特殊化学品
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特殊化学品(とくしゅかがくひん、英: specialty chemicals)またはスペシャリティ化学品(スペシャリティかがくひん)は、多様な機能を付与する、他の多くの産業が依存する特定用途向けの化学製品群。特殊化学品の分類例には、接着剤、農業化学品、洗浄剤、着色料、染料、顔料、化粧品添加剤、建設用化学品、エラストマー、香料、芳香化合物、食品添加物、産業用ガス、潤滑剤、塗料、ポリマー、界面活性剤、繊維助剤が含まれる。自動車、航空宇宙、食品、化粧品、農業、製造業、繊維などの産業部門は、これらの製品に大きく依存している[1]。
特殊化学品は、その性能または機能にもとづいて用いられる材料である。このため、「エフェクト化学品」、「パフォーマンス・ケミカル」あるいは「フォーミュレーション・ケミカル」と呼ばれることもある。これらは、固有の分子である場合も、製剤としての分子の混合物である場合もある。単一分子または調製された分子混合物の物理化学的特性、ならびに混合物の組成が、最終製品の性能に影響を及ぼす。商業用途において、これらの製品を供給する企業は、多くの場合、顧客向けの革新的かつ個別の技術的解決に的を絞ったカスタマーサービスを提供する[2]。この点は、ファインケミカル、汎用化学品、石油化学品、医薬品といった化学産業の他のサブセクターと比較した際に、スペシャリティ化学品メーカーのサービスを差別化する要素である。
米国では、特殊化学品メーカーは 米国化学品製造者・関連業者協会(SOCMA)に加盟している。英国では、同種の企業が英国化学品協会(BCA)に加盟する[3]。SOCMAによれば、「特殊化学品は、それぞれが一つまたは二つの用途しか持たない場合がある点で汎用化学品と異なる。他方、汎用化学品は各化学物質ごとに数十の異なる用途を持ち得る。世界市場における生産量(重量ベース)の大半は汎用化学品が占める一方で、商取引における多様性(流通する化学物質の種類数)の大半は、その時々の特殊化学品が占める」。
製造
特殊化学品産業は、広義の化学産業の一部門であり、さまざまな用途に用いられる高付加価値の化学品・材料を生産する分野である。これらの化学品はパフォーマンス(性能)あるいはエフェクト(効果)化学品とも呼ばれ、特定の機能を発現させ、製品性能を高め、または特定の顧客要件を満たすように配合される。特殊化学品は、自動車、航空宇宙、農業、建設、電子工業、食品・飲料、パーソナルケア、医薬品、繊維など幅広い産業で用いられる。
特殊化学品は通常、バッチ化学プラントにおけるバッチ生産技法を用いて製造される[4]。バッチ生産とは、一定量の原料投入から一定時間で所定量の製品を得る方式である。一般に、正確に計量した出発原料を容器に投入し、撹拌、加熱、冷却、さらなる化学反応、蒸留、結晶化、分離、乾燥、包装などの工程を、あらかじめ定められたスケジュールに従って実施する。製造プロセスは、品質試験、保管・倉庫業務、製品物流、ならびに副産物や工業排水のリサイクル・処理といった管理活動によって支えられる。次の「バッチ」に向けて設備が洗浄され、上記工程が繰り返される。
特殊化学品の多くは有機化学品であり、消費者および産業向けの多様な日用品・工業製品に広く使われる。これは消費者主導型のセクターであり、その性格上、特殊化学品産業には革新性、起業家的機動性、消費者志向が求められる。規模の経済を達成するため単一製品の大規模設備で製造されることの多い汎用化学品と対照的に、特殊化学品の製造設備には高い柔軟性が要求され、製品、原料、プロセス、運転条件、設備構成が顧客ニーズに応じて定期的に変化し得る。
英国には、英国化学品協会(BCA)および英国化学工業協会(CIA)に加盟する特殊化学企業が多数存在する。これらの企業の多くはイングランド北部に製造拠点を置き、たとえば北東イングランドプロセス工業地域(NEPIC)の会員として名を連ねている。
世界市場
世界の特殊化学品市場規模は2021年に6,277億米ドルと評価され、2022年から2030年にかけて年平均成長率4.3%で拡大し、2030年には8,862億米ドルに達すると予測される[5]。これらの特殊化学品は、農薬、特殊ポリマー、電子化学品、界面活性剤、建設用化学品、産業用洗浄剤、芳香化合物および香料、特殊塗装用品、印刷インキ、水溶性ポリマー、食品添加物、製紙用化学品、石油化学品、プラスチック用接着剤、コーキング、化粧品用化学品、水処理用化学品、触媒、繊維用化学品として市場展開される。
2012年の世界における主要5セグメントは、特殊ポリマー、産業・業務用洗浄剤、建設用化学品、電子化学品、芳香化合物および香料であり、これらで約36%の市場シェアを占めた。上位10セグメントの合計は、特殊化学品年間売上の62%を占める[6]。
企業
特殊化学品市場は複雑であり、各事業セグメントは多数のサブセグメントから成り、それぞれが独自の製品・市場・競争プロファイルを有する。このため、多様なビジネスニーズと機会が生まれ、世界各地に多数の特殊化学品企業が存在する。多くは自社のニッチ製品や技術分野に注力する中小企業である。世界の400社超の特殊化学企業の普通株は、グローバルなビジネス・金融情報を提供するブルームバーグによって分類されている[7]。一方で、世界の証券市場に上場していない非公開企業も多数存在する。
2010年時点で、欧州の特殊化学品大手10社は、BASF、アクゾノーベル、クラリアント、エボニック、コグニス、ケミラ、ランクセス、ソルベイ、ワッカー、クローダであった[8]。定義上、特殊化学品は比較的少量生産であるが、欧州連合の化学品売上の28%を占める[9]。
米国の主要な特殊化学品企業としては、ルーブリゾール、ハンツマン (企業)、アシュランド、ケムチュラ、ロックウッド、アルベマールコーポレーション、キャボット、グレース (化学メーカー)、フェロ、サイテックインダストリーズが挙げられる[10]。
