治安維持法制定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 14:34 UTC 版)
この間、共産主義その他の急進運動は著しく発展し、ロシア第3インターナショナル(コミンテルン)と通謀して資金提供その他の援助を受け、過激運動を計画し実行しようとする。これに加えて日露間に修好の基本条約が締結されたため、国交が徐々に回復して両国間の往来が頻繁になれば過激運動家が各種の機会を得ることも予想された。日本政府は、従来の法規制は抜け穴が多く罰則も軽いので取り締まりの効果が薄いという理由で治安維持法案を帝国議会に提出する。治安維持法案は第1条に「国体もしくは政体を変革し、または私有財產制度を否認することを目的として結社を組織し、または情を知りてこれに加入したる者は、ハ十年以下の懲役または禁錮に処す」「前項の未遂罪はこれを罰す」というものであり、国体とともに政体を挙げていたが、衆議院は政体のことを条文に掲げる必要がないとして「もしくは政体」の文字を削除して法案を可決する。治安維持法公布後に内務省警保局が官報に載せた各条義解によると、国体とその変革というのは次のことを意味する(大意)。 国体とは誰が主権者であるかの問題である。我が帝国は万世一系の天皇に統治される君主国体である。国体は歴史にもとづく国民の確信によって定まるものであり、成典(帝国憲法)によって定まるものではない。成典に国体に関する規定があるのは、ただ主権者がみずから既定の国体を宣言したに過ぎない。憲法第1条に大日本帝国は万世一系の天皇これを統治すると定め、第4条に天皇は国の元首にして統治権の総攬者であることを明らかにした。したがって、天皇以外が統治権の総攬者であることはなく、天皇に統治されない国土はなく、天皇以外が天皇に淵源しないで統治権を分担することはない。治安維持法第1条にいわゆる国体の変革とは、国民の確信である国体の本質に変更を加えることをいうのである。君主国体を変えて共和国体やソビエト組織にしたり、一切の権力を無視して国家の存在を否認したり、要するに統治権の総攬者である天皇の絶対性を変更する色彩のあるものは国体の変革である。そして暴動を要件としない点で内乱罪の予備や陰謀と異なるのである。 1926年、全日本学生社会科学連合会(学連)に属する学生ら38名が治安維持法違反等の疑いで検挙される。学連事件である。検挙後の5月に検事総長小山松吉が訓示して「学術研究の範囲を超越し、いやしくも国体を変革し、または社会組織の根底を破壊せんとする言論をなし、もしくはその実行に関する協議をなすに至りては、毫も仮籍する所なく、これを糾弾せざるべからず」と指示する。
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