欧米での現状
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 14:01 UTC 版)
アメリカ キリスト教徒が約8割を占めるアメリカ合衆国では、宗教との関連ではなく、衛生上の理由および子供・青少年の自慰行為を防ぐ目的などの名目で、19世紀末から包茎手術が行われるようになり、特に第二次世界大戦後、病気(性病、陰茎がんなど)の予防に効果があるとされ、普及するようになった。これには、医療従事者に割礼を行う宗教(主にユダヤ教)の信徒が多く、包皮切除に対する違和感が低かったため、という指摘もある。 1990年代までは生まれた男児の多くが出生直後に包皮切除手術を受けていた。アメリカの病院で出産した日本人の男児が包皮切除をすすめられることも多かった。しかし衛生上の必要性は薄いことが示されるようになり、手術自体も新生児にとってハイリスクかつ非人道的との意見が強まって、1998年に小児科学会から包皮切除を推奨しないガイドラインが提出された。これを受け、包皮切除を受ける男児は全米で減少してきているが、21世紀に入ってからもなお6割程度が包皮切除手術を受けている。 また、「身体の統一性」および「自己の決定権」という意識から、生まれたときに勝手に行われた包皮切除を嫌い、包皮の復元手術を行い「ナチュラル・ペニス」にしようとする人も少なくない。アメリカの社会学者・マスキュリストであるワレン・ファレルは男児への割礼強制を男性差別であると非難している。 ドイツ 2010年、イスラム教徒の子どもに割礼を行った際に出血多量となり、施術した医師が傷害罪で起訴される事件が起こった。2012年6月に出されたケルンの裁判所の判決で、医師は無罪となったものの「傷害罪」とみなされるという判断が示された。この判決に対し、ユダヤ教徒とイスラム教徒約300人がベルリンで異例の合同デモを行い、宗教の自由をめぐる激しい論争が繰り広げられた。同年12月、連邦議会で宗教的な割礼手術を法律的に保護する法案が可決された。 イタリア 2018年12月25日、イタリア・ローマ近郊モンテロンドの移民収容施設で、割礼(男性器の包皮の一部を切り取る風習)の失敗が原因で、2歳の男の子が失血死した。この男児の双子の兄弟も割礼を受けたが、病院で手当てを受け、快方に向かっている。地元メディアによると、施術した66歳の男が殺人容疑で逮捕・訴追された。地元メディアによると、この母親自身はキリスト教カトリック信者だが、ナイジェリアのイスラムの慣習を尊重して兄弟に割礼を受けさせた。 イタリアの公共医療機関は現在、割礼を行っていない。保健医療の慈善団体AMSIによると、イタリアでは毎年約5000件の割礼が行われているが、そのうち3分の1が違法に行われているという。 イギリスほか 第二次大戦後、公費負担医療制度 (NHS) に移行するにあたって、同制度でカバーされる各手術の費用対効果が求められた。リスクがメリットを上回るとの報告を受けて、包茎手術はカバーされないこととなった。その結果、イギリスや他のヨーロッパ諸国では包茎手術の割合は低下した。1970年代には、オーストラリアとカナダそれぞれの医師会が、新生児への定型的な包茎手術を推奨しないようになり、両国の包茎手術の割合も低下した。
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