強制管轄受諾宣言
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国際司法裁判所規程第36条第2項によると、各国は法律的紛争について、同一の義務を受諾する他国との関係において、特別の合意を成すことなしにICJの管轄権を義務的なものとして受諾する旨を宣言することができる。これを強制管轄受諾宣言、または選択条項受諾宣言という。ここでいう法律的紛争として具体的に規程第36条第2項には、条約の解釈、国際法上の問題、国際義務の違反となるような事実の存在、損害賠償の性質または範囲、が規定される。強制管轄受諾宣言は一定の範囲内でICJの義務的管轄を除外することも合わせて宣言される(これを「留保」という)ことが多く、宣言を行っている国の間では、互いに同一の義務を受諾する旨が宣言されている範囲内においてのみICJの強制管轄権が発生する。以下にニカラグアとアメリカの宣言を引用する。 ニカラグアの強制管轄受諾宣言アメリカ合衆国の強制管轄受諾宣言1929年9月24日私はニカラグア共和国を代表し、常設国際司法裁判所の管轄が無条件に強制的であることを認める。 T.F.メディナ 私、アメリカ合衆国大統領ハリー・S・トルーマンは(中略)、アメリカ合衆国が、今後生じる(中略)法律的紛争についての国際司法裁判所の管轄を同一の義務を受諾する他の国に対する関係において(中略)義務的であると認めることを(中略)宣言する。(中略)ただし、この宣言は次のものには適用されない。 (略) (略) 判決によって影響されるすべての条約当事国が裁判所に提起された事件の当事者である場合(中略)を除き、多国間条約の下で生ずる紛争 この宣言は5年の効力期間を有し、その後はこの宣言を終了させる通告がなされた後、6箇月が満了する時まで効力を有する。 1946年8月14日ワシントンにおいて作成。 ニカラグアによる1929年の宣言はICJではなく常設国際司法裁判所(PCIJ)の強制管轄を受諾する宣言であったが、ICJ規程第36条第5項により、戦後設立されたICJの強制管轄受諾国とみなされるとニカラグアは主張した。この点を含めアメリカはICJには本件を審理する管轄権がないことを主張したが、ICJは以下のようにこれを退けたのである。 論点アメリカの抗弁判決ニカラグアのPCIJの管轄受諾宣言の有効性1929年にニカラグアは宣言を行ったが批准書を寄託していないため同宣言の効力は発生しておらず、PCIJの強制管轄をICJが継承する旨を定めたICJ規程第36条第5項の適用対象とはならない。 ニカラグアは1929年宣言の後に批准書を寄託しなかったが、1946年以降批准書未寄託という注釈つきではあったがICJの年鑑に強制管轄受諾国としてリストアップされ続け、ニカラグアもこれを特に否定をしなかったため同国はこれを黙認したものと解される。ニカラグアが批准書を寄託すれば効力は生じたであろうし、ニカラグアの宣言は無条件のものであったので無期限の潜在的効力を持っていた。この黙認によりニカラグアはICJ規程第36条第2項に基づくICJの強制管轄受諾を認めたこととなり、そのためニカラグアがアメリカに対して「同一の義務を受諾する国」であると結論する。 本件でのアメリカの宣言の有効性1984年4月6日(ニカラグアによる提訴の3日前)に「1946年の管轄権受諾宣言は、中米の国家との紛争や中米における事件から生じる紛争には適用されない」と、自国の宣言を「修正」する通告をICJに行っており、これは効力を生ずるために6ヶ月を要する「終了」には該当せず、この「修正」によりICJの管轄権は本件には及ばない。 アメリカの宣言によれば、「この宣言を終了させる通告がなされた後、6箇月が満了する時まで効力を有する」こととされており、アメリカの通告は同国宣言の部分的終了であるため通告の効力発生のためには6ヵ月の期間を経なければならず、そのため同通告をもってアメリカの宣言を無効にすることはできない。 影響を受ける他の多国間条約当事国判決によって影響されるすべての条約当事国が裁判所に提起された事件の当事者である場合を除いて多国間条約の下で生じる紛争はICJの強制管轄から除外しており、エルサルバドル、コスタリカ、ホンジュラスといった本案判決が下された場合に影響を受ける可能性がある国々が本件の当事者となっていないにもかかわらずニカラグアは国連憲章や米州機構憲章といった多国間条約上のアメリカの義務違反を主張しており、そのためアメリカの強制管轄受諾宣言は本件には及ばない。 アメリカの宣言が言うところの「影響される」国について、その認定主体を同国宣言は明らかにしておらず、「影響される」国が存在するならば個々の国が自国の利益保護のために訴訟を提起するか、または本件訴訟に参加表明をするか、いずれかを選択することになる。しかし仮にICJがニカラグアの請求を却下すればそうした第三国の請求はなくなることになり、そのためすべての「影響される」国が参加しているかどうかについては結局ICJが判断せざるを得ないが、これは事件の本案に関する実質事項にかかわる問題であり、したがってアメリカの宣言における多国間条約に関する留保についての抗弁はもっぱら先決的性質を有する事柄ではない。 上記のようにICJは常設国際司法裁判所(PCIJ)の強制管轄受諾国としてのニカラグアの地位を否定したが、ニカラグアが批准書を寄託していなかったにもかかわらず、戦前のPCIJの強制管轄をICJが継承する旨を定めたICJ規程第36条第5項によりニカラグアの宣言が拘束力を生じたとする多数意見の論理展開は批判されることも少なくなく、実際に先決的判決に反対した5名の裁判官もこの点を指摘している。
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