個別労働紛争
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/27 16:25 UTC 版)
労働紛争のうち、集団労働紛争は労働関係調整法により早くから手続きが整備されていたが、個別労働紛争については労働基準法に定める監督行政によって紛争解決を担わせてきた。しかし労働基準監督官の管轄外である労働契約上の諸問題については対応しえず、個別労働紛争処理への対応としては不十分であった。そこで個別労働紛争処理システムの整備が求められ、2006年4月施行の個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争解決促進法)によって手続きが整備され、その中にあっせんの制度も導入された。 個別労働紛争解決促進法においてあっせんの対象となるのは個別労働紛争であるが、以下の紛争については除外される。 労働関係調整法第6条に規定する労働争議に当たる紛争 特定独立行政法人等の労働関係に関する法律第26条第1項に規定する紛争 男女雇用機会均等法第16条に規定する紛争 パートタイム労働法第20条に規定する紛争 育児・介護休業法第52条の3に規定する紛争 都道府県労働局長は、個別労働紛争解決促進法第4条でいう個別労働関係紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)について、当該個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において当該個別労働関係紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるものとする(個別労働紛争解決促進法第5条)。 詳細は「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律#紛争調整委員会」を参照 都道府県労働局長は、委員会にあっせんを行わせることとしたときは、遅滞なく、その旨を委員会の会長に通知するものとする。都道府県労働局長は、あっせんの申請があった場合において、事件がその性質上あっせんをするのに適当でないと認めるとき、又は紛争当事者が不当な目的でみだりにあっせんの申請をしたと認めるときは、委員会にあっせんを行わせないものとする(個別労働紛争解決促進法施行規則第5条)。 委員会によるあっせんは、委員のうちから会長が事件ごとに指名する3人のあっせん委員によって行う。あっせん委員は、紛争当事者間をあっせんし、双方の主張の要点を確かめ、実情に即して事件が解決されるように努めなければならない(個別労働紛争解決促進法第12条)。あっせん委員が行うあっせんの手続は、公開しない(個別労働紛争解決促進法施行規則第14条)。あっせん委員は、紛争当事者から意見を聴取するほか、必要に応じ、参考人から意見を聴取し、又はこれらの者から意見書の提出を求め、事件の解決に必要なあっせん案を作成し、これを紛争当事者に提示することができる。あっせん案の作成は、あっせん委員の全員一致をもって行うものとする(個別労働紛争解決促進法第13条)。 あっせんは紛争当事者の任意の合意に基礎をおいているものであり、事実調査についても強制的手段になじまないものであること。したがって、期日への出席は強制的なものではなく、また、出席できない場合には、紛争当事者は、許可を得て代理人を出席させたり、意見書を提出することで出席に代えることも可能であること(平成13年9月19日厚生労働省発地第129号/基発第832号/職発第568号/雇児発第610号/政発第218号)。 あっせん案の提示は、紛争当事者間の話合いを促進するために、紛争当事者の双方に対し、解決の方向性の案を示すものであること。したがって、調停案のように受諾勧告により紛争当事者に対してその受諾を勧めたり、仲裁裁定のように紛争当事者にその履行を義務付けるような性格のものではないこと(平成13年9月19日厚生労働省発地第129号/基発第832号/職発第568号/雇児発第610号/政発第218号)。 紛争当事者間に合意が成立した場合において、成立した合意は民法上の和解契約となるものであること。したがって、紛争当事者の一方が合意で定められた義務を履行しない場合には、他方当事者は、債務不履行として訴えることができるものであること(平成13年9月19日厚生労働省発地第129号/基発第832号/職発第568号/雇児発第610号/政発第218号) あっせん委員は、紛争当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする(個別労働紛争解決促進法第14条)。 あっせん委員は、次の各号のいずれかに該当するときは、あっせんを打ち切ることができる(個別労働紛争解決促進法第15条、施行規則第12条1項)。 あっせんを開始する旨の通知を受けた被申請人が、あっせんの手続に参加する意思がない旨を表明したとき。 あっせん委員から提示されたあっせん案について、紛争当事者の一方又は双方が受諾しないとき。 紛争当事者の一方又は双方があっせんの打切りを申し出たとき。 意見聴取その他あっせんの手続の進行に関して紛争当事者間で意見が一致しないため、あっせんの手続の進行に支障があると認めるとき。 前各号に掲げるもののほか、あっせんによっては紛争の解決の見込みがないと認めるとき。「あっせんによっては紛争の解決の見込みがないと認めるとき」とは、紛争当事者間の意見の隔たりが大きく、これ以上あっせんを継続しても進展が見込めない場合等をいうものであること。なお、「解決の見込み」の有無の判断については、あっせん委員3人の合意によって決すること(平成13年9月19日厚生労働省発地第129号/基発第832号/職発第568号/雇児発第610号/政発第218号)。 第15条の規定によりあっせんが打ち切られた場合において、当該あっせんの申請をした者がその旨の通知を受けた日から30日以内にあっせんの目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、あっせんの申請の時に、訴えの提起があったものとみなす(個別労働紛争解決促進法第16条)。 第16条は、あっせんが不調に終わった後に改めて訴えを提起したが、すでに消滅時効が完成していた場合には、当初から訴えを提起した場合と比べてあっせん制度を利用した者の利益が害されるという結果を生ずるので、そのようなことがないように保護を図るとともに、制度を安心して利用できるようにするために設けられた規定であること。第16条が適用されるのは、あっせんが第15条の規定によりあっせんによっては紛争の解決の見込みがないものとして打ち切られた場合であり、あっせん申請の取下げによる手続の終了の場合には、第16条の適用はないものであること(平成13年9月19日厚生労働省発地第129号/基発第832号/職発第568号/雇児発第610号/政発第218号)。
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