火傷(やけど)
『春琴抄』(谷崎潤一郎) 盲目ながら美貌の春琴は琴の師匠をし、同居する弟子の佐助が事実上の夫だった。春琴は37歳の時、ある夜、何者かによって顔面に熱湯をかけられ、火傷を負った。医師の手当てを受けた後も、春琴は終日頭巾をかぶって顔を人に見せず、とりわけ佐助に顔を見られることを恐れた。
*『春琴抄』の発想源になった小説→〔像〕2の『グリーブ家のバーバラ』(ハーディ)。
『夏祭浪花鑑』「釣舟三ぶ内の場」 一寸徳兵衛の女房お辰は、主人筋にあたる玉島家の若君磯之丞を、大阪から備中玉島まで連れて行くよう依頼される。しかし、「お辰は美貌だから、磯之丞との間に間違いが起こるかもしれぬ。そうなったら、お辰の夫徳兵衛に顔向けできない」と危ぶむ人がいたので、お辰はその場にあった鉄弓(=火箸の類)で自分の顔を焼き、醜い傷をつける。
*同様の状況で、美男のばあいは自分の性器を切断する→〔去勢〕1の『閹人あるいは無実のあかし』(澁澤龍彦『唐草物語』)。
美人の出ない村の伝説 宇検村石原に、村一番の美女がいた。彼女はその美貌ゆえに、琉球王の侍女として沖縄へ行かねばならなかった。美女はそれをいやがり、自分の顔を火箸で焼いて傷つけ、沖縄行きを免れた。美女は「今後この村には、私のような美女が生まれないように」と太陽に祈り、以来、村には美人が生まれないようになった(鹿児島県大島郡宇検村石原)。
★3.地蔵菩薩や阿弥陀如来が、人の身代わりになって火傷を負う。
『さんせう太夫』(説経) さんせう太夫の息子・三郎が、安寿とつし王(厨子王)姉弟の顔に、焼き金を十文字に当てる。その後、姉妹は「山へ行って仕事をせよ」と命ぜられる。山道を登る途中、安寿とつし王は、互いの顔につけられた焼き金のあとが消えたことに気づく。膚守りの地蔵菩薩を見ると、2人の身代わりとなって、白毫(びゃくがう=眉間にある毛)の所に焼き金を受けていた。
*『山椒大夫』(森鴎外)では、現実に焼き金を当てられるのではなく、焼け火筋(ひばし)を当てられる夢を見る→〔額〕3。
『沙石集』巻2-3 金持ちの主人が、赤く焼けた銭を女童(めのわらわ)の片頬に当てて罰した。その後で主人は持仏堂へ行き、本尊である金色の阿弥陀立像を拝む。すると阿弥陀像の頬に、銭の形が黒くついていたので、主人は驚く。女童を呼んで頬を見ると、少しの傷もなかった。阿弥陀像の銭形は、金箔を何重に貼っても隠すことができなかった〔*『東海道名所記』巻1などに類話〕。
『チート』(デミル) 実業家夫人エディスは、日本人富豪の鳥居によって、左肩に焼きゴテを当てられた(*→〔金貸し〕1b)。エディスは拳銃で鳥居を撃って傷を負わせ、エディスの夫が「私が撃った」と言って罪を引き受ける。エディスは法廷で左肩をあらわして、焼き印の跡を裁判官や大勢の傍聴人たちに見せる。傍聴人たちは鳥居を罵り、エディスと夫は無罪になる〔*日本で「国辱映画だ」と非難の声があがり、後に、「日本人富豪鳥居」から「ビルマ人富豪ハカ・アラカウ」へ、設定が変更された〕。
『戦争と平和』(トルストイ)第2部第1篇 ロストフ家の少女ナターシャは、従姉ソーニャへの愛を証明するために、定規を火で焼いて肩の下に押しつけ、赤い傷あとを作った。
『月女のヤケドの跡』(アルゼンチンの民話) 昔は、女が男に命令していた。ある時、男たちは、女にだまされていたことに気づき、女たちを殺した(7歳以下の女児は見逃してやった)。月も女だったが、たいへん強いので、殺すことはできなかった。男たちは、地上に降りた月を捕らえて、火に入れた。その時の火傷のあとが、今も月にはある。
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