位相空間の圏とは? わかりやすく解説

位相空間の圏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/19 15:10 UTC 版)

数学の一分野である圏論における位相空間の圏(いそうくうかんのけん、: category of topological spacesTop あるいは は、位相空間対象とし、連続写像とする圏を言う。ただし、しばしば対象や射を特定のものに制限したり適当なものに取り換えたりするので注意が必要である(例えば、対象はしばしばコンパクト生成英語版と仮定する)。これが圏を成すことは、二つの連続写像の合成がふたたび連続となることによる。圏 Top および位相的性質圏論の手法を用いて研究する分野を圏論的位相空間論 (categorical topology) と言う。

注意: 記号 Top位相多様体と連続写像の圏の意味で用いる文献があるので注意が必要である。必要ならば TopSpTopMan などと書けば混乱は避けられる。

具体圏として

よく知られた圏の御多分に漏れず、位相空間の圏 Top具体圏英語版である(すなわち、対象が集合に構造(今の場合位相)を入れたものによって与えられ、なおかつ射はその構造を保つ写像となっている)。従って、集合の圏への自然な忘却函手英語版 U: TopSet が、各位相空間にその台集合を対応させ、各連続写像に台となる写像を対応させるものとして存在する。

この忘却函手 U左随伴 D: SetTop として各集合に離散位相を入れる(このとき任意の写像は離散空間上定義されることから自動的に連続になる)函手を持ち、また右随伴 I: SetTop は各集合の密着位相を入れる(このとき密着空間値の写像は必ず連続になる)函手で与えられる。実は両函手とも U の右逆である(すなわち UDUI はともに Set の恒等函手に等しい)。さらに言えば、離散空間の間の写像あるいは密着空間の間の写像は必ず連続となるから、両函手とも Set から Top への充満埋め込み英語版を与える。

具体圏としての Topファイバー完備、すなわち与えられた集合 X 上に可能な位相すべての成す圏英語版X の上にある U のファイバーと呼ぶ)は包含関係を順序として完備束を成す。このファイバーの最大元X 上の離散位相であり、最小元は密着位相である。

具体圏としての Top位相圏英語版と呼ばれるところのもののモデルである。位相圏は任意の構造化された始域 (structured source) (XUAi)I が一意な始持ち上げ (initial lift) (AAi)I を持つという事実によって特徴づけられる。Top において始持ち上げは、始域に始位相英語版を入れることで得られる。位相圏は多くの性質(例えばファイバー完備、離散函手および密着函手、極限の一意な持ち上げなど)を Top と共有している。

極限と余極限

位相空間の圏 Top完備かつ余完備、すなわち任意の小さい極限と余極限がともに Top 内に存在する。実は忘却函手 U: TopSet は極限および余極限の何れにも一意に持ち上げられ、それらを保つ。従って Top における(余)極限は Set における(余)極限に適当な位相を入れることによって得られる。

具体的には、FTop における図式として、(L, φ)Set に落とした図式 UF の極限であるとき、Top において対応する F の極限は (L, φ)始位相英語版 を入れることで得られる。これと双対的に、Top における余極限を得るには、それに対応する Set の余極限に終位相英語版を入れればよい。

多くの代数学的な圏と異なり、忘却函手 U: TopSet は極限を創出したり反映したりしない。これは典型的には Set における普遍英語版を被覆する Top の非普遍錐があることによる。

Top における極限および余極限の例を挙げる:

その他の性質

  • Top における単型射(圏論的単射)は単射連続写像で与えられ、全型射(圏論的全射)は全射連続写像、同型射同相写像で与えられる(双射連続写像は双型射だが同型射でないことに注意)。
  • 極値的単型射 (extremal monomorphism) は(同型を除いて部分位相空間の埋め込みであり、任意の極値的単型射は正則射 (regular morphism) である。
  • 極値的全型射 (extremal epimorphism) は(本質的に)商写像であり、任意の極値的全型射は正則射である。
  • 分裂単型射は(本質的に)引込み英語版の全空間 (ambient space) への包含写像である。
  • 分裂全型射は(同型を除いて)空間からその引込みの空間への連続な上への写像(集合論的全射)である。
  • Top には零射は存在せず、特に Top前加法圏とならない。
  • Topデカルト閉圏でない(したがってトポスにもならない)。これは任意の位相空間に対する指数対象がないことによる。

他の圏との関係性

  • 点付き位相空間 TopTop 上の余スライス圏英語版である。
  • 位相空間のホモトピー圏英語版 hTop は位相空間を対象とし、連続写像のホモトピー同値類を射とする圏である。これは Top商圏英語版になる。先の例と同様に点付きホモトピー圏 hTop も考えられる。
  • Top は重要な充満部分圏としてハウスドルフ空間の圏 Haus を含む。この部分圏で付与される構造はより多くの全型射を許すようにするものである。実は、この部分圏における全型射はちょうど、そのが終域において稠密となるような射になっている。つまりこの圏における全型射(圏論的全射)は上への写像(集合論的全射)となることを要しない。

参考文献

  • Herrlich, Horst: Topologische Reflexionen und Coreflexionen. Springer Lecture Notes in Mathematics 78 (1968).
  • Herrlich, Horst: Categorical topology 1971–1981. In: General Topology and its Relations to Modern Analysis and Algebra 5, Heldermann Verlag 1983, pp. 279–383.
  • Herrlich, Horst & Strecker, George E.: Categorical Topology – its origins, as exemplified by the unfolding of the theory of topological reflections and coreflections before 1971. In: Handbook of the History of General Topology (eds. C.E.Aull & R. Lowen), Kluwer Acad. Publ. vol 1 (1997) pp. 255–341.
  • Adámek, Jiří, Herrlich, Horst, & Strecker, George E.; (1990). Abstract and Concrete Categories (4.2MB PDF). Originally publ. John Wiley & Sons. ISBN 0-471-60922-6. (now free on-line edition).

外部リンク


位相空間の圏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/23 09:28 UTC 版)

位相の特徴付け」の記事における「位相空間の圏」の解説

詳細は「位相空間の圏」を参照 厳密に言えば本項における各定義は具体圏を定めるもので、それらの圏はどの二つ互いに具体同型であることが示せる。つまり、以下に定義する圏はどの二つとっても、圏の対象そのまま単に集合看做し、圏の射をそのまま集合の間の写像看做したとき、(集合の圏部分圏として)圏同型になる。 具体同型実際に構成することは、それほど明らかなものではなく概して面倒である。最も単純なやり方はおそらく、位相空間の圏 Top と各圏の間の互いに逆となる具体同型の組を構成することである。それには以下のような手順踏めばよい。 対象の間の逆対応定め、それが実際に逆になることを確かめて対応する対象が同じ台集合を持つものになっているかどうか確かめる。 集合間の写像がそれらの圏の射(つまり「連続」)となることと、Top における射(つまり連続写像)となることとの同値性確かめる。

※この「位相空間の圏」の解説は、「位相の特徴付け」の解説の一部です。
「位相空間の圏」を含む「位相の特徴付け」の記事については、「位相の特徴付け」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「位相空間の圏」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「位相空間の圏」の関連用語

位相空間の圏のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



位相空間の圏のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの位相空間の圏 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの位相の特徴付け (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS