映画用のデザイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/14 02:46 UTC 版)
1931年、モンテ・カルロにいる間にシャネルは共通の友人であったドミトリー・パヴロヴィチ大公を通じて映画プロデューサーのサミュエル・ゴールドウィンと知り合った。ドミトリー・パヴロヴィチ大公は最後のロシア皇帝(ツァーリ)ニコライ2世の従兄弟である。ゴールドウィンはシャネルに興味深い提案を行った。それは総計100万ドル(今日のおよそ7500万ドルに相当)の報酬でMGMのスターたちのための衣装デザインを依頼し、そのためにシャネルをハリウッドに2年間招聘するというものであった。シャネルはこの依頼を受け、友人のミシア・セールと共にハリウッドに渡った:121-123。彼女は「映画が私に何を与え、私が映画に何を与えられるかを確かめるために」ハリウッド行きに同意したと語った:163。 シャネルのハリウッド訪問は大きな話題を呼び、当代一流の映画関係者(美術監督のミッチェル・ライゼンや映画監督のセシル・B・デミルなど)がシャネルとともに仕事をした:127。また、彼女はマーヴィン・ルロイ監督の映画『今宵ひととき(英語版)』(1931年)でグロリア・スワンソンが身に着けた衣装と、ローウェル・シャーマン監督の映画『黄金に踊る(英語版)』(1932年)でアイナ・クレアが身に着けた衣装をデザインした。また、グレタ・ガルボとマレーネ・ディートリヒの二人が個人的な顧客となった。 しかし、ハリウッドにおけるシャネルのデザインは成功したとは言えなかった。たとえシャネルのデザインであっても、ハリウッドのスターたちは必ずしも喜びはしなかったし、毎回シャネルの衣装を身に着けることに抵抗もした:128。『ザ・ニューヨーカー(The New Yorker)』誌はシャネルとハリウッドがうまく連携できなかった理由を「シャネルは、一人の女性をまさしく一人の女性として表現しようとした。ところがハリウッドの人間は、一人の女性を演出する際、何よりもまず、まるで女性が二人いるかのように表現しようとする。シャネルは、そんなハリウッド式のスタイルがあるとは思ってもみなかったのだ。」と書き、シャネルのデザインは映画界の大物たちにとっては派手さが足りなかったのだろうと推測している:129。 シャネルはハリウッドでの経験について多くを語っていない。シャネルの伝記を書いたジャーナリスト・作家のマルセル・ヘードリッヒ(フランス語版)はハリウッドでのシャネルにほとんど触れておらず、エドモンド・シャルル・ルーはシャネルから苦労してハリウッドについての話を聞き出したことを語っているが、その話の内容は次のようなものであった。 「ハリウッドはどうでした?」「おしりとおっぱいの殿堂ってとこね。」...「キャバレーの<フォリー=ベルジェール>の夜会みたいなものよ。女の子はみんな綺麗で、羽根飾りをつけてた。それだけ」「でも……」「でもなんてないの。だいたい"超"がつくものなんて、どれもこれも同じよ。超性(性染色体の比率が乱れた中性の有機体)にしろ、超大型プロダクションにしろ……ああいうものはみんな、いつかかならずだめになる...」「ではハリウッドの雰囲気はどうでしたか?」「幼稚ね……ミジアなんか、私よりもっとうんざりしてたわ。私は笑ってただけ。いつだったか、ある有名な俳優さんのお宅に二人で招待されたことがあったんだけど、その俳優さん、私たちに敬意を表するためだとかいって、庭の木を青く塗っちゃってたの。気をつかってくれたんでしょうけど、ちょっと幼稚ね……」:125 しかし、シャネルがハリウッドで仕事をしたこと自体は大きな宣伝効果を発揮しており、また彼女はハリウッドの映画産業から「写真映り(photogeny)」の概念を学び取り、以降の仕事において「写真映り」に配慮するようになる:128。 シャネルのデザインがうまくハリウッドに適合しなかったことから、予定されていた二度目のハリウッド訪問は中止になり、ハリウッドとの関わりは終わった:129。しかし、シャネルはいくつかのフランス映画の衣装デザインは続けた。その中にはジャン・ルノワール監督の1939年の映画『ゲームの規則』があり、彼女は「ラ・メゾン・シャネル(La Maison Chanel)」としてクレジットされている。彼女はルノワールをルキノ・ヴィスコンティに紹介した。彼女はヴィスコンティというイタリア人が映画業界で働きたがっていることに気付いていた。ルノワールはヴィスコンティに好感を持ち、次の映画プロジェクトに彼を連れて行った:306。
※この「映画用のデザイン」の解説は、「ココ・シャネル」の解説の一部です。
「映画用のデザイン」を含む「ココ・シャネル」の記事については、「ココ・シャネル」の概要を参照ください。
- 映画用のデザインのページへのリンク