インドは特殊化学品の製造・供給国として台頭し、世界の特殊化学産業に大きな影響を与えた。インドの多くの特殊化学企業は、インド化学評議会(Indian Chemical Council)やインド特殊化学品生産者協会(Indian Speciality Chemical Manufacturers' Association)などの国内団体に加盟しており、その能力は特殊化学市場のあらゆる分野・サブセクターに及ぶ[11]。
英国には約1,300の特殊化学企業が存在し、年間売上高は112億ポンドに達する[12]。これらの企業の製品は世界中で販売され、英国の輸出に大きく寄与している。化学産業は300億ポンド超の輸出を有し、英国における最後の純輸出の製造産業であり[13]、その中で特殊化学品が重要な割合を占める。製品には、染料、塗料、爆薬、接着剤、芳香化合物および香料、写真用化学品、未記録媒体、各種産業用特殊化学品などが含まれる。汎用化学品メーカーと異なり大規模インフラへの依存度が低いため、特殊化学企業は英国のほぼすべての地域に分布する。英国化学産業のおよそ80%は同国北部に立地し、その結果、ヨークシャーやイングランド北東部のプロセス産業クラスター(NEPIC)の企業に特殊化学企業の集積が見られる[14]。
製品カテゴリー
特殊化学品は、概ね次のセグメントに分類される[15][16][17]。
- 接着剤・コーキング:自動車、建設、包装などの用途で、材料同士を接合し、漏れのないシールを提供する化学品。
- 触媒:自らは消費されずに化学反応速度を高める物質。石油化学、ポリマー製造など広範なケミカルプロセスで用いられる。
- 食品添加物:食品の味、食感、外観、保存性を高めるために添加される物質。
- 医薬品:処方薬・一般用医薬品の有効成分(API)および賦形剤。
- ポリマー:繰り返し単位からなる高分子。プラスチック、エラストマー、樹脂の原料として多様な産業で使用される。
関連項目
脚注
- ^ “what is speciality chemical manufacturing”. SOCMA. 2013年7月31日閲覧。
- ^ Stork, William (2004年). “Speciality Chemicals”. Chemical & Engineering News supplement 82. pp. 35–39
- ^ British Association of Chemical Specialties
- ^ Cussler, Moggridge and Moggridge (2001). Chemical product design. Cambridge University Press
- ^ Global Specialty Chemical (Report). Custom Market Insights. August 2022.
- ^ “Overview of the Specialty Chemicals Industry”. IHS. 2013年8月7日閲覧。
- ^ “Chemicals-Specialty Companies”. Bloomberg L.P.. 2013年8月7日閲覧。
- ^ Top 10 European Specialty Chemical Companies:Changing Business Models, Strategies and SWOTs (PDF) (Report). VPG Market Research. 2010.
- ^ UK Trade&Investment. “Chemicals–the UK advantage”. p. 34. 2013年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年7月10日閲覧。
- ^ The Top 10 US specialty chemicals companies: Response to Recession, Growth Strategies and SWOT Analysis (Report). Scripp Business Insights. July 2010.
- ^ Sustaining the India Advantage (PDF) (Report). Roland Berger Strategy Consultants. 2013年8月7日閲覧.
- ^ UK Trade&Investment. “Chemicals–the UK advantage”. p. 34. 2013年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年7月10日閲覧。
- ^ Elliot, Steve (November 2009). “UK chemical and pharmaceutical manufacturing:The heart of our economy” (Document). Chemical Industries Association.
- ^ UK Trade&Investment. “Chemicals–the UK advantage”. p. 29. 2013年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年7月10日閲覧。
- ^ “Specialty Chemicals Market Size, Trends, Analysis, Industry Forecast 2025” (英語). Technavio. 2023年5月4日閲覧。
- ^ “Global Specialty Chemical Market Size, Trends, Forecast 2030” (英語). Custom Market Insights. 2023年5月4日閲覧。
- ^ “Sharing insights elevates their impact”. S&P Global. 2023年5月4日閲覧。
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