普遍代数とは? わかりやすく解説

普遍代数学

(普遍代数 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/11 00:55 UTC 版)

数学の一分野としての普遍代数学(ふへんだいすうがく、: Universal algebra)あるいは一般代数学(いっぱんだいすうがく、: general algebra)は、構造の「モデル」となる例についてではなく代数的構造そのものについて研究する分野である。例えば、その研究対象として個々のを考えるのではなく群論そのものをその研究対象とするのである。

基本的な考え方

普遍代数学でいう代数 (algebra)(代数系)あるいは代数的構造 (algebraic structure) とは、集合 AA 上の演算(算法)を合わせて考えたものを言う。A 上の n-演算とは、An 個の元を引数に取り、A の一つの元を返す写像である。従って零項演算は単に A の元のこと、あるいは定数を意味することになる(これはしばしば a などのラテン小文字で表される)。単項演算は単に A から A への写像のことであり、これはその引数のまえに ~x のように記号を置くことでしばしば表される。二項演算はしばしば中置記法に従って x * y のように引数の間に記号を置く。多変数(項数は不特定でもいい)の場合には、通常の写像の記法に従って、引数をコンマで区切ってパーレンで括った f(x,y,z) や f(x1,...,xn) のような書き方をする。特定の場面では、無限項演算英語版が意味を持つ場合もあり、適当な無限添字集合 J を用いて

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2010年4月

手法が一貫していることに加えて、普遍代数学は深い定理や重要な例や反例も与えてくれる。つまり、新しい代数のクラスを研究し始めるのに際して有力な枠組みを提供するのである。特定の代数のクラスに対して発明された方法を、普遍代数学における言葉で書いておいて、それぞれのクラスにおける言葉として解釈すれば、他の代数のクラスにも適用するということができる。概念的な分類ということも可能である(J.D.H. Smith が言ったように「特定の枠組みでは乱雑で複雑に見えることも、真に一般の立場から見れば単純なものとなる」)。

特に普遍代数学はモノイドあるいはの研究に応用することができる。普遍代数学以前にもさまざまな定理(最も顕著なものは同型定理)がそれぞれの分野において個別に証明されてきたけれども、普遍代数学を用いればそれらは一度に他の任意の代数系に対しても証明できてしまう。

ヒギンズは (Higgins 1956) において特定の代数系の範囲に対する枠組みをよく追及していたが、(Higgins 1963) では部分的にのみ定義された演算を持つ代数についての議論(典型的にはそれが圏や亜群を成すこと)が特筆される。ここから高次元代数学英語版の主題が生まれ、それは幾何学的な条件で定義された定義域を持つ部分演算をもつ代数理論の研究として定義することができる。これらの重要な例は様々な高次圏や高次亜群の形で存在する。

圏論とオペラド

こうした方法論をより一般に推し進めたものは圏論において効力を発揮する。普遍代数学において演算と公理のリストが与えられたとき、対応する代数とその間の準同型の全体は、それらを対象と射とするを成す。圏論は普遍代数学がカバーしていない多くの状況にまで適用できて、さまざまな定理がその範囲を拡張される。逆に、普遍代数学において成立する多くの定理がすべて圏論におけるものへ一般化されるわけでもない。従って、それぞれの分野はそれぞれに有効である。

より演算を一般化した圏論の近年の発展は、オペラド理論である(オペラドは普遍代数学で扱うのと同様の演算の集合)。

歴史

1898年に著されたホワイトヘッドの著書 A Treatise on Universal Algebra において universal algebra という言葉は今日でいうのと本質的に同じ意味で使われていた。ホワイトヘッドはハミルトンド・モルガンらをこの主題の創始者として挙げ、この用語自体はシルベスターが作ったとしている[1]

そのころは、リー代数や双曲四元数といった構造が、結合的乗法性のクラスを超えて代数的構造を拡張することの必要性を示すものとして注目されていた。批評としてマクレーン英語版は "The main idea of the work is not unification of the several methods, nor generalization of ordinary algebra so as to include them, but rather the comparative study of their several structures." (「この仕事の主要なアイデアは複数の方法論を統一することでも通常の代数学をそれらを含むように一般化するものでもないが、それら幾つかの構造を比較する研究である」)と書いている。同じころ、通常の数の代数に対する強力なカウンターパートとしてのブールの論理代数が作られており、「普遍的」という語は張りつめた感覚を緩和する働きをした。

ホワイトヘッドの初期の成果は(ハミルトンによる)四元数グラスマン外積代数 (Ausdehnungslehre) およびブールの論理代数を統一的に扱おうとするものである。ホワイトヘッドは著書に

"Such algebras have an intrinsic value for separate detailed study; also they are worthy of comparative study, for the sake of the light thereby thrown on the general theory of symbolic reasoning, and on algebraic symbolism in particular. The comparative study necessarily presupposes some previous separate study, comparison being impossible without knowledge."[2](そのような代数は、独立した詳細な研究に対し内在的な価値を持っている。またそれらの比較研究も、それによって記号的な推論や特に代数記号を用いた方法論関する一般論に落とし込むために、大いに意味を持つ。比較研究はそれまでの独立したいくつかの研究を前提とする必要がある。知識無くして比較は不可能である)

と書いている。しかし、ホワイトヘッドはその一般性質については何の結果も得てはいない。この主題に関する成果はバーコフ英語版オレ英語版が普遍代数学の本を著す1930年代初めまでほとんどなかった。1940年代や1950年代のメタ数学圏論の発展はこの分野を推し進め、特にロビンソンタルスキモストフスキらやその学生らの結果がある (Brainerd 1967)。

1935年から1950年の間の期間に、バーコフの論文に示唆された路線に沿った多くの論文が書かれ、自由代数や合同、部分代数束、準同型定理などが扱われた。1940年代に数理論理学の発展から代数学への応用が可能になったけれども、それは非常にゆっくりとしたものであった。それらの結果が1940年代にマルチェフ英語版によって出版されたけれども、戦争の影響で注目されなかった。1950年のケンブリッジにおける国際数学者会議でのタルスキーの講義が、主にタルスキー自身、あるいは C.C. Chang、ヘンキンJónsson英語版リンドン英語版らによって展開されたモデル理論的側面での新たな研究の時代の先駆けとなった。

1950年代の終わりに、マルチェフスキ英語版[3]は、自由代数の重要性を強調して、マルチェフスキ自身と、Jan Mycielski, Władysław Narkiewicz, Witold Nitka, J. Płonka, S. Świerczkowski, K. Urbanik らによる自由代数に関する代数的理論について50を超える論文の出版を導いた。

関連項目

注釈

  1. ^ Grätzer, George. Universal Algebra, Van Nostrand Co., Inc., 1968, p. v.
  2. ^ Quoted in Grätzer, George. Universal Algebra, Van Nostrand Co., Inc., 1968.
  3. ^ Marczewski, E. "A general scheme of the notions of independence in mathematics." Bull. Acad. Polon. Sci. Ser. Sci. Math. Astronom. Phys. 6 (1958), 731–736.

参考文献

外部リンク


普遍代数

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モデル理論」の記事における「普遍代数」の解説

詳細は「普遍代数学」を参照 普遍代数の根本的な概念シグネチャ英語版) σ および σ-代数である。これらの概念構造英語版)の記事において詳細に定義されている。

※この「普遍代数」の解説は、「モデル理論」の解説の一部です。
「普遍代数」を含む「モデル理論」の記事については、「モデル理論」の概要を参照ください。

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