文化人類学者や考古学者たちからの新しい批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/04 14:44 UTC 版)
「ティワナク」の記事における「文化人類学者や考古学者たちからの新しい批判」の解説
長期的視点からみた実験の失敗から、2000年以降になると、スカ・コリュの生産性について、文化人類学者や考古学者の間で、異論が出始めている。ティワナク期に利用されていたことは間違いないが、その生産性や人口支持能力、ティワナク社会における生業基盤としての重要性などについては、疑問視する声が出始めている。 過去の実験では、ナス科植物の塊茎類で多く引き起こされる連作障害に対する考古学者らの知識がまったく不足しており、同じ土壌でジャガイモの連作を続けたため、寄生虫シストセンチュウ(Nematoda)が沸くという事態を引き起こしている。そのため、年々、生産性が減少した。アンデスでは、必ずといっていいほど輪作・休閑システムが採用されており、塊茎類(ジャガイモ)を続けて栽培することはない。次年度は別の作物を植えつけるか休閑を行う。これは土壌の地力回復というよりも、寄生虫などにより引き起こされる連作障害を避けるためであることが確認されている。休閑することで寄生虫の大量発生を避けるのである。ちなみに、このナス科植物の塊茎類に多く見られる寄生虫問題は、昨今、日本でも問題を引き起こしている。 こういった側面から、実際にはこれまで言われてきたほどの生産力がスカ・コリュには存在しなかったと考えられる。仮に単位面積あたりの総生産量を算出したとしても、毎年、同じ土地で収穫できるわけではないため、実際には非常に土地集約的な技術となり、生産高を維持してゆくためには相当量の土地が必要とされてしまう。しかも、その土地は水を十分に確保できる土地であることが最低限の条件となる。しかし、実際にはチチカカ湖畔か水量が豊かな河川沿いか地下水位の高い土地といった制約を受けてしまうのである。 上記にあげたアラン・コラータは、最盛期のスカ・コリュの生産量および人口支持能力を、現在の地表調査から推定されるスカ・コリュの広がりから求めている(Kolata 1991)。しかしながら、同時期に利用されていたと推定したスカ・コリュの広がり自体が、実際には輪作や休閑システムのため、彼の計算値の半分近くか、それ以下になってしまい、最終的には生産量および人口支持能力も同じように激減してしまう。そのため、スカ・コリュが生産技術としてどこまで有効でありえたのかは問題となる。 また、スカ・コリュの広がりも上で触れたように制約がある。チチカカ湖沿岸の表面調査(ペルー領およびボリビア領)から、スカ・コリュが、チチカカ湖沿岸の湿地帯か、そこから延びる河川沿いの一部、水源地帯などにしか広がっていなかったことが確認されている。そのため、天水農耕がティワナク期においても現代と同じように中心的技術であったことが確認されている。さらに、ティワナク谷下流域では、テラス(段々畑)が比較的広がっており、またコチャと呼ばれるため池農耕なども規模は非常に限られるが存在していたことが確認されている。 本来、スカ・コリュのような堀をめぐらせた盛り畑農耕は、パプア・ニューギニアやメキシコなど世界的に見ても、湿地帯向けの耕作技術である。ボリビア国内においてさえ、似たような堀を持つ耕作方法は、アマゾン地域の湿地帯モホスなどで多く見られる。堀の役目は給水よりもむしろ排水と考えられる。しかし、ティワナク谷は一部を除いてほとんどの地区で水が不足しがちである。短期の実験ではあまり問題にはならなかった水源も、長期あるいは永続的な利用となると水不足を引き起こしている。 ティワナク谷は全体でおよそ560から575km2あるが、スカ・コリュに利用されたと想定されている面積は、現在失われたものを想定して約60km2ほどとされている。同時に、チチカカ湖沿岸の湿地帯であるカタリ盆地では、調査者が踏査した総面積102km2中、スカ・コリュは70km2に広がっていたと想定されている。このことは、この技術が湿地帯向け技術であることを示している。また、ペルー領のチチカカ湖西岸(フリアカからプーノ、デサグワデーロ付近まで)の一般調査でも、現在確認できているスカ・コリュの広がりは、調査地域全体の28.5%ほどしかない。土地の改変を受け消滅したスカ・コリュがあった可能性はある。それでも、これまで言われるほどスカ・コリュがチチカカ湖盆地全体に広がっていたわけではないことがわかる。 上記でも述べたように、スカ・コリュの運営における効率性の面からも問題があげられている。つまり、単位面積あたりの生産性は高いものの、労働力の投入が天水農耕の4倍近く必要とされるため(労働集約的技術)、結果的に労働者一人当たりの見返りが極端に低くなる(単純計算で一般的天水農耕の約半分以下)というデータもある。 このような経緯から、この研究を指導してきた考古学者が主張するスカ・コリュの効率性や、算定したスカ・コリュによる人口支持力の計算値(スカ・コリュで何人の人口を養えるか)に対して、人類学者や考古学者の間で疑問視されはじめている。
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