器官属と形態属
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 08:54 UTC 版)
器官属および形態属はともにシュテルンベルクによって用いられた概念で、長い間化石植物はこれに沿って記載命名がなされてきた。 器官属(きかんぞく、英: organ genus)はもとの化石が何らかの科に分類できるような特徴を備えているものに使用された分類群である。器官属は現生の植物を分類する際に用いられる分類階級に当てはめることができるような、比較的自然な分類群として扱われてきた。それに対し、形態属(けいたいぞく、英: form genus)は、上記のような系統的な類縁関係が不明で、単にある形態を持った化石を記載するための分類群である。 例えば、化石小葉植物であるリンボク類の植物の幹にはレピドデンドロン Lepidodendron という名が与えられている。また、その基部にあり、二又分枝をおこない根を生み出すリゾモルフと呼ばれる器官にはスティグマリア Stigmaria という名が、生殖器官に対してはレピドストローブス Lepidostrobus の名が与えられている。これらはすべてリンボク科 Lepidodendraceae に分類される器官属である。それに対し、シダ種子類の一群が作る種子であるパキテスタ Pachytesta は、特定の科には分類できない形態属である。 リンボク科植物の復元図(全体像) レピドデンドロン Lepidodendron の樹皮化石 スティグマリア Stigmaria のリゾモルフ化石 レピドストローブス Lepidostrobus の胞子嚢穂化石(下から見た図) レピドストローブス(右)とヒカゲノカズラ(左) 様々なリンボク類の化石(器官属) 石炭紀の植物化石を含む岩石にはシダ状の葉化石が多くみられる。19世紀初頭に石炭紀の植物化石が本格的に採集・研究されるようになってから、数百の種を含む多くの属が認識されるようになった。初めのうちは現生シダ類と比較し同定しようとされたが、19世紀後半には、その多くが実際にはシダ類ではないのではないかという考えられ始めた。これらの化石の同定には、標本の大半が生殖器官や胞子嚢をもたず、認識される種の中には断片的で保存状態の悪い標本に基づいていることが問題となった。これらの「化石シダ」の多くは、見た目の美しさから蒐集されたが、それにより博物館の収蔵品は生物学的な重要性の低いもので膨れ上がってしまった。逆に、良質な生殖器官のある標本が1つあれば、多数の非生殖器官のみからなる標本よりもはるかに多くのことが分かる。ただし、このようなシダ状葉化石から様々な形状のものを認識した研究者により、層位学的研究に効果的に利用できるようになったのも事実である。このような化石の重要性はさておき、その多さは無視できないものである。全体的な形態形質は似ているものの生殖器官が含まれないことにより自然分類ができないシダ状の葉は形態属として定義された。以下のような多くのシダ状葉化石に対する形態属が与えられた。 Adiantities - 羽葉は3回から4回羽状複葉で、細い葉軸を持つ。小羽片は切形または円形の葉端をもち、倒卵形か楔形。(cf. Adiantum) Alethopteris - 羽葉は数回羽状複葉で、小羽片の基部が広がって軸につながり、羽片の中肋と鋭角を形成する。すべての種ではないが、メズロサ類のシダ種子類の軸を付けることがある。 Alloiopteris - 最終羽片が線形で細長く、種によって程度の差はあるものの、かなりの大きさの羽葉であったと推定される。線形の羽片と特徴的な裂片の形態により識別される。 Diplotmema — 葉軸が均等に叉状分岐を行い、その下部には小羽片はない。小羽片は深く細かく分かれ、 Sphenopteris 型の小羽片と癒合するが、葉身全体としてはSphenopteris 型よりもずっと小さい。 Linopteris - やや珍しいが、特徴的な形態をしている。小羽片は Neuropteris に似ているが、開放系の叉状分岐する Neuropteris の脈理と異なり、細かい目の網目状の脈理を持つ。 Lonchopteris - 珍しい形態属の一つ。Alethopteris の小羽片とよく似ているが、網目状の脈理を持つ。 Pecopteris - 数回羽状複葉の大きな羽葉を持つ多くの種を含む。多くは胞子嚢穂を持つことが分かり、別属に分けられた。小羽片はほぼまっすぐで、基部全体に付着し、葉脈はまばらに分岐している。 Neuropteris - よく見られるグループで多くの種を含み、そのほとんどすべてがシダ種子類の葉で、種子が付着しているものもある。小羽片は基部で縮み、非常に細い軸か葉柄につく。 Mariopteris - 大きな集団を含み、種の識別が特に困難である。小羽片は基部全体についており、Pecopteris と Sphenopteris の中間形である。裂片は後者に似ているが、普通それほど顕著ではない。一部の種では、葉はウラジロ類 Gleichenia のように均等に叉状分岐する。 Rhacopteris - 羽葉は1回羽状複葉で、小羽片は互生し、全縁から深裂の扇形をしていてしばしば重なり合う。 Rhodea - 小羽片は実質的に葉身がなくなるまで深く切れ込む。ただし、この形態属の種と Sphenopteris や Diplotmema のある種の間に本当に属レベルの差異があるのかどうかは疑問である。 Sphenopteridium - 葉は2回羽状複葉。葉軸は基部で叉状分岐し、小羽片は多少楔状で多様に分岐する。 Sphenopteris - 羽葉は2~4回羽状複葉で、小羽片は基部が縮み、ほぼ全縁から様々な切れ込み方をし、また鈍い裂片や尖った裂片を持つものまで様々である。 Alethopteris Linopteris Lonchopteris Pecopteris Neuropteris Mariopteris Rhacopteris Sphenopteris 古生代のシダ状葉化石(形態属) このような器官属や形態属は何れもある特徴を持った分類群として記載されており、細部が分からない印象化石として記載された場合と、細部の形質まで保存されており解剖学的特徴が明らかにされている鉱化化石として記載された場合とでは属の判定基準が異なるという問題点を抱えていた。そのため、これらの概念は廃止されることになる。
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