必要なエネルギーに相当する。遷移金属の昇華熱は、数百キロジュール毎モルの程度である。 金属は概して高融点・高沸点であり、金属の違いによる沸点の差も大きい。そのため、金属結合の結合エネルギーを評価する場合、蒸発熱よりも昇華熱の方が有用である。標準圧力 p° の下で固体が仮想的な理想気体に相転移するときの昇華エンタルピーを、標準昇華エンタルピー(英語: standard enthalpy of sublimation)という。記号は ΔsubH° である。昇華エンタルピーを表す記号 ΔsubH の右肩に記号 ° を付けて、気体が仮想的な状態であることを示している。標準圧力 p° は 1 bar または 1 atm である。温度は何度でもよいが、通常は 25 ℃ における値がデータ集に記載されている。水銀を除く全ての単体金属は 25 ℃、1 bar で固体であるので、単体金属の固体の標準生成エンタルピー ΔfH°(s; 25 °C) はゼロである。よって、25 ℃ における(水銀以外の)金属の標準昇華エンタルピー ΔsubH°(25 °C) は、データ集に記載されている金属原子の標準生成エンタルピー ΔfH°(g; 25 °C) に等しい。 金属の標準昇華エンタルピー (25 ℃, 1 bar)金属元素記号ΔsubH° / kJ mol−1セシウム Cs 076.06 カリウム K 089.24 ナトリウム Na 107.32 カドミウム Cd 112.01 亜鉛 Zn 130.73 マグネシウム Mg 147.70 リチウム Li 159.37 カルシウム Ca 178.2 バリウム Ba 180 鉛 Pb 195.0 ビスマス Bi 207.1 銀 Ag 284.55 スズ Sn 302.1 ベリリウム Be 324.3 アルミニウム Al 326.4 銅 Cu 338.32 金 Au 366.1 クロム Cr 396.6 鉄 Fe 416.3 上の表に挙げた標準昇華エンタルピー ΔsubH° の値は、金属結合で結ばれた 1 モルの金属結晶の塊を 6.02×1023 個の原子までバラバラにするのに必要なエネルギーに相当する。すなわち、ΔsubH°(25 °C) はこれらの金属の 25 ℃ における原子化熱(英語版)に等しい。金属の原子化熱は、ボルン・ハーバーサイクルを用いてイオン結晶の格子エネルギーを計算する際に必要となる数値である。
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