堰と河川環境
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/03 23:41 UTC 版)
堰完成以後、堰を通過する管理用道路は「高瀬大橋」と命名され、広島県道271号八木広島線として地域の重要な道路となっている。また、高瀬堰によって出来た貯水池はカヌーの練習などに使われ、地域の憩いの場所にもなっている。だが、ダムや堰の建設に伴いどうしても避けて通れない問題として、漁業を始めとした河川生態系への問題があった。 建設されていた頃は利根川河口堰(利根川)の漁業への影響が指摘されていた時期でもあり、長良川河口堰(長良川)建設への反対運動が繰り広げられていた。太田川は天然アユが遡上する河川であったが、高瀬堰完成以後その数は減少を続けていた。ただしアユの減少は複合的な要因が大きく、旧来からある全ての堰による遡上阻害、広島湾埋立てによる浅水域の減少、下水道普及の遅れによる水質汚濁の進行(1994年(平成6年)頃までは高瀬堰地点において環境基準を大きく上回る大腸菌群が連年検出されている)といった要因も大きく、一概に高瀬堰が原因とは云えなかった。だが、高瀬堰の完成による遡上阻害要因の増加、更に可部発電所から放流される水がアユの生育に不適な水温の低い水であり、冷水病によるアユのへい死が要因である事も事実である。アユ減少を食い止める為太田川漁業協同組合は琵琶湖産の養殖アユを毎年放流して、漁獲量の増加を図ろうとした。これはある程度の成果を挙げたが、今度はアユの産卵時期が太田川では例年10月頃であったのが1ヶ月ほど早まる状況となり、こうした生育サイクルの変動も天然アユ減少の一因となっていた。 この状況を打開すべく太田川漁業協同組合は養殖アユの放流に頼っていたアユ漁獲高の回復事業を転換し、卵を放流することで天然アユの生息数自体を回復させる「天然アユ遡上復活作戦」を実施する事とした。太田川における天然アユの産卵場は高瀬堰の直下流部、河口から10km程度の一帯である事から遡上を補助する為の高瀬堰の対応が注目されるようになった。堰を管理する国土交通省は魚道の改善などを行っていたが、根本的な対応策として堰の弾力的運用を図ることとし、2005年(平成17年)10月にゲートを開放してアユの成魚回遊を補助する試験を行った。 ダムと環境について河川工学を始め自然環境(魚類・鳥類・植物など)の専門家が特定多目的ダムの環境対策について議論・検討する諮問機関「ダム管理フォローアップ委員会」が国土交通省によって設けられたが、高瀬堰については2006年(平成18年)1月13日に「第10回中国地方ダム等管理フォローアップ委員会」の会合が開かれ、『高瀬堰定期報告書』が作成された。この中で高瀬堰については植生分布・鳥類生息状況・水質など殆どの項目に関して環境基準を維持しているという調査結果が出されたが、唯一魚類については『回遊魚(アユ)への影響が一部ある』との報告がなされた。委員会の答申では更なるゲートの運用変更も検討すべきという意見が出され、国土交通省も対策を検討している。なお、太田川漁協では天然アユの遡上状況を継続して追跡調査を行うとしている。 回遊魚遡上回復は容易なことではないが、既に信濃川の西大滝ダムと宮中取水ダムにおいて環境回復のための河川維持放流を行ったところ一時は殆ど姿を消したサケが戻って来始めているという事例もある。官民による継続的な対策が今後の課題となっている。
※この「堰と河川環境」の解説は、「高瀬堰」の解説の一部です。
「堰と河川環境」を含む「高瀬堰」の記事については、「高瀬堰」の概要を参照ください。
- 堰と河川環境のページへのリンク