理想気体の考察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/14 14:37 UTC 版)
気体分子運動論の考え方の例として、一辺の長さ L の立方体に閉じこめられた、熱平衡状態にある理想気体を考える。気体は質量 m の分子 N 個で構成されていて、立方体の各稜はそれぞれ x軸、y軸、z軸に平行であるとする。 分子間の衝突を無視すると、各分子は立方体中を自由に飛び回り、壁に衝突しては跳ね返る。 ここである一つの分子の速度を v、そのx成分を vx とすると、その分子の持つ運動量のx成分は mvx となる。そして分子が立方体のx軸に垂直な壁に弾性衝突すると、分子は壁に平行方向の速度を変えず、垂直方向では速度の大きさを変えずに向きが逆になるから、壁に受け渡される運動量は壁に垂直で大きさが 2mvx となる。ところで分子が左右の壁の間を一往復するのに要する時間は 2L/vx であるから、十分な長さの時間間隔 t の間には、一方の壁に vxt/(2L) 回衝突する。従ってその間に壁に渡される力積は f x t = 2 m v x ⋅ v x t 2 L {\displaystyle f_{x}t=2mv_{x}\cdot {v_{x}t \over 2L}} となり、壁に及ぼす力の大きさは f x = m v x 2 L {\displaystyle f_{x}={{m{v_{x}}^{2}} \over L}} と求まる。 そして気体は N 個の分子からなるから、そのすべてからの寄与を足し合わせると、壁の受ける合力は壁に垂直で、その大きさ F は vx2 の平均値 vx2 を用いて、 F = N m v x 2 ¯ L {\displaystyle F={Nm{\bar {v_{x}^{2}}} \over L}} と書かれる。 ところで熱平衡状態では分子の速度分布は等方的だから、平均値でいえば、vx2 = vy2 = vz2、従って分子の速さ v について v2 = 3 vx が成り立つ。そして壁にかかる圧力は単位面積あたりの力であるから、結局 P = F L 2 = N m v 2 ¯ 3 L 3 {\displaystyle P={F \over {L^{2}}}={Nm{\bar {v^{2}}} \over {3L^{3}}}} そして L3 は気体の体積 V であるから P V = N m v 2 ¯ 3 {\displaystyle PV={{Nm{\bar {v^{2}}}} \over 3}} が得られる。 一方、この気体のモル数を n とすると、理想気体の状態方程式は PV = nRT(ここで R は気体定数、T は絶対温度)と書ける。そしてアボガドロ定数を NA とすると、N = nNA であるから、これらの式を組み合わせて 1 2 m v 2 ¯ = 3 2 k T {\displaystyle {1 \over 2}m{\bar {v^{2}}}={3 \over 2}kT} が得られる。ここで k = R N A {\displaystyle k={R \over {N_{\mathrm {A} }}}} はボルツマン定数である。 こうして、このような素朴な扱いでボイルの法則のみならず、理想気体の状態方程式と組み合わせて熱平衡状態での1分子の運動エネルギーの平均のような微視的量と温度のような巨視的量とを結びつけることが出来た。なおこの式は、熱平衡状態では運動の任意の1自由度に k T / 2 {\displaystyle \,kT/2} のエネルギーが分配されるという、古典統計力学のエネルギー等分配則の一つの現れである。
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