取材源との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/09 02:44 UTC 版)
記者は報道すべき情報を情報源から入手する。情報源との信頼関係を維持するために、記者はニュースの解禁時刻を守らなければならない。また、継続的に特定の問題、組織を取材する場合、情報源とも継続的な関係を持つ。友好的につきあえれば、多くの情報を入手できるので、ジャーナリストは情報源との関係構築に努力する。情報源と親しい関係になると、ジャーナリストはより多くの情報を得られる一方で、中立的、客観的な報道がしにくくなり、情報源の側に立った報道になる可能性を持つジレンマが生じる。 情報への対価 情報提供者に対し、金銭や物品などで情報提供の見返りを与えることは好ましくない。情報提供者が、自らの持つニュースを必要以上にセンセーショナルに伝え、より高く売ろうとする動機が生じる。また、対価を提供することで、記者がそのニュース内容を信じたがる傾向が生じるからである。ジャーナリストが知った情報を報道しない代わりに、未公表である別の情報を提供するという形での対価もある。 報道に対する報酬の授受 情報を公表する、あるいは公表しないことによって、記者は金銭その他の報酬を受け取ることは、公正な報道を期待する読者の利益と背反するため、ほとんどの記者は認めない。同様の理由で、経済記者は自らの得た情報を自らの利益に用いたり、自らの取材対象である会社の株式を保有する、ということは非倫理的な行為とされる。 情報源の秘匿と明示 詳細は「実名報道#報道する側の実名について」および「オフレコ」を参照 記者には「背景説明(background)」など、公式発表以外で知り得た情報の情報源を公表してはならない「取材源の秘匿」が課せられている。情報源を公にすることで起こりうる、取材源の身体的安全や精神的利益の侵害から守るとともに、記者への信頼を保つことで、取材力を維持、向上させるためである。取材源秘匿原則は、記者が守るべき倫理義務として多くの国で認められている。法廷においても、取材源の秘匿を理由に記者は証言を拒否することが多いが、日本の民事訴訟では、記者の証言拒否を民事訴訟法上の「職業の秘密」の保持として認める判例がある一方、刑事訴訟では、認められていない。 しかし、内部告発など情報源を明らかにすると取材協力者に迷惑がかかる場合など、特に秘匿が必要とされる場合を除いて、情報源は明示すべきだと考えられている。匿名の情報提供者が、発言の責任を取ることなく、発言の報道によって世論やライバルの反応を探るなど、報道の効果を利用することになり、情報操作に悪用されることを防ぐためである。アメリカでは、情報源は可能な限り明示し、不明示の場合は理由を掲載し、出来る限り情報の出所を絞るようにしている。 報道資料の目的外使用の禁止 「取材者は自らの報道のために収集した資料は目的外に使用してはならず、事件などで捜査当局にも任意提出することも認められない」とする原則が記者には課せられている。ジャーナリストが「知る権利」に応えるためには、社会の協力が欠かせない。ジャーナリストの取材結果が、取材対象者の知らない間に権力者や対立相手の手に渡った場合、取材対象者に危害が及ぶ可能性がある(坂本堤弁護士一家殺害事件など)。また、ジャーナリストも取材対象者からの信頼を失うため、守るべき原則とされる。 盗撮、無断録音、おとり取材 詳細は「調査報道」を参照 調査報道では、取材対象が積極的な情報公開を行わないこともある。このため、ジャーナリストは探偵やスパイのようにオープンではない取材を行う必要も生じる。この場合、倫理とのジレンマが生じる可能性が高い。取材対象への録画、録音は相手の了解を得るのが原則である。盗撮や無断録音、身分を伏せたり、資料を盗むなどの取材行為も不正な手段とされる。しかし、取材に社会的意義があり、承諾も得るのが難しい際には、反論・証明用に例外的に認める、とするジャーナリスト・研究者もいる。
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