古代ギリシア以降・「国家」の形成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 15:22 UTC 版)
「家族・私有財産・国家の起源」の記事における「古代ギリシア以降・「国家」の形成」の解説
第四章から第八章は古代ギリシア、古代ローマ、古代ゲルマンの氏族共同体が紹介されている。いずれも氏族は国家に先行する社会組織であり、史書や現行制度の痕跡からそれを証明しようとしている。ただし、一様なものではなく、民族ごとに豊かな形態があることをエンゲルスは叙述している。一例として古代ギリシアと古代ローマの事例を紹介する。 エンゲルスは、ギリシアの諸部族の神話期の歴史からすでにいくつかの小さな統合部族に結集して、城壁で固められた都市に住んでおり、内部に氏族や部族が自立性をなお保持していたことを指摘しながらも、畜群や畑地耕作が拡大し、手工業がはじまるにつれて、人口は増加して富の差が増大すると、古い自然発生的な民主政の内部に貴族性的な要素が成長したことを示唆した。また、個々の部族団が最良の地域を占有したり戦利品を得るため、絶え間ない戦争状態におかれ、捕虜をもちいた奴隷制を導入したことを指摘した。 英雄時代のギリシアの制度から内乱の一世紀と呼ばれる共和政ローマの古典時代のうちに、歴史的転換の契機が見出される。エンゲルスは古い氏族制度がまだ生き生きとした力を持っていたのを見るが、すでにその崩壊の端緒をみることができると語っている。すなわち、父権制と子への財産の相続、これによって家族内での富の蓄積が支援されて家族が氏族に対立する一個の力となったこと。富の差が、世襲の貴族および王位の最初の萌芽を形成することによって、その制度に反作用をおよぼしたこと。奴隷制が、さしあたりはたんに捕虜をもちいた奴隷に過ぎなかったのに、ラティフンディアの発達など、すでに自己の部族員やさらには自己の氏族員をさえ奴隷化する展望をひらきつつあったこと。家畜・奴隷・財宝を獲得するための組織的な略奪が正規の営利源泉になりつつあり、やがて戦争行為が古代エジプト文明の栄華や、アッシリアやバビロニア文明の興亡、アレクサンドロス大王による東征や共和政ローマの膨張といった古代の諸文明の歴史を彩ったこと。要するに、富が最高の善として賛美され、尊敬されて、古い氏族秩序が富の暴力的な略奪を正当化するために乱用されたことが、古代文明の形成、すなわち、国家の成立の背景にあると語った。 エンゲルスの結論は明快である。第四章の末尾に簡潔に述べた。 「だが、(古代の氏族共同体には)一つだけが欠落していた。個々人が新たに獲得した富を、氏族秩序の共産制的伝統に対して保証したばかりではなく、また以前にはあれほど軽視された私有財産を神聖化し、この神聖化をあらゆる人間共同体の最高の目的だと宣言したばかりでなく、相次いで発展してくる財産獲得の諸形態、したがって不断に加速される富の増殖の新しい諸形態に、全社会的承認の刻印をおした一つの制度が。はじまりつつあった社会の諸階級への分裂を永遠化したばかりかでなく、有産階級が無産階級を搾取する権利や、前者の後者にたいする支配を永遠化した一つの制度が。そして、この制度は出現した。国家が発明されたのである。()内筆者加筆。」
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