判例の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/05 21:16 UTC 版)
「著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)」の記事における「判例の特徴」の解説
米国著作権法における司法判断の特徴として、フェアユース (fair use、公正利用) の法理が挙げられる。一般的には、著作権者に無断で著作物を第三者が利用した場合、著作権侵害となる。しかし合衆国法典第17編 第107条 に基づき「批評、解説、ニュース報道、教育、研究または調査」などの利用シーンで 「使用の目的・性質」(非営利の教育など) 「著作物の内容」 「量・質の両側面から著作物が利用された割合」 「利用によって著作物の市場価値にどの程度影響を及ぼすか」(市場代替性) の4基準などを総合的に考慮して、著作権侵害に当たらないフェアユースであると判示されることがある。 第1基準については、原著作物を利用したいわゆるパロディなどの著作権侵害を巡って、被告側がフェアユースで抗弁することもある。これは第1基準で「変形的利用(英語版)」(transformative use、transformativeness) が認められているからである。 4基準のうち、第1基準の変形的利用、および第4基準の市場代替性の2点セットが他基準に優先して重視されているとの指摘がある。これは、元となった著作物とは異なる目的に変形されることで、元の著作物と市場で競合して経済的利益を損ねることなく併存できるためである。つまり、第1基準で営利活動だと認められても、変形度が高く第4基準に影響しなければ、フェアユース判定されることがある(例:「#キャンベル対アカフ・ローズ・ミュージック裁判」など)。 フェアユース以外では、著作権の保護対象物の定義を問う判例もある。その代表例が、特許権や商標権などの産業財産権と、著作権とを線引きする「アイディア・表現二分論」である。産業財産権は、産業の発展のためのアイディア・思想を強い独占性で保護する。一方アイディアそのものではなく、その文化的で創作的な表現を対象に緩い排他性で保護するのが著作権である (例: 「#ベーカー対セルデン裁判」など)。しかし実際には、アイディアと表現が一体化していて切り離せないケースもあり、表現に著作権の独占を認めるとその大元となるアイディアまで独占され、産業の発展が阻害されうる。このようなケースでは「マージ理論」で抗弁することもある (例:「#モリシー対P&G裁判」、「#サイエントロジー対ラーマ裁判」など)。 判例の年代別に見ると、米国連邦著作権法にはいくつか転換期がある。 「著作権法の歴史 (アメリカ合衆国)」も参照 1891年制定・同年施行の国際著作権改正法(英語版) (International Copyright Act of 1891、通称: チェース法) -- 米国内で流通する外国著作物も米国著作権法の保護対象となり、米国連邦裁判所の取り扱うことができる案件の幅が広がった (例: 日英米にまたぐ「#データイースト対エピックス裁判」、タイから米への逆輸入で争った「#カートサン対ワイリー裁判」など)。 1976年制定・1978年1月施行の改正法(英語版) (Copyright Act of 1976) -- 未発行の著作物は州法でしか保護されなかったが、1976年法により連邦法でも著作権保護の対象となったほか、判例のみで用いられてきたフェアユースの概念が初めて条文上で成文化された (判例上でフェアユースが確立されたのは1841年最高裁判決「#フォルサム対マーシュ裁判」である)。 1988年のベルヌ条約実施法(英語版) (Berne Convention Implementation Act of 1988またはBCIA) - ベルヌ条約加盟に求められる保護水準まで法強化し、著作権表示や著作権登録(英語版) (著作権の形式的手続) なしで著作物保護することとなった (無方式主義の採用)。ただし米国内の著作物についてはベルヌ条約の拘束を受けないため、出訴する際には登録を済ませておく必要がある (例: #ニューヨーク・タイムズ他対タシーニ裁判、#フォース・エステート対Wall-Street.com裁判など)。 1998年10月制定・同年施行のデジタルミレニアム著作権法 (通称: DMCA) -- インターネットの普及によりデジタル著作物が国際的に容易に流通するようになったことから:1–4、デジタル著作物に対する著作権侵害の罰則と免責が明文化された。DMCA成立後、国際的に大規模な著作権侵害の訴訟に発展したケースも存在する (例: 「#全米作家協会他対Google裁判」、約1兆円の損害賠償を請求した「#Oracle対Google裁判」など)。
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