批判に対する論説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 07:33 UTC 版)
「マスメディアに映る暴力の影響研究」の記事における「批判に対する論説」の解説
社会科学ではメディア間にありうる条件の差を制御するために無作為抽出実験を用いるが、これらは慎重に行う必要がある。一般的な研究では、子供ないし成人期前期は異なるメディア条件に無作為で割り当てられ、その後攻撃的になるきっかけがもたらされた場合に観察が行われる。因果関係を主張する研究者は、方法論的かつ統計的に確立された理論と実証的データに基づいた自身の研究を擁護している。 一部の結果の決定的でない性質に関して、因果効果を主張するメディア研究者は研究を誤って解釈したり選択的報告するのが批評家だと主張することが多い(Anderson et al., 2003)。議論の双方とも、自分達自身の「原因」に最も有利な別々の発見を強調している場合がある。 「第三の」変数に関して、因果効果を主張する暴力メディア研究者達は、他の変数が攻撃性に関与している可能性があること (Bushman & Anderson, 2001) や攻撃性が変数の集まった結果だと認めている。「第三変数」で知られるこれらの変数は、見つかった場合は恐らく媒介変数になる。媒介変数はメディア暴力の影響を「説明して切り抜ける」ことが可能である。例えば、攻撃的気質はメディア暴力の影響を緩和することが実証されていると一部の学者が主張しているが(Bushman)、幾つかの研究で「攻撃的気質」は暴力的メディアを目にすることと攻撃性の間の関連性を説明しているよう見える。他の変数も暴力メディアの影響を緩和することが分かっている (Bushman & Geen, 1990)。もう一つの問題は、実験的研究が潜在的な交絡変数を扱う方法である。研究者は無作為抽出を使って一般に第3変数として引用されるもの(つまり、性別、攻撃的気質、暴力メディアへの嗜好)の影響を中和しようとしている。実験計画は条件について無作為抽出を採用しているため、実験結果におけるそうした従属変数の影響は無作為(体系的ではない)と想定されている。ただし、相関研究でも同じことが言えるわけではなく、相関研究でこういった変数を統制できないと研究の解釈を限定してしまう。多くの場合、性別のような単純なものが、暴力メディアの影響を「媒介」できることが証明されている。 攻撃性に関して、問題は攻撃性の定義とはあまり関係がないかもしれないが、むしろ研究で攻撃性をどのように計測するかと、攻撃性と暴力犯罪が世間の目にどのように相互変換可能に使用されるかが問題である。 この問題における議論の多くは「小さな」影響と見なされるものに関する曖昧さを中心に展開しているように思える。因果関係を主張するメディア暴力研究者は、暴力的メディア効果で指摘された影響の大きさが医学界で重要だと考えられている医学研究の一部で発見されたものと類似すると論じている(Bushman & Anderson, 2001)、とはいえ医学研究が社会科学と同じく解釈の一部欠陥に難儀する可能性もある。ただし、この議論は不備のある統計に基づいたものだと反論されている(Block & Crain, 2007)。この両名は先の社会科学者たち(Bushman&Anderson)が医療効果の大きさを計算ミスしていたことを発見した。医療科学と社会科学どちらの影響の規模もその解釈は始まったばかりの状況である。 より最近では、因果効果を主張するメディア暴力研究者が社会的なメディア消費と暴力犯罪率はあまり関連がないことを認めているが、これはよく理解されていない他の変数による可能性が高いと主張している。 しかし、この(他の変数による)影響は現時点のメディア暴力理論での説明が乏しく、メディア暴力研究者は反証不可能な理論に後退しないよう注意する必要があるだろう(Freedman, 2002)。 因果関係を主張する研究者は、現実世界と比べてテレビで見られる暴力行為の不一致が大きいと主張している。ある研究では、現実世界で発生する犯罪の頻度と、米国のAmerica's Most Wanted、Top Cops、American Detectiveといった現実に基づくテレビ番組で流される放映される犯罪頻度を比較した(Oliver, 1994)。犯罪の種類は暴力犯罪と非暴力犯罪の2つのカテゴリに分類した。すると、現実世界で起こる犯罪の87%は非暴力犯罪なのだが、テレビで流される犯罪で非暴力犯罪と考えられるものは13%だけだった。メディアと現実の犯罪との間にあるこの不一致は、メディアの影響理論を支持するどころかはほぼ間違いなく反論であろう。昔の幾つかの研究はボクシングの試合を殺人と結び付けていた、ところが他の研究者たちはそうした繋がりが環境的な誤謬を連想させると考えている。何らかの因果関係を実際に確立するには、さらに多くの研究が必要である。 大まかに総括すると、メディアで描かれる暴力と現実世界の暴力との間に直接的因果が確認できるとは言えないが、何らかの相関関係は否定できないので、両者の違い(相関関係と因果関係)を踏まえて曲解せずに批判を行うべきだという論説である。ただし、実験における計測方法論や定義問題に関する批判(これらは科学として仮説を確かめる上では非常に重要)に対する反論はなく、メディアの影響を研究する人達が乗り越えるべき課題も大きいと言える。
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