古生物学への応用
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ステロイドの前駆体であるオキシドスクアレンは、スクアレンのエポキシ化によって生成する。この酵素反応には分子状酸素が必要となるため、ステロールを含めてステロイドの生合成には酸素が不可欠となる。嫌気性の真核生物がステロールを自身で合成できないのはこのためである。過去の地層中には当時の生物が合成したステロイドが化石化された状態で保存されており、これらのステロイド(バイオマーカーと呼ばれる)は真核生物および大気中における酸素の存在を示す指標として用いられている。一方で、ステロイドと構造的に類似するホパノイドと呼ばれる物質が主に細菌によって合成されており、地層中に残る化石化したホパノイドは細菌の存在を示す指標として用いられている。ステロイドと異なり、ホパノイド合成は酸素を必要としない。オキシドスクアレンではなく、スクアレンが直接環化されてホパノイドを生じる。 ステロイド合成酵素(シクロアルテノール・シンターゼおよびラノステロール・シンターゼ)とホパノイド合成酵素(スクアレン・ホペン・シクラーゼ)、さらにテトラヒマロール合成酵素(スクアレン・テトラヒマロール・シクラーゼ)はすべてアミノ酸配列に相同性が見られ、共通祖先から分岐したと推測される。ステロイド、ホパノイド、テトラヒマノールはすべて、スクアレンを出発物質として合成されるトリテルペノイド(C30テルペノイド)と呼ばれるグループに属する。
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古生物学への応用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/30 23:54 UTC 版)
天然の有機分子としては、地球上に最も豊富に存在する物質である可能性があり、その年代や起源によらずあらゆる堆積物中に出現する。DNAやタンパク質などの生体分子は続成作用の過程で分解されるが、多環脂質はその連結された安定な構造のため、地質学的なタイムスケールで環境中に存在し続ける。ホパノイドやステロールは堆積の過程で官能基が除去されホパンやステランに還元されるが、これらの飽和炭化水素は初期生命と地球の共進化の研究に有用なバイオマーカー(分子化石)である。 ロジャー・サモンズらは、オーストラリアのピルバラ地域にある27億年前の頁岩の中から、酸素発生型光合成細菌であるシアノバクテリア由来の2-α-メチルホパンを発見した。これらの頁岩に大量の2-α-メチルホパンが保存されていることは、少なくとも27億年前から酸素を生成する光合成が存在していた証拠として解釈され、これは24億年前から確認されている地球大気中の酸素の出現(大酸化イベント)に3億年も先行して酸素発生型代謝がすでに存在していたことを示唆する。しかし2-メチルホパンの酸素発生型光合成のバイオマーカーとしての完全性は、その後、シアノバクテリア以外の細菌、例えば光栄養生物であるRhodopseudomonas palustrisが無酸素環境下で2-メチルBHPを産生するという発見により弱まることとなった。さらに、すべてのシアノバクテリアがメチルホパノイドを生成するわけではないこと、メチルトランスフェラーゼHpnPをコードする遺伝子が光合成を行わないアルファプロテオバクテリアやアシドバクテリアにも存在していることを判明した結果、メチルホパンをシアノバクテリアおよび酸素発生型光合成のバイオマーカーとすることには疑問符が付けられることとなった。 さらにはピルバラクラトンの頁岩に含まれていたとされる27億年前のバイオマーカーは、その後の詳細な分析により後世の汚染物質であると結論付けられ、否定された。現在認められている最古のトリテルペノイドは、オーストラリアの盆地で得られた16.4億年前の中原生代の(メチル)ホパンである。ただし、分子時計による解析では、ホパノイドと生合成回路が大部分共通しているステロールはすでに23億年前頃、大酸化イベント(英語版)とほぼ同時期に出現していた可能性がある。そのため、合成に酸素を必要としないホパノイドはステロールよりもさらに早くから出現していた可能性がある。 ホパノイド合成酵素(スクアレンホペンシクラーゼ)は細菌に広く分布しているのに対し、ステロール合成酵素(オキシドクスアレンシクラーゼ(英語版))は真核生物および一部の細菌に限定される。オキシドスクワレンシクラーゼの基質(オキシドスクアレン)の生合成には酸素が必須であるため、オキシドスクアレンシクラーゼの出現は大酸化イベント以降と一般には考えられている。対してスクアレンホペンシクラーゼは分子系統解析の結果、大酸化イベント以前、細菌の進化の初期段階からすでに存在していた可能性が示唆されている。実際、ステロールと違いホパノイドの合成に酸素は必要とされない。そのため、ホパノイドは地球大気に酸素が出現する以前からステロールのように細胞膜の調整に利用されていた可能性がある。また、スクアレンホペンシクラーゼがスクアレンだけでなくオキシドスクアレンも環化する基質特異性の低さも、一部の科学者がオキシドスクアレンシクラーゼよりも進化的に先に生じていたと考える根拠となっている。ちなみに、スクアレンはスクアレンホペンシクラーゼに低エネルギーの全いす(chair-chair-chair-chair; CCCC)型立体配座で結合するが、オキシドスクアレンはより拘束されたchair-boat-chair (CBC)型立体配座でオキシドスクアレンシクラーゼに結合する。一つの説ではスクアレンホペンシクラーゼとオキシドスクアレンシクラーゼは、三環式マラバリカノイド(tricyclic malabaricanoid)または四環式ダンマリノイド(tetracyclic dammarinoid)を産生するシクラーゼの共通祖先から分岐したと考えている。
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